同士討ち ウクライナ侵攻

1.同士討ち

勿論、アメリカを含めたNATO諸国には、そんな意図はないでしょうし、そんなことを真顔で言えば、陰謀論だとされて当然です。

しかし、ウクライナ戦争を見ていると、結果的に、NATO諸国が、汎ロシア諸国のメンバー(ロシア、ウクライナ、ベラルーシ)同士を戦わせて、とりわけロシアの弱体化を図り、その脅威を除去しようとしているように思えてなりません。

2.中策か下策

孫氏の兵法に、「百戦百勝は善の善なる者に非ず」というのがあります。その意味は、「戦わないで勝つことこそが、最もよい作戦である、という教え。(中略)『孫氏』の基本的な考え方は、戦いにおいては、自分の国や軍隊をできるだけ傷つけずにすませるのが最善で、実際に戦って相手を打ち破るのは、必ず損害を伴うから次善の策である、というもの」(コトバンク)です。

あらゆる「戦争」において、戦わずして勝つが上策であり、戦って勝つは中策であり、戦って負けるは下策です。
もはやウクライナとロシアには、中策か下策のどちらかの選択しかありません。両国とも、出口の見通しもなく、ズルズル戦いを続けているように見えます。
漁夫の利という故事がありますが、さて漁夫はアメリカなのでしょうか、それとも、中共なのでしょうか。

3.誤算

元々ロシアは、独立国としてのウクライナの存在には反対ではありませんでしたし、ウクライナに対して領土的な野心があった訳でもありませんし、兄弟国なのですから、その人民の抹殺を意図した訳でもありません。
ただ、対ロシア同盟であるNATOに、ウクライナが参加するのが許せなかった。NATOに加盟すれば、同国内に米軍の基地や核を含めた兵器が配備されるかもしれず、そうなったらロシアにとって大変な脅威だからでしょう。

ウクライナは戦争によって、多くの国民の生命を失い、多くの国民を難民にし、東部や南部といった領土を奪われました。勿論、今後それらの地域を奪還するかもしれませんが、それにしても、何と多くの犠牲を払うことになったことでしょうか。

ウクライナは、一体何のための戦っているのでしょうか。自国の独立のため、あるいは、ロシアの侵略を阻止するためだと言うのかもしれません。しかし、戦争前に、ロシアに領土的な野心があった訳ではない等は、今述べた通りです。ウクライナがNATOへの加盟を求めなければ、ロシアだって侵攻する必要はありませんでしたし、領土の保全も可能でした。多くの犠牲を払ってまで、NATOへの加盟を急ぐ必要があったのでしょうか。

これは誰も言いません。しかし、敢えて言いますが、ウクライナは自国ばかりか世界を戦争に巻き込もうとしている!

短期間でウクライナ侵攻の成果が出せなかったことについて、ロシアは誤算をおかしたと多くの人たちは言いますが、ウクライナもまた大きな計算間違いをおかしたのではないでしょうか。

主権国家は平等ではない

ー米露他大国の行動原理を理解するためにー

1.疑問

ロシアによるウクライナ侵攻では、奇妙な主張がなされています。
一般的には、それは正しいとされていますし、それを主張する当人たちも、その正しさを疑っていません。その奇妙な主張とは、

A 主権国家たるウクライナに侵攻したロシアの行動は、国際法に違反しており、侵略である(注1)。

ウクライナ侵攻を単独で眺めれば、全然奇異ではないのですが、2003年アメリカが行ったイラク侵攻と対比したら、やはり珍妙だと言わざるをえません。
イラクは主権国家でしたし、アメリカはそのようなイラクを攻撃し、フセイン政権を倒しました。もしウクライナ侵攻が侵略なら、イラク侵攻だって侵略でしょう(注2)。

ウクライナ侵攻は国際法違反であり、侵略であると言ってロシアを非難している人たちが、2003年当時もアメリカを非難し、同国に対しては経済制裁を、イラクに対しては軍事支援を行うことに賛成していたのなら、不思議ではありません。
しかし、イラク侵攻の時は、今日のロシアに対するようなアメリカ非難は沸き起こりませんでしたし、日本政府にしてからが、ウクライナ侵攻ではロシア非難で、イラク侵攻ではアメリカ支持です。
両者に対する主張が矛盾しています。

ウクライナ侵攻は侵略であり、イラク侵攻は侵略ではないと言う人たちは、

B 主権国家イラクに侵攻したアメリカの行動は、国際法に違反していないし、侵略ではない

との主張なのでしょうか、それとも、

b 主権国家イラクに侵攻したアメリカの行動は、国際法に違反しているけれども、侵略ではない

との主張なのでしょうか。しかし、Bは無理筋でしょう。ということは、Aとbから、彼らは、

C たとえ国際法に違反していても、他国の主権を侵しても良い国家または場合もある

と言っているのと同じです。

奇妙な主張の二つ目は、次のようなものです。

D 主権国家はどこの国と同盟を結ぼうが自由である。故に、ウクライナがNATOに加盟するのは自由である

主権国家には、行動の自由があり、どこの国と軍事同盟または軍事協定を結ぶのも、同盟国の軍隊を駐留させ、核を含む兵器を配備するのも自由であるのだとしたら、1962年にキューバがソ連の核ミサイルを配備するのを、アメリカは反対すべきではなかったということになります。
では、ウクライナがNATOに加盟するのは自由であると言う人たちは、当時キューバがソ連のミサイルを配備するのも自由だったとの立場なのでしょうか。

また、主権国家には行動の自由があるなら、台湾に対して、独立は支持しないとのアメリカの言明だって、主権国家台湾(同国は主権、領土、国民という国家の三要素を有する独立国であり、領域に他国の主権が及んでいない点で、明らかに主権国家です)の行動の自由を妨げていることになります。云うまでもなく、アメリカが台湾の独立を支持しないと言うのは、中共を刺激して、最悪の場合、戦争になるかもしれないからでしょう。
ウクライナがNATOに加盟するのは自由であると言っている人たちは、アメリカの台湾に対する干渉を、これまで批判してきたでしょうか、彼らは台湾が即時に独立宣言するのも賛成なのでしょうか。

Dの主張者は、ウクライナのNATO加盟同様、キューバへのソ連のミサイル配備や台湾の即時独立を是とするのでしょうか、それとも、非とするのでしょうか。是とするのなら、論理的一貫性がありますが、非とするのだとしたら、一貫性がないと言わざるをえません。
そして、Dの主張者は、恐らく殆んどが後者の立場でしょう。とするなら、彼らは実際には、

E 主権国家はどこの国と同盟を結ぼうが(即時独立を宣言しようが)自由である訳ではないし、その行動の自由が制限されても良い場合もある。しかし、ウクライナがNATOに加盟するのは自由である

と言っていることになります。

ところで、欧米が、台湾に対するように、ウクライナのNATO加盟は支持しないと表明していたなら、この度の戦争は起こらなかったでしょう。

2.仮説

AとbCは矛盾していますし、DとEも矛盾しています。
両者が矛盾している場合、何れかの立場が間違っているのを認め、意見を変えるか、つまり、一方の立場を選択し、他方の立場を放棄するか、それとも、両者が矛盾しない、論理的整合性がある新たな仮説を考案するかの何れかです。
後者の線で考えてみましょう。

