ロシアだって自衛戦争をたたかっている

冷戦後、NATOの東方拡大により、対露同盟がどんどんロシアの方へ勢力圏を延ばしました。そして、ついに、汎ロシアの構成メンバー(ロシア、ウクライナ、ベラルーシ)たるウクライナまでが対露同盟に参加することになるかもしれなくなりました。
ウクライナがNATOに加盟すれば、最悪同国内に米軍の基地ができるかもしれないし、核を含む兵器が配備されるかもしれない。それは、ロシアにとって、大変な脅威です。

ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、雑誌『Hanada』6月号で、シカゴ大学教授ジョン・ミアシャイマー氏の論文を引用しています。

<強大国は、自分たちの領土近くに迫る潜在的な脅威には、いつもセンシティブである。これは地政学の基本だ。たとえば、中国がカナダやメキシコと軍事同盟を結ぼうとしたときの、ワシントンの怒りを想像してみればいい>(94ー95頁)

ロシアにとっての、ウクライナのNATO加盟は、アメリカにとって、「中国がカナダやメキシコと軍事同盟を結ぼうとした」ようなものです。そして、それゆえに、ロシアはウクライナへ侵攻しました(ドンバスの「解放」は、ロシアの副次的な理由です)。

勿論、それに対しては、だからと言ってロシアがウクライナに侵攻して良い理由にはならないと、ロシア批判派は反論します。
もし他の国が、そのような侵攻をしないのなら、ロシアの行動は突出して不当だと言えるでしょう。では、他の国は、そのような行動は取らないでしょうか。

1962年にキューバはソ連の核ミサイルを国内に配備しようとしました。同国は、いわゆるアメリカの裏庭と呼ばれるカリブ海に位置する国です。そのような国にアメリカを狙うことができるミサイルが配備されることになって、米国は愕然としました。
キューバ危機では、アメリカの選択肢として、軍事侵攻がありました。実際に採用したのは海上封鎖ですが、選択肢の中にそれがあったということは、場合によっては、米国はキューバへ軍事侵攻をする可能性があったということです。

また、2001年の9・11テロを受けて過敏になったアメリカは、2003年に主権国家イラクへ侵攻し、フセイン政権を倒しました。
キューバに配備されたソ連のミサイルはアメリカに届きますし、ウクライナに配備されるかもしれないミサイルや爆撃機はロシアに届きます。一方、イラクはアメリカに届くようなミサイルは持っていませんでした。それなのに、アメリカはイラクへ侵攻しました。

キューバ危機の時も、イラク侵攻の時もアメリカは平然としていられませんでしたし、ウクライナがNATOに加盟することに、ロシアも平然としていられないから、この度の戦争は起こったのでしょう。

今、ロシアに対する経済制裁やウクライナに対する軍事支援を叫んでいる人たちは、イラク戦争当時、アメリカに対する経済制裁やイラクに対する軍事支援を主張したでしょうか?

ウクライナ侵攻に関して、ローマ教皇はインタビューで、「赤ずきんちゃんが善で、狼が悪というお決まりのパターンから脱却する必要がある」として、「『善VS悪』というおとぎ話のような単純な認識が広まっていることに警鐘を鳴ら」したそうです(注)。

日本を含めた、いわゆる西側諸国の、アメリカとロシアに対するダブル・スタンダードは酷いし、また、ロシア非難も過ぎると思います。

(注)
https://news.yahoo.co.jp/articles/84f38af17ecbfa1fbf129b001913f20df6dd8ae8

バイデン氏は過失を認めた ウクライナ侵攻

1.台湾では失敗しない

つい最近までの、アメリカの政策は、「台湾の独立は支持しない」でした。

ところが、5月23日の日米首脳会談後の記者会見で、「あなたは、明らかな理由でウクライナの紛争に軍事的な介入は望まなかった。あなたは、もしそれが起きたら、台湾を守るために、軍事的に介入しますか」と、問われたバイデン大統領は、「はい。(中略)それが、我々の公約だ」と答えました(注)。

それは、従来のアメリカの立場から逸脱しています。もっとも、その発言の後、ホワイトハウスは、「我々の政策は変わっていない」と一応打ち消しましたが。

バイデン氏のその発言は、意図的なのか、失言なのか、あれこれ詮索されました。アメリカはこれまでは、いわば両足を台湾の独立は支持しないにかけていたのに対し、5月23日からは、一方の足は独立を支持しないに、もう片方は軍事介入する、に置くように変化したように見えます。
ずっと、台湾の独立は支持しないと言っていたのに、どうしてその立場を変更した?のでしょうか。
ウクライナで失敗したからでしょう。

