なぜハマスはイスラエルを攻撃したのか

ハマス・イスラエル紛争

クラウゼヴィッツの名言に、「戦争とは他の手段をもってする政治の継続である」というのがあります。 
この点はテロリズムだって同じでしょう。
テロも、「他の手段をもってする政治の継続」です。
すなわち、両者とも、「政治の継続」であり、政治の一部です。

政治の一部である以上、それらには目的があるはずであり、それを明確にしなければなりません。
理由は、第一、自陣営の構成員にその主張の正当性を認識させるためであり、
第二、相手側及び第三者に、自陣営の主張の正当性を訴えるためです。

戦争にしろ、テロにしろ、正邪善悪は、その目的との関係性によってしか判定できません。目的が明確である時のみ、それとの関係で善悪を評しうる。
もっと言うなら、戦争やテロにおいて、その目的が明らかにされている場合のみ、目的自身の正当性とそれを達成するために取られた手段との整合性・合理性を評価しうる。
逆に言うなら、戦争にしろ、テロにしろ、その目的が不明なら、正邪善悪は判定しようがありません。

昨年10月7日、パレスチナ・ガザ地区のイスラム(テロ)組織ハマスは、イスラエル領内へ向けて数千発のロケット弾を発射し、あるいは、その戦闘員は国境を越え、イスラエル人や同国内の外国人を千人以上殺害し、二百人以上を拉致し、連れ去ったという。

では、ハマスはこの度の軍事行動の目的を表明しているでしょうか。なぜこのようなことを行ったのか、彼らは公言しているでしょうか。
私が知る限り、彼らは目的を明示していません。要するに、政治目的は不明です(注)。

あるいは、ハマス憲章が彼らの行動の目的だという人もあるかもしれません。しかし、同憲章については、記述の内容と実際の行動は必ずしも一致していないとの指摘もあります。
そうであるなら、なおさらハマスは目的を明確にすべきなのです。しかし、彼らはそれをしていません。

なぜハマスはイスラエルを攻撃したのか。
理由は、分からないとしか言いようがありません。
そして先に述べたように、政治目的が不明なら、その行為の正邪善悪は評価しようがありませんし、目的と手段の整合性(取られた手段の適不適)も論じようがありません。

そのはずなのに、ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃以来、一部の人たちは、そもそもパレスチナ問題の原因は・・・やイスラエルの軍事行動はジェノサイドだなどと語って、ハマスに同情を寄せ、イスラエルを非難しています。
なぜ彼らはハマス寄りの姿勢を示すのでしょうか。
「ハマスの目的(動機)」と「『ハマスの目的(動機)』だと自分が考えること」の区別がついていないからでしょう。彼らは後者=前者だと誤解しています。

9・11テロの時もそうでした。
「アルカイダの目的」と「『アルカイダの目的』だと自分が考えること」の区別ができない人たちは、アメリカはなぜ世界で嫌われているのか反省しなければならない、などと見当違いなことを言っていました。

たとえば、ヤフー記事のコメント欄で次のような主張を見ました。

「なぜ、最初にハマスがイスラエルに攻め込み、虐殺行為をしたのか。それは、今まで、イスラエルがパレスチナに侵略行為をし、パレスチナ人を人間と見ていない行為をしてきたからです」

パレスチナはヨルダン川西岸地区とガザ地区に分かれていて、ハマスはガザの組織です。なので、彼らはパレスチナ全体の意思を表現する組織ではありません。パレスチナ=ハマスではありません。
この筆者は、ハマス=パレスチナ、そして、「ハマスの目的」と「『ハマスの目的』だと自分が考えること」の二重の錯誤を犯しています。

目的を明らかにしない軍事侵攻やテロは、何とでも解釈できます。
目的を公表すれば、相手側や第三者からツッコミを入れられるけれども、明示していなければ、「ハマスの目的」と「『ハマスの目的』だと自分が考えること」との区別ができない人たちが、上のように勝手に有利に解釈してくれる。
逆に言うなら、知的に軽率な人たちが有利に解釈してくれるので、テロリストは目的を明確にしない方が良いと言えなくもありません。が、しかし、そうすると、金銭目的や憎悪や破壊自体を目的としたテロ行為が発生した場合、政治目的を持ち、かつ合理的なテロとの区別がつかなくなるでしょう。

昨年10月7日の攻撃は、もしハマスが某国の指図によって、このような作戦を行ったのだとしたら?
勿論、そうだと断言しているわけではありません。ただ、そのような可能性だって皆無だとは言えまえせんし、あるいは、そのような疑いを生まないためにも、ハマスは軍事攻撃の目的を明示すべきなのです。

自由自在の解釈を許さないために、私たちは軍事侵攻やテロを行う者たちに、目的を明確にすることを要求しなければなりません。目的を明らかにしない者たちには一切忖度しないことで、それは可能になるでしょう。目的を明らかにした時のみ、それに基づいて軍事侵攻やテロの正邪善悪を論じるべきです。目的を公表しない場合は、成敗の対象とすべきです。
この点、今回のイスラエルの掃討作戦は、反撃が過剰だとの批判はありえますが、それ自体は正当だと判断すべきでしょう。

パレスチナ問題の原因に関する論議は、第一、この度の軍事行動でのハマスの目的は何なのか、第二、その目的を実現するための手段として、その行為は相応しかったのかという議論の後になされるべきです。

ウクライナ侵攻について、ロシアは目的を明確にしているのに(2022年2月24日のプーチン大統領による侵攻直前のテレビ演説)、殆んどの人たちはそれさえ読まずに非難する一方、ハマスは目的を明示していないのに、そもそもパレスチナ問題の原因はなどと語ってハマスの意図を忖度する。

話になりません。

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(注) 「ハマスがこの時点で過去最大規模の攻撃に踏み切った動機は判然としない」(https://www.tokyo-np.co.jp/article/288388)

【参考記事です】
https://shueisha.online/culture/168229

【追記】
この度の「戦争」は、ウィキペディアは「2023年パレスチナ・イスラエル戦争」で検索できるようになっていますが、本文で述べているように、ハマス=パレスチナではないですし、ハマスとイスラエルの戦いは、主権国家同士の争いではないので、戦争ではなく、「紛争」にすべきだと考えます。

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