【仮説1】
同盟国または友好国が行った、主権国家に対する侵攻は、侵略ではないけれども、敵対国または非友好国が行った主権国家に対する侵攻は、侵略である。同じことをしても、味方と敵、友好国と非友好国に対しては、違った評価が下される。同盟国等に対してなら非難しないことでも、敵対国等に対しては非難する場合がある。なので、友好国が多いほど、国際社会では有利である。

日本にとってアメリカは同盟国であるし、有事の際には来援を求めなければならないので、イラク侵攻は侵略ではない。一方、日本にとってロシアは同盟国ではないし、今日も海空からの脅威を受けているので、同国によるウクライナ侵攻は侵略である。

これは酷い主張ですし、明らかにご都合主義的です。しかし、国際社会の現実を眺めると、あながち否定はできません。次に浮かんだ仮説です。

【仮説2】
主権国家は平等ではない。
ある種の主権国家には、他国の主権を侵す権利があるが、ある種の主権国家には、その権利はない。ある種の主権国家は、自国の安全保障のためなら、他国の主権を侵す権利があると考えているし、必要とあらばそのように行動する。

すべての主権国家が平等なら、どの国も他国を侵す権利はないとするのが当然ですが、すべての主権国家が必ずしも平等ではないのだとしたら、ある種の国家は他国を侵す権利はあるという結論だって導き出せます。

これも酷い仮説ですが、国際社会の現実はどうなのでしょうか。
一言断っておかなければならないのは、ここでは、それが善いか悪いかではなく、事実か事実でないかを問題にしています。

では、改めて問います。すべての主権国家は平等でしょうか。
確かに国際連合憲章の第二条には、「1.この機構は、そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている」との文言はあります。しかし、一方で、国連安保理の常任理事国には、拒否権があります。

この度のウクライナ侵攻で、常任理事国が、とりわけロシアが拒否権を持っていることの不当が問題になりましたが、拒否権そのものを廃止するには至りませんでした。
拒否権を廃止すれば、国連は上手く運営できるのでしょうか。拒否権を持つ大国が、国連を離脱したら、その運営に支障をきたさないでしょうか。きたすでしょう。とするなら、国際社会が選択すべきは、常任理事国が拒否権を持つ実効性のある国連か、彼らが拒否権を持たない実効性のない国連かのどちらかになります。そして、国連加盟国は、前者を取らざるをえません。

国連安保理の常任理事国は拒否権を有する。これは、現実の国際社会では、主権国家は平等ではないことの証拠ではないでしょうか。また、核拡散防止条約では、一部の国にのみ核兵器保有が認められていますが、それも主権国家は平等ではないことの証拠でしょう。

3.上位の主権国家と下位の主権国家

プーチン大統領は2008年に、「核を持たない国は、主権国家の名に値しない」と言ったそうです。また、ロシア研究家・軍事アナリストの小泉悠氏は、2019年12月10日公開の「日本を主権国家だと認めていない!? ロシアの強気な言動の根拠」という記事で、プーチン氏の発言を引用しています。

「軍事・政治同盟の枠内においては、それ(主権)は公式に制限されています。何をしてよくて何がいけないか、そこに書いてあるんですよ。実際はもっと厳しい。許可なくしては何もしてはいけないのです。許可を出すのは誰か?上位の存在です。主権を持つ国はそう多くありません。ロシアはそれ(主権)を持つことを非常に重んじます。おもちゃのように扱うわけではありません。それ(主権)は利益を守り、自らを発展させるために必要なものです」

小泉氏の同記事には、下記のような記述もあります。

「ロシア国際法思想の専門家であるメルクソーが指摘するように、ロシアの国際法理解における主権とは、すべての国家に適用される抽象的な概念ではなく、大国のそれを特に指すものであり、大国の周辺に存在する中小国の主権に対しては懐疑的な態度が見られる。

オーストラリア外務省出身のロシア専門家として知られるローもまた、ロシアの言う主権とはごく少数の大国だけを対象とした極めて狭義なものであって、中小国は基本的に主権国家とはみなされていないとしている」

プーチン氏、あるいはロシアはすべての国連加盟国を主権国家だと見做していないようです。主権国家にはそれなりに条件が必要との主張らしい。プ氏は、「自らの運命を自由に決」することができるのが、主権国家であると語ったらしい。そして、そのような見地から、「『ドイツは主権国家ではない』と述べ」る一方、インドや中共は「主権を持つ国として挙げた」そうです。ということは、アメリカの「許可なくしては何もしてはいけない」ことから、当然日本もプーチン氏の言う主権国家ではないということになります。

プーチン氏の言ではありませんが、おおよそ核兵器を保有するか否かによって、主権国家は二種類に分けることができそうです。それを保有するのが「上位の存在」としての主権国家であり、それを保有しないのが、いわば下位の存在の主権国家です。そして、プーチン氏の言う主権国家とは前者のことであり、国連憲章第二条で云われる国家とは、前者と後者を含めた諸国のことになるでしょう。

主権国家は平等ではない。そして、主権国家には、上位の主権国家と下位の主権国家の二種類があり、国際社会において上位の主権国家には行動の自由があるけれども、下位の主権国家にはそれはない。

現実には、下位の主権国家とされる諸国は、大枠として上位の主権国家の意思には逆らえませんし、下位の国家の行動は、上位の国家に制限されています。台湾の独立は支持しないというアメリカの姿勢は、そして、それに反対しえない日台の態度は、その表現です。

これは、プーチン氏、あるいはロシアだけが信奉している原則でしょうか。違うと思います。それは、アメリカを含めた上位の主権国家が共有する不文律ではないでしょうか。国際社会においては、上位の主権国家にのみ行動の自由がある。だから、アメリカはイラクが主権国家(下位の)であるのを承知の上で、侵攻したのでしょう。

ジョージ・オーウェル流に言うなら、上位の主権国家の本音は、こうなります。

すべての主権国家は平等である。
しかし、ある主権国家は、ほかのものよりも
もっと平等である。

それが分かっているから、米露英仏支以外にも、いくつかの国は上位の主権国家を目指して核保有国になったし、いくつかの国はそれを目指しているのでしょう。一方、主権平等の原則を本気で信じているのは、下位の主権国家だけではないでしょうか。

上位の主権国家の準則は、次のようなものでしょう。
上位の国家は、自国の、場合によっては同盟国の安全保障のためなら、他国の(殆どは下位国家のそれですが)主権を侵すことも許される。
そして、アメリカも、ロシアも、中共も、イスラエルもそのように振舞っていますし、英仏印パだって、有事の際はそのように振舞うでしょう。
そのように考えれば、アメリカによるイラク侵攻も、ロシアによるウクライナ侵攻も、矛盾なく説明できます。

因みに、第二次大戦以前には、世界には核兵器はありませんでしたが、当時日本は上位の主権国家でした。だから、他国の、たとえば韓国の主権よりも、自国の安全保障を優先しました。

では、上位の主権国家にとって、主権平等の原則とは何なのでしょうか。
国連自体と同様、自国の都合の良い時には利用し、都合が悪い時には反故にする、便利な道具であると言えそうです。そして今、アメリカとNATOは、ロシア非難のために主権平等の原則を振り回しています。そして、下位の存在であるわが国他は、それに追随している。

<すべての主権国家は平等である>
これは、幻想でしょう。それが幻想であるのを知っているのは、上位国家のエリートたちだけであり、その国の大衆、下位国家のエリートも大衆も、その幻想の中に棲んでいるのではないでしょうか。