2.ウクライナで失敗した

なぜアメリカは、これまで台湾に対して、独立は支持しないと表明していたのでしょうか。
中共にとって、台湾は支那の一部であり、独立は認めることができないとの立場です。独立を宣言すれば、中台間で、ひいては米中間で戦争になるかもしれないからでしょう。

もし台湾の独立は支持しない同様、ウクライナに対しても、加盟は支持しないとアメリカ及びNATO諸国が明確に表明していれば、ロシアによるウクライナ侵攻はなかったでしょう。しかし、台湾とは違って、ウクライナに対しては、アメリカもNATO諸国も、加盟を支持しました。だから、戦争は起こりました。

3.バイデン氏は過失を認めた

バイデン大統領は昨年12月8日、ロシアがウクライナに侵攻した場合に、米軍をウクライナに派遣することは「検討していない」と述べました。もしその判断が正しかったなら、5月23日にも、中共が台湾に侵攻した場合も、米軍を台湾に派遣することはないと答えたはずです。しかし、実際は台湾に対しては、軍事介入をするような発言をしました。なぜでしょうか。
ウクライナに対する言動が失敗だったからでしょう。

アメリカ大統領が公式に失敗を認める訳がありませんが、似たようなケースにあったウクライナに対する政策の後、台湾に対する政策を変えたのだとしたら、前者の失敗を認めたのも同然です。

4.中途半端な学習

アメリカは、ウクライナの失敗で学習したとは言えます。しかし、ちゃんと学習しえているのでしょうか。3月21日公開の記事「ウクライナ侵攻と台湾」に書きました。

「この度のロシアによるウクライナ侵攻から、中共による台湾への侵攻を阻止するための教訓を挙げるとするなら、
第一、戦争が発生する恐れがある場合は、主権国家であろうと、力によらない一方的な現状の変更は、国際社会は安易に認めてはならないこと、
第二、認める場合は、戦争が起こらないだけの軍事的な抑止力を備えてからにすべきこと、
ではないでしょうか」

第一に関して。
ウクライナのNATOへの加盟しろ、「台湾を守るために軍事介入する」への方針の変更?にしろ、力によらない一方的な現状変更の試みです。そして、後者の場合も「戦争が発生する恐れがあ」ります。それなのに、またしてもバイデン氏は、一方的な現状変更の試みを為すような発言を行いました。

第二に関して。
それを認める場合は、戦争が起こらないだけの軍事的な抑止力を備えてからにすべきです。
では、5月23日のバイデン氏の発言の前に、アメリカは台湾に対し、対支抑止力を備えるよう求めたでしょうか。また、台湾はそのための準備を完了していたでしょうか。言うまでもありませんが、していません。
ただ、中共を牽制するために、バイデン氏は軽挙妄言しただけです。

5.ロシアが全面的に悪いか

3月27日に開催された米アカデミー賞授賞式で、俳優のウィル・スミス氏が、プレゼンターのクリス・ロック氏に平手打ちを食らわせるという事件が起こりました。もしロック氏がスミス氏の妻に対して、侮蔑的な発言を行っていないのに、平手打ちを食らわせたのだとしたら、スミス氏が全面的に悪いと言えますが、スミス氏の行動はロック氏の発言がなければ起こりえませんでした。

同様に、ゼレンスキー氏やバイデン氏のヘマがなければ起こらなかった訳ですから、ウクライナ侵攻はロシアが全面的に悪いとは言えないだろうと思います。

実質的にバイデン氏が過失を認めているのに、ロシアが全面的に悪いとか言っている人がいるのは、不思議ではあります。

(注)
https://news.yahoo.co.jp/articles/8a9b789a5a639de42d330cf6b4cba36e6fbf39bd

【折々の名言】
「女の人はよくしゃべると言っただけだ。本当の話をするので叱られる。(中略)本当の話を政治家がしないから、世の中がおかしくなっている」
(森喜朗元首相、https://news.yahoo.co.jp/articles/6e54af51d9174b1a1663787f6345be34d9137f37)