4.二つの仮説の適用

仮説1と仮説2を、ウクライナ侵攻に適用したら、以下のようになります。

たとえ国際法に違反しているにしても、上位の主権国家は自国の安全保障のためなら、他国の主権を侵す権利がある。
下位の主権国家イラクに侵攻したアメリカの行動は、国際法に違反しているけれども、侵略ではない。下位の主権国家ウクライナへ侵攻したロシアの行動も、国際法に違反しているけれども侵略ではない、はずだった。

同盟国及び友好国が多いアメリカのイラク侵攻は、国際社会は必ずしも侵略だとは判断しなかった。一方、同盟国や友好国が少ないロシアのウクライナ侵攻は、国際社会で力を誇るアメリカとその同盟国が支持しないから、侵略だと判断される。

上位の主権国家はどこの国と同盟を結ぼうが自由である。しかし、下位の主権国家はどこの国と同盟を結ぼうが(即時に独立を宣言しようが)自由である訳ではないし、その行動が制限されて良い場合がある。

たとえ下位国家であるにしても、アメリカが支持するから、ウクライナがNATOに加盟するのは自由である。一方、同じ下位国家であるけれども、アメリカが支持しないから、台湾の独立は自由ではない。
こんな感じでしょうか。

ウクライナとロシア、下位国家と上位国家の二国間だけで済めば、ロシアの思い通りになったでしょうが、ウクライナの側にはNATOが付いてしまった。その中には、米英仏といった上位の主権国家がいる。それが、もう一方の側の上位国家ロシアの誤算だろうと思います。

半ば本気、半ば冗談のような論説になりました。

(注1)
国際法に違反しているとは、国際連合憲章第二条4項「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」に違反しているとされています。

(注2)
「侵攻」(invasion)は、「敵地に侵入して攻めること。攻めて相手の領地にはいりこむこと」の意味で、「自衛の対義語である国際法用語としての侵略(aggression)とは異なり、必ずしも相手の主権や政治的独立を一方的に侵す目的とは限らない、価値中立的な概念である」。
一方、「侵略」は、「『略』は『かすめるとる』『攻めとる』『奪う』の意味で」、「武力攻撃によって他国領土を剥奪すること」、「土地や財物を奪い取ること」を意味するとされます。
(コトバンク「侵攻」、ウィキペディア「侵攻」「侵略」、コトバンク「侵略」より)


ウィル・スミス平手打ち事件とウクライナ侵攻

1.平手打ち事件の場合

周知の通り、3月27日に開催されたアカデミー賞授賞式で、プレゼンターのクリス・ロック氏がウィル・スミス氏の妻を侮辱する発言を行い、怒ったスミス氏がロック氏に平手打ちを食らわすという事件が発生しました。

この事件に関しては、賛否両論がありましたが、両者の評価に関しては、五つの立場がありうるでしょう。
第一、ウィル・スミス氏が全面的に悪い。
第二、クリス・ロック氏が全面的に悪い。
第三、両者の非は、50対50である。
第四、大部分の責任はスミス氏にあるけれども、ロック氏にも一部責任がある。
第五、大部分の責任はロック氏にあるけれども、スミス氏にも一部責任がある。

スミス氏は、事後同賞主催者や来席者に謝罪の言葉を述べましたし、翌日ロック氏にも謝罪しました。また、スミス氏は4月1日に映画芸術科学アカデミーから退会し、同8日同会は今後十年間、アカデミーのイベントへの出席を認めないと発表し、スミス氏はそれを受け入れると表明しました。

スミス氏の謝罪と処分から見て、第二、第五の立場を主張する人は全くと言っていいほどいないことが分かりますし、両者を同等に処分せよという意見がないことを見ても、第三の主張者も殆んどいないと思われます。わが国の芸能人の中には、自分が同じ立場にあったら、スミス氏と同様な行動を取ったという意見もネットで見た記憶がありますが、そう言う人たちだって、そのような行動が正しいとは考えていないでしょう。正しくはないけれど、感情的に許せないというものでしょう。

結局、事件に対する人々の評価は、第一と第四の二つに割れているのだと思います。

2.ウクライナ侵攻の場合

ロシアによるウクライナ侵攻も、平手打ち事件と似た構図だと思います。同侵攻に対する評価も、五つの立場がありえます。
第一、ロシアが全面的に悪い。
第二、ウクライナと米欧が全面的に悪い。
第三、両者の非は五分五分である。
第四、大部分はロシアが悪いけれども、宇米欧にも一部責任がある。
第五、大部分は宇米欧が悪いけれども、一部ロシアにも責任がある。

しかし、平手打ち事件と同様、第二、第五を主張している人は、見たことがありません。

第三の立場らしきことを言ったのは、4月12日東大の入学式の祝辞で、「例えば『ロシア』という国を悪者にすることは簡単である。けれどもその国の正義がウクライナの正義とぶつかり合っているのだとしたら、それを止めるにはどうすればいいのか。なぜこのようなことが起こってしまっているのか。一方的な側からの意見に左右されてものの本質を見誤っていないだろうか?」と述べた映画監督の河瀬直美氏くらいでしょうか。しかし、彼女だって両者が五分五分だと考えているのかどうか・・・・。
ロシア寄りの発言をしているとか、宇米欧にも責任があると言って、批判されている人たちがいますが、彼らはたいてい第四の立場ではないでしょうか。

ウクライナ侵攻に関する評価も、実際には、第一の立場と第四の立場とに分かれているだけだと思います。冷戦時代に、左(派)から見たら真ん中も右(派)に見える、という言い方がありましたが、それと同じで、第一の立場から見たら、第四の立場も、第三の立場、両者の非は五分五分=「どっちもどっち」論に見えるのだと思います。

スミス氏はロック氏に謝罪をしたのに対し、ロシアはウクライナに謝罪をしていないと反論する人もあるかもしれませんが、戦争の途上にあり、しかも今のところ攻勢の側にある国家が謝罪するとは思えませんし、事件に一部責任がある(と私が考える)ロック氏にしろ、宇米露の政治指導者にしろ、反省を表明していないのですから、ロシアだけに謝罪を求めるのは無理でしょう。

3.統一協会による同調圧力

この度のウクライナ侵攻で気が付くのは、従来の政治問題とは違って、意見の対立する二派が、左派対右派、ハト派対タカ派という風に分かれていないことです。各々の思想的立場の人たちが各々に分裂しています。

言えるのは、第一に立脚する人たちが多数派であり、第四に立脚する人たちが少数派だということです。しかし、前者は多数派なのですから、鷹揚に構えていれば良いと思うのですが、後者の人たちの発言が癇に障るらしい。多数派の人たちは、自分と違った意見の持ち主の存在自体が許せないようです。彼らは、ウクライナ侵攻に関する日本国民の意見を統一したいのでしょうか。
戦前のわが国のスローガンは、「鬼畜米英、一億一心火の玉だ」でしたが、現在は「鬼畜ロシア、一億一心火の玉だ」です。日本人は、八十年前から少しは進歩したのでしょうか。

ただ、少数派であり、不人気な意見である分、一般的に、第一の立場の人たちよりも、第四の立場の人たちの方が、自分の頭で考えているし、勇気もあるとは言えるでしょう。

4.正確な教訓と認識

自民党の政調会長高市早苗氏は、4月19日テレビ番組に出演しました。

「高市氏は、『ロシアによるウクライナ侵攻が始まった当初は、ロシアに対して経済制裁を行うのか、同盟を結んでいないウクライナに対して武器供与するのか、装備品供与するのか、各国で温度差があった』と指摘。しかし、ウクライナ軍が必死に戦っている状況が世界に報道され始めてから、周りの国々の態度に変化があり、特にアメリカについては、『同盟関係がないにもかかわらず、経済制裁を主導し、先進的な武器の供与を始めた。やはり自分の国を自分で守るという意思を明確にした国に対しては、同盟関係がなくても周りが助けてくれる。これは日本人にとってとっても教訓だと思う』と述べた」()

これまでも、「〇〇軍が必死で戦っている状況が」あったにも拘らず、「世界に報道され」ないがために、「周りが助けてくれ」ないという事例も、あったでしょう。その点、ウクライナは幸福ですが、一方、見捨てられた諸国とのダブル・スタンダードは気になります。

それはともかく、教訓はいく通りもありえます。
たとえば、日本は中共に対して抑止力を備えなくても、侵略された後に「自分の国を自分で守るという意思を明確にし」さえすれば「同盟関係がなくても周りが助けてくれる」という教訓だって導き出せます。

そのような誤った教訓を導き出さないためにも、抑止力を備えずに安易にウクライナのNATO加盟を認め、ロシアによる侵攻を招いてしまった宇米欧の政治指導者たちの過失は、問われてしかるべきでしょう。
正確な教訓を得るためには、正確な認識は不可欠です。不正確な認識からは、正確な教訓は得られません。

5.私のスタンス

これまでも書いてきましたが、ウクライナ侵攻に関する私の主張の根幹は、次の二つです。

第一、ロシアの言い分にも一理ある。
ウクライナがNATOに加盟すれば、同国にアメリカの軍隊なり、とりわけ核兵器が配備されるかもしれず、それはロシアにとって脅威である。

第二、この度の侵攻が発生したのは、宇米欧の政治指導者たちにも一部責任がある。

戦争は宇米欧対露になっていて、大局的にはロシアは敗北するだろうと思います。けれども、上記の第一と第二が真実なのは否定できません。
この二つの地点に錨を下ろしているので、私の小舟が波間を漂う(主張がブレる)ことは、今後も余りないだろうと思います。

経済制裁と軍事支援は何のため?

人々は、自分が乗っている列車の終着駅がどこなのか、分かっているのでしょうか。

1.その政治目的

またしても、クラウゼヴィッツを引用します。
「戦争は他の手段をもってする政治の継続にすぎない」
それを応用するなら、経済制裁および軍事支援は、他の手段をもってする戦争の継続にすぎない、となります。ということは、経済制裁および軍事支援は、他の手段をもってする政治の継続でもある、ということです。

「戦争は一つの政治的行為である」。
もしそうなら、経済制裁にしろ、軍事支援にしろ、「一つの政治的行為」なのですから、何らかの政治目的を目指しているはずです。
経済制裁や軍事支援が行われるのなら、ある政治目的を達成するための手段として、それらが行使されるはずです。

2月24日、ロシア軍はウクライナへ侵攻しました。それ以降、ウクライナはロシアに抵抗しています。
欧米(EUおよびNATO)そしてわが国は、ウクライナを支援するために、ロシアに対して経済制裁を、そしてウクライナに対して軍事支援を行っています。
それでは米欧日は、何のために、経済制裁なり、軍事支援なりを行っているのでしょうか。その政治目的は何なのでしょうか。

ロシアに対し、ウクライナへの侵攻を止めさせるためなのでしょうか。
ロシアでクー・デターなり、民衆の反乱なりを起こさせて、プーチン政権を転覆するためなのでしょうか。
プーチン政権よりもより増しな、できれば民主的な政権を作るためなのでしょうか。

ある政治目的を実現するための手段として、経済制裁や軍事支援を行っているはずですが、米欧日にそれについての共通理解はあるのでしょうか。

2.目的と手段

ドイツは、1月26日軍用ヘルメット5000個を供与すると発表して、ウクライナの失望を買いました。
ところが、2月24日侵攻が開始された途端に、ショルツ首相は、2月27日連邦議会で演説し、「『ドイツ連邦軍を、確実に祖国を守ることができる近代的な軍隊に作り替える』ために、『防衛予算が国内総生産(GDP)に占める比率を2%超に引き上げ、これを維持する』と明言した」そうです(注)。

侵攻後米欧日は、ロシアに対する経済制裁とウクライナに対する軍事支援の強化を段階的に進めました。米欧日は、政治目的は明確だけれども、相手の出方に応じて手段を変えているのでしょうか。
しかし、ドイツのブレ方が象徴的ですが、どうも当事国に目的と手段が明確に意識されているとは思えません。何らかの明確な政治目的を実現しようとしているというよりも、とにかくロシアに対して懲罰を与えなければならないとの情念に駆られて、経済制裁や軍事支援を行っているように見えます。

3.たいてい計算通りに行かない

湾岸戦争(1991年)はいくらか増しでしたが、ベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争他、第二次大戦後の軍事行動は、アメリカの思い通りにはなっていません。唯一の超大国が軍事力に物を言わせて取った直接的な行動でさえ、思い描いた通りにはなっていません。
軍事力を用いてでさえそうですから、それを用いない間接的な経済制裁や軍事支援で、米欧日が期待する結果が得られるのでしょうか。

経済制裁や軍事支援で、
ウクライナに対するロシアの行動を止めさせることができるのでしょうか。
クー・デターなり、民衆の反乱なりを起こして、プーチン政権を転覆させることができるのでしょうか。
転覆させた後、プーチン政権よりも増しな政権が生まれるのでしょうか。
その政権は、受け継いだロシアの膨大な核兵器をコントロールできるのでしょうか。

ウィキペディアの「経済制裁」には、次のような記述があります。

「1930年代には経済制裁の結果、イタリアや日本を追い詰め日独伊三国同盟を締結させた例もある。経済制裁が期待した効果を生み出すとは限らない」

4.その行き着く先

侵攻を、予想も予防もできなかったリーダーたちが主導する経済制裁や軍事支援という矢によって、平和という的を射ることができるのでしょうか。
勿論、瓢箪から駒、思いがけず良い結果が得られるということはありえます。しかし、経済制裁を含めた戦争は、往々にして、誰も予想しなかった結果が生まれるというのも歴史の教訓です。

経済制裁や軍事支援によってロシアを屈服させ、来るべき対中封じ込めに同国を参加させようとの長期的な目論見に従っての行動なら良いのですが、ベトナム戦争以下で失敗をした米国に、そんな長期的な戦略は期待できません。

米欧日は、経済制裁や軍事支援の強化へ邁進していますが、それらの首脳は、その結果を「計算」しえているでしょうか。とてもそうとは思えません。

<自国側と相手国側をチキンレースに追い込むのは愚かな政治指導者である>

経済制裁や軍事支援イケイケ、ウクライナ頑張れ!が世の大勢ですが、それを推進する人たちや、それに喝采を送っている人たちは、その行き着く先が分かっているのでしょうか。

それは、戦争の拡大や飛び火、第三次世界大戦に発展することはないのでしょうか。ウクライナ戦争は、ウクライナ・NATO連合対ロシアの様相を呈していますが、もし戦争が拡大した場合、宇露の二カ国だけではなくその他の国(民)も被害をこうむることになります。
それを危惧する人たちが、両国の早期の妥協と停戦を求める和平論者になり、それを危惧しないイケイケ派が主戦論者になっているようです。

【追記】
便意兵ー西野法律事務所」という記事から引用します。

「『便衣』とは平服という意味であり、『便衣兵』と呼ばれるものには2種類あります。
1 一般市民が武器を取って抵抗するもの
2 軍隊が一般市民に偽装して作戦を行うもの」