現実は法に優先する

1.ウクライナ侵攻は国際法違反である

2月24日、ロシア軍はウクライナに侵攻しました。
それに対して、アメリカをはじめNATO諸国も日本も、ロシアの行動は国際法に違反しているとして、非難しています。

それが国際法違反であるとされるのは、国際連合憲章第二条第四項に違反しているからだそうです。当該条文は以下の通りです。

「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」

わが国外務省が発した、2月24日付「ロシアによるウクライナへの軍事行動の開始について」も、次の通りです。

「1 2月24日、ロシアが、ウクライナへの軍事行動を開始しました。

2 この軍事行動は、明らかにウクライナの主権及び領土の一体性を侵害し、武力の行使を禁ずる国際法の深刻な違反であり、国連憲章の重大な違反です。力による一方的な現状変更は断じて認められず、これは、欧州にとどまらず、アジアを含む国際社会の秩序の根幹を揺るがす極めて深刻な事態であり、我が国は最も強い言葉でこれを非難します。
ロシアに対し、即時に攻撃を停止し、部隊をロシア国内に撤収するよう強く求めます。

3 我が国は、引き続きウクライナ及びウクライナ国民に寄り添い、事態に改善に向けてG7を始めとする国際社会と連携して取り組んでいきます」

「武力の行使を禁ずる国際法の深刻な違反」と「国連憲章の重大な違反」は、同一の内容なのか、別の意味なのかは知りませんが、しかし、当然次のような疑問が湧きます。
では、第二次世界大戦後、国連憲章第二条第四項に反するような「暴挙」を行ったのは、この度のロシアが初めてなのだろうか、ということです。

2.アメリカも時に国際法に違反する

2003年3月20日、アメリカはイラクへの攻撃を開始し、その後米軍は同国へ侵攻しました。言うまでもなく、当時イラクは主権国家であり、そのような国へ侵攻し、フセイン政権を倒しました。
ロシアによるウクライナ侵攻が国際法違反なら、アメリカによるイラク侵攻だって、国際法違反でしょう。
それは、国連安保理決議に基づかない軍事行動でした。

「イギリスを除くほとんどのヨーロッパ諸国、中東諸国、ロシア、中国など多くの国が戦争反対の立場をとり、反戦デモが広がるなか、そうした国際世論を押し切る形で行われた」(コトバンク「イラク戦争」)

イギリスは、アメリカの武力行使を支持しましたが、

「トニー・ブレア政権では、閣僚が相次いで辞任を表明し、政府の方針に反対した」(ウィキペディア「イラク戦争」)

その他にも事例があります。1962年10月、アメリカの偵察機の撮影により、キューバにソ連のミサイル基地が造られているのをが発覚しました。キューバ危機です。
それにどう対処するのかについて、アメリカでは、「国家安全保障会議執行委員会(エクスコム)」の会議で、六つの選択肢が提案されました(ウィキペディア「キューバ危機」)。
1.ソ連に対して外交的圧力と警告および頂上会談(外交交渉のみ)
2.カストロへの秘密裏のアプローチ
3.海上封鎖
4.空爆
5.軍事侵攻
6.何もしない

キューバは、「海上封鎖は『主権に対する侵害』だとして非難した」(コトバンク「キューバ危機」)そうですが、実際にアメリカが選択したのは、海上封鎖でした。
その後、米ソの交渉により、ソ連はミサイルを撤去することになりましたが、選択肢として、空爆や軍事侵攻があったことは事実ですし、場合によっては、アメリカは国際法に反する行動を起こす可能性があったことが分かります。

その他、グレナダ侵攻(1983年)など、アメリカは他国の主権を侵害したと思しき軍事行動を取っていますし、イスラエルによるパレスチナに対する行動でも、米国は国連決議において何度となく拒否権を行使しています。

第二次大戦後、国際法に違反する行動をおこなったのは、何も今回のロシアだけではありません。アメリカその他の国だって、そのような行動を取っています。
アメリカも国際法違反を犯しているのに、なぜロシアのウクライナ侵攻だけがこんなにも非難されるのでしょうか。2003年から2022年の間に、国際社会のルールは変わったのでしょうか。

3.大国の行動原理

ロシアによるウクライナ侵攻、アメリカによるイラク侵攻やキューバ危機で分かるのは、ロシアであろうが、アメリカであろうが、中共や英仏であろうが、大国は自国の安全が脅かされたと感じる時は、国際法にしろ、他国(小国)の主権にしろ、侵すことを躊躇しないということです。