普通、便衣兵とは2の意味で用いられますが、ウクライナのブチャで起こった虐殺は、1を原因として起きたもの、ゲリラとか非合法戦闘員の問題だと思われます。
(キーウに潜入した報道カメラマンが見たもの)

日本は参戦している ウクライナ侵攻

1.鳥越氏の中立的発言

3月23日、ウクライナのゼレンスキー大統領が国会でオンライン演説を行うことになったことに対して、同月17日ジャーナリストの鳥越俊太郎氏は、ツイッターで反対の意見を表明しました。

「私はゼレンスキーに国会演説のチャンスを与えるのには反対する!どんなに美しい言葉を使っても所詮紛争の一方当事者だ。台湾有事では台湾総統に国会でスピーチをさせるのか?」

鳥越氏はジャーナリストなので、不偏不党とか中立とかが念頭にあっての発言かもしれません。
もし日本がウクライナとロシアの間で中立を保っているのなら、氏の主張は正しいでしょう。しかし、日本は両国の間で中立ではありません。
ロシアがウクライナに侵攻した翌日、2月25日の時点で、日本は「ロシアによるウクライナへの軍事行動の問題を受けた制裁措置(外務大臣談話)」を発していますし、その後対ロシア制裁を行っています。
鳥越氏が演説に反対した時には、日本は既に中立ではなかったのです。

2.経済制裁は戦争の延長である

戦争は軍事力を用いますが、経済制裁はそれを用いません。なので、後者は平和的な行為だと誤解している人も、少なくないかもしれません。しかし、経済制裁は平和的な行動なのでしょうか。ウィキペディアの記述を引きます。

「経済制裁は非軍事的強制手段のひとつであり、武力使用(交戦)による強制外交と同様に外交上の敵対行為と見なされる」

クラウゼヴィッツの「戦争は他の手段をもってする政治の継続である」を応用するなら、経済制裁は他の手段をもってする戦争の継続である、と言うことができます。
すなわち、経済制裁は非軍事的手段なのかもしれませんが、それは戦争の一部なのです。

わが国の北朝鮮に対する経済制裁のように、他国と一緒になってそれを行うことは、行う方は、平和的だと考えるかもしれませんが、受ける側からすれば、非平和的な、戦争の一部だと判断するだろうということです。

3.自覚なき参戦

ウクライナ・ロシア戦争に、日本は既に参戦しています。
もし参戦していない=中立なら、国会でゼレンスキー大統領の演説を認めるのと同様、プーチン大統領の演説も認めるべきですし、前者の演説を許可しないなら、後者のそれも許可すべきではありません。
しかし、日本は参戦しているがゆえに、味方の首脳が国会で演説するのは是とし、敵国の首脳には演説させないのは自然です。先の鳥越氏の発言はズレています。

問題なのは、ゼレンスキー大統領の国会演説に出席した岸田内閣の閣僚や国会議員、そして国民に、日本は参戦しているとの自覚があるのかどうかです。

4.主戦論と和平論

日本国憲法の第九条を改正すべきという人たちよりも、改正すべきではないという人たちの方が今でも多数派です()。そして、憲法の第二章は、「戦争の放棄」です。
不正や不当な戦争は勿論、正当な戦争、たとえば、自衛戦争でさえも放棄すべきと考える人たちはまだまだ少なくないはずでした。

ところが、ロシアによるウクライナ侵攻が発生すると、人々の主張が一変しました。
自衛戦争をも否定していた人たちが影を潜め、正しい戦争は許されるという風に、世間の戦争観が変ったような印象を受けます。当人たちには、その自覚がないかもしれませんが、彼らはいつの間にか、自衛戦争肯定派に転向したのでしょうか。それとも、ウクライナの自衛戦争は肯定するけれども、日本のそれは肯定しないのでしょうか。

ロシアには大義がない。同国に対する制裁を強化せよ。そのような経済制裁イケイケ派の人たちは、実質的に戦争を継続せよと言っているのに等しい。
経済制裁に賛意を示している人たちは、言わば主戦論者です。

今日、報道や言論を見る限り、多数派は主戦論者です。一方、和平論者は少数派です。そして、後者の評判は頗る悪い。彼らは、ロシアの言い分を代弁していると批判されます。
私は今まで、自分をタカ派だと思っていましたが、いつの間にかハト派になってしまいました。

今や、世界には主戦論者が溢れています。彼らは世界を、どこへ導こうとしているのでしょうか。

危険な賭け 対ロシア制裁

クラウゼヴィッツは、戦争は賭けであると言ったそうです。
唯一の超大国が全力投入した(軍事力を使用した)アフガン、イラク戦争は、米国の思い通りにはなりませんでした。

経済制裁は軍事力を用いないので、それは平和的な行動でしょうか。
クラウゼヴィッツ流に言うなら、経済制裁は他の手段をもってする戦争の継続です。
米欧日は対ロシア制裁を強めていますが、全力投入した戦争でさえ、思った通りの結果が生まれなかったのに、経済制裁で、考える通りの結果が得られるでしょうか。

経済制裁をすれば、ロシアは譲歩、もしくは引き下がるでしょうか?
それをある程度の期間実施すれば、クー・デターなり、民衆の反抗なりが起こって、プーチン政権は倒れるでしょうか?
プーチン政権後のロシアは、今よりも増しな国になるでしょうか?
その政権は、同国の大量の核兵器を制御できるでしょうか?

丁か、半か。
ロシアによる侵攻を防ぎえなかった米欧宇の指導者たちが、今また世界の人々の命を賭けて博打をしているように見えます。
彼らが思い描くように丁と出れば良いですが、半と出たなら?
言うまでもなく、半の極北は第三次世界大戦です。

往々にして、指導者の意図したのとは別の結果が生まれるというのが、戦争の、あるいは歴史の教訓です。

【追記】
インドにとって、支那は脅威ですから、遠交近攻の原則により、ロシアとは友好関係にあります。同国の武器の半分以上はロシア製であるらしい。経済制裁イケイケドンドンは、ロシアと中共をより接近させ、クアッドの一角であるインドを困惑させていることでしょう。

なぜ二つの立場に分かれるのか ウクライナ侵攻

ロシアによるウクライナ侵攻に関しては、様々な意見があります。

細々とした意見の相違を別にすれば、大枠として二つの意見に集約できそうです。

第一の立場。ロシアの言い分には全く理がない=ロシアには大義がない。

第二の立場。ロシアの言い分にも一理ある。

言うまでもなく、前者の主張の方が、圧倒的に多い。

第一と第二の立場の論者には、ウクライナ侵攻が全く別の見え方をしています。

そして、第一の論者には、第二の論者が言っていることが、全く理解できないようです。

(追加)
それにしても、第一の立場の人たちは、ロシアの動機は何だと考えているのでしょうか。

領土的野心?プーチン氏が病気だから?それとも、彼が正気を失っているから?

第一の立場では、ロシアの動機を合理的に説明できないと思うのですが。(2022・4・4)

【追記】
ウクライナ侵攻に対する私の言論は、世間の論調からかなりズレているようです。
でも、殆んど読まれていない過疎ブログなので、気にしないことにします。

ロシアだけに責任があるか ウクライナ侵攻

1.振り込め詐欺の責任は誰にあるか

ウィキペディアの「特殊詐欺」には、次のような記述があります。

「振り込め詐欺(ふりこめさぎ)とは、電話やはがきなどの文書などで相手をだまし、金銭の振り込みを要求する犯罪行為。(中略)
2004年11月まではオレオレ詐欺と呼ばれていたが、手口の多様性で名称と実態が合わなくなったため、特殊詐欺の4つの型(なりすまし詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金等詐欺)を総称して、2004年12月9日に警視庁により統一名称として『振り込め詐欺』と呼ぶことが決定された。(中略)
1999年8月頃から2002年12月頃までの間に電話で『オレオレ』と身内を装って11人に銀行口座に振り込ませた事件があり、2003年2月に犯人を検挙した鳥取県警米子署がこの手口を『オレオレ詐欺』と称したのが初出とされている」

振り込め詐欺でも、オレオレ詐欺でも良いですが、加害者、被害者の責任に関しては、二つの立場がありえます。
第一、すべての責任は加害者の側にある、被害者には一切責任はない。
第二、大部分の責任は加害者にあるけれども、騙された被害者の側にも、一部責任はある。
第一と第二は、どちらが正しいでしょうか。

なぜこんなことを問うのかと言えば、この度のロシアによるウクライナへの侵攻を考える上で、どのような立場を採るのかは、この二つの考え方と無縁ではないと思われるからです。

2月24日ウクライナ侵攻が発生しましたが、それに対して、バイデン米大統領は声明を出しました。

「プーチン大統領は、破壊的な人命の損失と人的苦痛をもたらす計画的な戦争を選択した。この攻撃がもたらす死と破壊はロシアだけに責任がある」(太字 いけまこ)

引用文を見れば明らかですが、バイデン氏はウクライナ侵攻に関して、第一の、「すべての責任は加害者の側にある、被害者には一切責任はない」の立場です。振り込め詐欺のような一般犯罪ならともかく、国際政治上の戦争のような事例において、一方だけに責任があるというような認識は適切なのでしょうか。

2.国際社会にはいくつものの正義がある

国際政治学者の高坂正堯氏(1934-1996)は、『国際政治』(中公新書)に書いています。

「国際社会にはいくつもの正義がある。だからそこで語られる正義は特定の正義でしかない。ある国が正しいと思うことは、他の国から見れば誤っているということは、けっしてまれではないにである」(19頁)

高坂氏はいわゆるリアリストであり、私はリアリストではないので、氏のこの主張には全面的には同意しかねますが、戦争当事国の指導者たちだって狂人ではないのですから、それなりに言い分があると考えるべきではないでしょうか。

ロシアの言い分については、プーチン大統領が侵攻当日のテレビ演説で述べています。

「親愛なるロシア国民の皆さん、親愛なる友人の皆さん

きょうは、ドンバス(=ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州)で起きている悲劇的な事態、そしてロシアの重要な安全保障問題に、改めて立ち返る必要があると思う。(中略)

NATOは、私たちのあらゆる抗議や懸念にもかかわらず、絶えず拡大している。軍事機構は動いている。
繰り返すが、それはロシアの国境のすぐ近くまで迫っている。(中略)

私たちの国境に隣接する地域での軍事開発を許すならば、それは何年も先まで、もしかしたら永遠に続くことになるかもしれないし、ロシアにとって増大し続ける、絶対に受け入れられない脅威を作り出すことになるだろう。(中略)

すでに今、NATOが東に拡大するにつれ、我が国にとって状況は年を追うごとにどんどん悪化し、危険になってきている。(中略)

起きていることをただ傍観し続けることは、私たちにはもはやできない。(中略)

NATOが軍備をさらに拡大し、ウクライナの領土を軍事的に開発し始めることは、私たちにとって受け入れがたいことだ。(中略)

問題なのは、私たちと隣接する土地に、言っておくが、それは私たちの歴史的領土だ。そこに、私たちに敵対的な『反ロシア』が作られようとしていることだ。(中略)

アメリカとその同盟国にとって、これはいわゆるロシア封じ込め政策であり、明らかな地政学的配当だ。
一方、我が国にとっては、それは結局のところ、生死を分ける問題であり、民族としての歴史的な未来に関わる問題である。(中略)

それこそ、何度も言ってきた、レッドラインなのだ。
彼らはそれを超えた。

そんな中、ドンバス情勢がある」

3.ウクライナはロシアの生命線?

冷戦後のNATOの東方拡大によって、隣の兄弟国ウクライナまでNATOに加盟し、その地に米国の軍隊と核を含めた兵器が配備されるかもしれない。そうなったら、ロシアの安全保障にとって大変な脅威である、という理屈でしょう。

プーチン氏が、演説の冒頭で語っていることを、大東亜戦争との比較で言うなら、日本の主目的は自存自衛であり、副次的な目的は東亜解放でしたが、ロシアの主目的も「ロシアの重要な安全保障問題」であり、副次的な目的は、演説の最後に引用した、「そんな中、ドンバス情勢がある」でも分かるように、ドンバスの「解放」だと判断できます。

ロシアにとって、ウクライナがNATOに加盟するとは、どのような感じなのでしょうか。
元寇では、元軍は朝鮮半島からわが国に攻めてきました(弘安の役では、江南軍は支那本土から出発しましたが)。
近代においても、日本の心臓を狙う匕首だと言われた朝鮮半島へ、清国やロシア帝国が侵入することは、日本にとっては脅威でした。わが国が日清日露戦争を戦わざるをえなかったのは、そのような脅威をなくすためでしょう。朝鮮半島は、いわば日本の生命線でした。
もし当時の韓国が、清国軍にもロシア軍にも侵入を許さないような強固な国だったなら、日本はそれらの戦争をしなくて済んだでしょう。

実は今日だって、朝鮮半島は日本の生命線です。
ただ、現在の朝鮮半島は、良くも悪くも、北朝鮮、韓国というそれなりに軍事的に強力な国があり、支那やロシアの半島への進出を防いでくれていますし、わが国は日米安保条約を結んでいて、韓国にも日本にも米軍が駐留していますし、日本列島の近くの海には米原潜がひそんでいて、万が一の場合、核ミサイルを支露へ打ち込む能力があると私たちは信じているために、半島からの脅威に鈍感になっているのでしょう。

この点は欧州諸国も同じです。実質的に対露同盟であるNATOの主軸はアメリカですが、それが東方へ拡大し、ロシアとNATOの勢力圏を分かつ線が、東方へ移動して行き、フランスやドイツといった欧州の中心的な諸国は、ロシアの脅威に対する危機感が薄れているのだと思います。逆に言うなら、ロシアが受ける脅威に対して、日本も欧州も鈍感になっているということです。

一方、ロシアには強力な同盟国はありませんし、自分の国は自分で守らなければなりません。この点、戦前のわが国も同じです。日英同盟の締結前と解消以後、頼りになる同盟国がなくて、孤独でした。

ロシアにとってウクライナは、日本にとっての近代の朝鮮半島のようなものではないでしょうか。そして、日露支にとって、韓国は民族的にも文化的にも歴史的にもまるっきり別の国ですし、いわゆる兄弟国ではありませんが、ロシアにとってウクライナはそれらの点で近しい兄弟国ですし、ウクライナはロシア帝国、ソ連、ロシア連邦を通じて、ずっとその勢力圏にありました。
すなわち、ロシアの言い分にも一理あるのではないでしょうか。

しかし、欧米も日本も、ロシアの言い分は理解しませんし、それに耳を貸しません。そして侵攻後、ただ一方的に非難するだけです。
現在の世界の論調から言って、たとえロシアが戦争に勝ったとしても、戦後はウクライナ・NATO連合=絶対善、ロシア=絶対悪として語られることになりそうです。

4.日本は絶対悪だったのか

<絶対善対絶対悪の戦い>だと認識されているのが、第二次世界大戦です。前者に相当するのが、連合国であり、後者に相当するのが同盟国です。そして、同盟国であったわが国は、絶対悪との認識が、国際社会では今でも定着しています。

ウクライナのゼレンスキー大統領が、3月16日アメリカ連邦議会での、オンライン形式の演説で、真珠湾攻撃に言及したのは、氏がユダヤ人であり、第二次大戦に関して、連合国=絶対善、同盟国=絶対悪との認識の保持者だからでしょう。

わが国の東京裁判史観肯定派の主張も、前大戦のすべての責任は日本にあるとの立場です。
一方、その否定派は、大戦の原因あるいは犯人を、日本の中だけで探すのは無意味で、戦争は相手があることだから、相手との関係で、それを追究すべきだという風に言っていました。

ところが、この度のロシアによるウクライナ侵攻に関しては、どうでしょうか。戦争は相手があるというように、論じられているでしょうか。どうも、左派のみならず、右派もロシアを一方的に非難するのが大勢になっているように思われます。

戦前の日本と、この度のロシアの軍事行動と、どちらがより正当性があるでしょうか。
戦前日本の言い分にはそれなりに正当性はあったけれども、ロシアの言い分には一理もないのでしょうか。日本にはそういう人も少なくないでしょう。
しかし、第二次大戦の戦勝国であるロシアに言わせれば、戦前の日本には一理もないけれども、この度のロシアの行動には正当性があるという人たちが多くいそうです。
大東亜戦争の日本と、ウクライナ侵攻のロシアと比較して、その主張はどちらがより道理があるのでしょうか。それとも、戦勝国やわが国の左派が言ってきたように、日露とも絶対悪なのでしょうか。

ウクライナ侵攻に対する米欧日での、一方的なロシアへの非難を見て、戦前日本が連合国にしてやられたのは、国際社会におけるこのような<連合国=絶対善、日本=絶対悪>というレッテル貼りだったのかと、憤慨する人がいても良さそうなものです。
ロシアに対する一方的な非難を見ると、戦前から欧米は独善的だったのだと思えます。
そして、戦後八十年近く経っても、相変わらず戦前日本は全否定すべき絶対悪です。

5.ロシアは絶対悪なのか

戦争は外交の失敗だと言われますが、外交で解決できないことは、力で解決せざるをえません。勝った方がより多くを獲得し、負けた方がより多く譲歩するしかありません。お互いに言い分があるのを認めた上で、なされるのが文明的な戦争だと思います。わが国の戦後平和主義者たちは、文明的な戦争などないと言うでしょうが。
それはともかく、戦争になったということは、双方の外交が失敗したということではありませんか?ロシアのみならず、米欧宇の指導者たちの外交も、失敗したということでしょう。

第二次世界大戦から?アメリカは戦争に、絶対的な正義不正義の観念を持ち込みました。米国にとって、戦争は絶対的な善と絶対的な悪の戦いです。戦前の絶対悪は日本で、現在の絶対悪はロシアです。敵を悪魔だと見做さないと戦えない(経済制裁も含めて)ということもあるかもしれませんが、お互いに言い分のある戦争を、絶対善対絶対悪との戦いだとするのは、やはり野蛮な戦争観です。アメリカは十字軍的戦争観から抜けきれないようです。

戦争には、双方に言い分があるのを否定すべきではありません。
そして、米欧宇の指導者たちは、戦争が始まる原因となった自らの過失を反省すべきです。
ウクライナはNATO加盟を拙速に運ぼうとしました。欧米はロシアの出方も考えずに安易にそれを支持しました。ロシアの侵攻を防ぐだけの軍事的な準備をしていませんでした。非加盟国はNATO防衛の対象外だとロシアに誤ったメッセージを与えました。
彼らは、自らの過失を糊塗するために、なおさら絶対善対絶対悪の戦争観を煽っているように見えます。

ロシアによるウクライナへの侵攻について、三点ばかり確認しておきたいと思います。
第一、戦争の善悪と勝敗は無関係であること(勝った側が、自分たちは正しかったのだと言い出しかねないので)、
第二、ロシアの言い分にも一理あること、
第三、米欧宇の指導者たちにも、一部責任があること。

勿論、ウクライナに侵攻したロシアは非難されてしかるべきですが、<絶対善対絶対悪>という戦争観には、うんざりです。そんな戦争観には、ニエットと言わざるをえません。

【追記】
時宜を得た事件が発生しました。
3月27日に開催されたアカデミー賞授賞式で、妻を侮辱されたとして、俳優のウィル・スミス氏がプレゼンターに平手打ちをくらわせました。
さて、手を上げたスミス氏にすべての責任があるのでしょうか、それとも、大部分の責任は彼にあるにしても、侮辱した発言を行ったプレゼンターにも一部責任があるのでしょうか。

【追記2】
大東亜戦争後の、この小林秀雄氏の発言は、ウクライナ侵攻に関しても、有効であるように思われます。
「この大戦争は一部の人達の無知と野心とから起ったか。それさえなければ、起らなかったか。どうも僕にはそんなお目出たい歴史観は持てないよ」

朝日新聞のオフシャンニコワ?

ウクライナのゼレンスキー大統領は、3月23日午後6時から日本の国会で、オンライン形式の演説を行いましたが、その当日の朝日新聞朝刊声欄に、「どう思いますか 戦争と国際協調」と題する、読者の投稿が掲載されました。掲載されたのは五つです。
その一つは、下記の通りです。

「NATO加盟希望 大きな代償   会社役員 滝田 正良  (山梨県 74)

ロシアのウクライナ侵攻に心が痛みます。戦争回避の道はなかったのでしょうか。一番の問題はウクライナの北大西洋条約機構(NATO)への加盟希望です。白紙に戻すことはできなかったのでしょうか。加盟をあくまで希望した代償はあまりにも大きいものでした。
確かに独立国として条約に加盟する権利も自由もあります。しかし、その結果、世界は大混乱に陥りました。NATOは米国を主体とした同盟ですが、ロシアとの戦争で被害を被るのは地続きのヨーロッパです。今回の経済制裁は世界全体に影響を及ぼし、日本もその影響は計り知れません。追い詰められたロシアは何をするかわかりません。過去の日本のように。
NATOは防衛を目的としていますが、ロシアにすれば、いつ攻め込まれるか疑心暗鬼なのでしょう。今時そんなことは考えられないと言うかもしれませんが、ロシアはナポレオン、ヒトラーに自国を侵略された歴史があります。一日も早い戦争の終結を祈ります」

私は、「過去の日本のように」は余計だと思いますが、朝日に採用されるには、そんな一言が有利なのかもしれません。
それはさておき、朝日新聞の論調とは異なった意見が掲載されました。
世の大勢が、ウクライナ=善、ロシア=悪、の一辺倒になっていることに、さすがに辟易した同紙の編集者が、この投稿を選んだのでしょうか。

因みに、上記の投稿の右隣に掲載された投稿は、「『正義』の衝突・・・平和は難しい」との題名で、その文章は「国際紛争にはそれぞれの正義のぶつかり合いという面があり、難しいものだと思う」で結ばれています。



ウクライナ侵攻と台湾

はじめに

先月24日に、ロシアによるウクライナ侵攻が始まりましたが、ウクライナと台湾を比較して考えてみたいと思います。
と言っても、世間で多く語られている、ロシアがウクライナへ侵攻したから、今度は中共が台湾へ侵攻するかもしれない、という問題を主に論じたい訳ではありません。

1.力による一方的な現状の変更の試み

ウクライナ侵攻に対して、岸田首相は2月25日の記者会見で、「力による一方的な現状変更の試みで、明白な国際法違反だ。国際秩序の根幹を揺るがす行為として、断じて許容できず、厳しく非難する。わが国の安全保障の観点からも決して看過できない」と述べたそうです(1)。

一方、中共に関しては、外務省の「外交青書2020 1 情勢認識」に、「東シナ海、南シナ海などの海空域で、既存の海洋法秩序と相いれない独自の主張に基づく行動や力を背景とした一方的な現状変更の試みを続けている」との記述があります(2)。

力による一方的な現状の変更の試みを行っているということで、露中は批判されています。

2.力によらない、一方的な現状の変更は許されるか

では、力によらなければ、一方的な現状の変更をすることは、認められて良いのでしょうか。
この度の、ロシアによるウクライナへ侵攻は、NATOへの加盟という、力によらない一方的な現状変更を、ウクライナが試みた結果生じたと言えるでしょう。

ロシア帝国、ソ連、ロシア連邦を通じて、ウクライナはずっとロシアの勢力圏にありました。そのようなウクライナがロシア圏からの離脱を図り、実質的な反露同盟であるNATOへの加盟を求めました。
もし、加盟をするのなら、ロシアや近隣諸国に対して、それなりの根回しをすべきだったでしょう。しかし、それをしなかった。
ウクライナは、一方的な現状の変更を求めたと言わざるをえません。

国際社会の大勢は、ウクライナのNATO加盟に反対していないから、あるいはそれに反対をしているのはロシアと一部の国だけだから、一方的ではないという人もあるかもしれません。では、台湾はどうでしょうか。

3.台湾の場合

台湾は、国家の三要素、領土、国民、主権を有する、実質的に独立国であり、同国の領域には他国の主権が及んでいないという点で主権国家です。
国連や国際保健機構(WHO)には加盟が認められていませんが、それは、主権国家としての十分条件を満たしていないからではなく、中共が台湾の邪魔をしていて、あるいは、国際社会が中共の圧力に屈しているからです。

アメリカは、「加盟はウクライナの主権の問題だ」と言ったそうですが(3)、もしウクライナがロシアとは違って民主国であり、主権国家であるという理由で、NATOへの加盟が認められるのなら、台湾だって民主国であり、主権国家なのだから、「力によらない、一方的な現状変更の試み」としての、即時の独立だって、認められるべきでしょう。

ウクライナのNATO加盟に反対しているのは、ロシアと一部の国だけだから、と言うのであれば、台湾の独立に反対しているのも中共と一部の国だけなのですから、台湾が独立を宣言したとしても、一方的ではないということになります。

しかし、ウクライナも台湾も相手とする国(露中)が核大国であり、拒否権を持つ国連の常任理事国であるという意味では、彼らの感情を逆撫ですることは、現実の国際政治の力関係から考えると、やはり一方的だと言わざるをえません。
だから、ウクライナのNATO加盟も、台湾の独立も、力によらないにしても、一方的な現状変更の試みです。

4.なぜ台湾の一方的な現状変更は許されないのか

それなら、国際社会は、あるいは、日米は、台湾の独立を認めているでしょうか。
認めていません。なぜでしょうか。

カート・キャンベル米国家安全保障会議(NSC)インド・太平洋調整官は2021年7月6日アメリカのシンクタンクのイベントで、「台湾の独立は支持しない」と述べたそうです(4)。
どうして主権国家台湾の独立を支持しないのでしょうか。
「台湾海峡の平和と安全の重要性」のためらしい。
要するに、安易に独立をすれば、中台の、ひいては米中の戦争になるかもしれないからです。

5.だから、戦争になった

それなら、ウクライナによる、力によらない、一方的な現状変更の試みだって、戦争になるかもしれなかったはずです。そして、現実に、戦争になりました。
とするなら、ウクライナとロシアの「平和と安全の重要性」ために、ウクライナのNATOへの加盟だって、欧米は支持すべきではなかったのではないでしょうか。

因みに、ウクライナはロシア帝国の時代から現在までロシアの勢力圏にあったのに対し、台湾は、化外の地(「皇帝の支配する領地ではない」、「中華文明に属さない土地」の意)(5)と見なしていた大清帝国の統治時代以降、日本統治時代、中華民国統治時代、そして今日へと、支那本土の勢力圏に属したことはありません。中共と台湾の関係に比べれば、ロシアがウクライナを自国の勢力圏だと判断するのは、よほど根拠があります。

それなのに、ウクライナに対しては、力によらない一方的な現状変更の試みを認める一方、台湾にはそれを認めないというのは、ダブルスタンダードです。そして実際に、前者では、ロシアによる侵攻を招きました。

6.台湾におけるウクライナ侵攻の教訓

今後、中共による台湾への侵攻の可能性はあるでしょうか。あるでしょう。
ただし、ウクライナ侵攻のお蔭で、それはハードルが高くなりました。

この度のロシアによるウクライナ侵攻から、中共による台湾への侵攻を阻止するための教訓を挙げるとするなら、
第一、戦争が発生する恐れがある場合は、主権国家であろうと、力によらない一方的な現状の変更は、国際社会は安易に認めてはならないこと、
第二、認める場合は、戦争が起こらないだけの軍事的な抑止力を備えてからにすべきこと、
ではないでしょうか。

米欧宇の政治リーダーたちが、第一と第二を考慮しなかったから、ウクライナ侵攻が発生したのだと思います。

(1)https://www.sankei.com/article/20220225-ALORCIUPJVOBRGPXIQUS5IEN7I/
(2)https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2020/html/chapter1_00_01.html
(3)https://news.yahoo.co.jp/articles/d7db4a22079a78bc00b9209841c15fe614a61810
(4)https://www.asahi.com/articles/ASP7722C2P76UHBI02C.html
(5)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B0%E6%B9%BE%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2

【追記】
ウクライナのゼレンスキー大統領は、3月17日?に、「自身のSNSで『交渉の中で一番重要なものは明らかです。戦争終結、安全の保証、主権と領土の境を元の戻すこと』と述べた」そうです(https://news.yahoo.co.jp/articles/f0f33801f218956955318677d7808f35513dc1f2)。

彼が、ウクライナのNATO加盟を求めなければ、戦争は起こりませんでしたし、主権や領土の保全もできていたでしょう。

【追記2】
「冷戦期の1962年、ソ連がキューバに核を配備しようとした際、米国は猛反発しました。米国からすると、ソ連が米国の裏庭にあるキューバに核ミサイル基地をつくるのは戦争に匹敵する行為だという認識だったのです。(中略)
ロシアがウクライナのNATO加盟に強硬に反対することは、当時の米国とどこが違うのでしょう。当時も今もキューバは独立国家です」
(福井義高、『WiLL』、2022年5月号、290頁)

「独立国家」は、主権国家と同義です。
主権国家であるウクライナがNATOに加盟するのは自由で、主権国家である台湾が独立を表明するのも、キューバがソ連のミサイルを配備するのも認めないというのは、やはりダブル・スタンダードではないでしょうか。(2022・4・7)