<自国の安全保障は国際法に優先する>

これが、大国の行動原理です。
もし現行の国際法があれば、第二次世界大戦は、とりわけナチス・ドイツによる侵略は防ぎえたでしょうか。防げたとは思えません。しかも、現在の大国の多くは、第二次大戦の戦勝国です。むしろ彼らは、安全保障における軍事力の有効性を信奉していることでしょう。だから、今日でも、大国の行動原理は、<自国の安全保障は国際法に優先する>です。

この大国の行動原理は、善いか悪いかではなく、事実かそうでないかの問題です。そして、国際社会を眺めるなら、実際に大国はそのように振舞っています。
国際連合などの活動もあって、良く見えなくなっていますが、第二次世界大戦以前同様、以後も国際社会は力の論理で動いています。そして、大国が自国の危機に瀕した時(瀕したと感じた時)、それが顕在化します。

5月10日公開の「主権国家は平等ではない」で、主権国家を、上位の主権国家と下位の主権国家の二種類に分けましたが、前者が大国、後者が小国に相当するでしょう。
今日おおよそ、大国とは核兵器保有国のことであり、小国とは非保有国のことです。たとえば、イスラエルはパレスチナに対して、大国として振舞っています。

第二次大戦以前は、まだ核兵器は開発されていませんでしたが、わが国は上位の主権国家でした。だから、韓国の主権よりも、自国の安全保障を優先しました。

一方、小国だって、有事の際は大国と同じように振る舞いたいと思っているでしょうが、いかんせん、力がないので、実行できません。

4.現実は法に優先する

日本国憲法第九条を引用します。

「第九条【戦争の放棄、軍備及び交戦権の否認】
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
②前項の目的を達するため陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」

大東亜戦争に敗北し、アメリカからこの占領憲法を押し付けられた当時は、文字通り「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」つもりだったでしょう。また、米国側からすれば「これを保持させない」つもりだったでしょう。しかし、1950年6月25日、北朝鮮が韓国へ南侵し、状況が一変しました。アメリカは日本に対して、軍の創設を要求しました。

陸上自衛隊 1950年(昭和25年)の朝鮮戦争勃発時、GHQの指令に基づくポツダム政令により警察予備隊総理府の機関として組織されたのが始まりである」(ウィキペディア「自衛隊」)

自衛隊は「陸海空軍その他の戦力」であるのは明らかです。しかし、戦後の政府はそれが戦力ではないかのように、言い繕ってきました。憲法九条は、解釈改憲によって運用されてきました。
法を守って、国が亡ぶよりも、法を破って、国の生存を図る方が賢明、というよりも当然だからです。戦後のわが国は大国ではありませんが、そんな日本だって、<自国の安全保障は憲法に優先する>を実行しています。

将来のわが国有事の際に、某安保理常任理事国が、日本にとって不利な方向で、拒否権を発動するかもしれません。また、わが国が自国の安全保障のために、国際法違反だとされるような行動を取らざるをえない場面に直面する可能性だって、絶対にないとは言い切れません。
私たちは、そのようなこともありうることを、頭の片隅に入れておく必要があると思います。

5.大国の行動は国際法で抑止できるか

ロシアは権威主義体制の国であることから、そのような体制の国だから、ウクライナ侵攻のような野蛮な行動をおこなったのだと誤解する人があるかもしれません。が、米英仏やイスラエルのような自由で民主的な体制の国であろうと、大国は危機の際は、国際法よりも、自国の安全保障を優先します。
一体どこの国が、自国が滅んでも、あるいは、自国を危機に追い遣ってでも、国際法を遵守するでしょうか。

とするなら、今後も何れかの大国が、国際法よりも、自国の安全保障を優先するような行動に出る可能性は十分あるということです。私たちは、ウクライナ侵攻以降も、某大国が、国際法よりも自国の安全保障を優先するような行動を取るのを見ることになるだろうと思います。

国際法で、大国の行動を抑えることができるでしょうか。できると信じているらしい学者は、あるシンポジウムで述べています。

「プーチン大統領の演説では、かつて米国がイラクに対して武力行使を行った際に、国際秩序を揺るがしたと主張しています。その指摘は正しい。だからといって、今回ロシアがウクライナを侵略する行為が許されるわけではありません。米国が破ったからといって、ロシアも破っていいということにはならないのです。今回のロシアによる武力行使は、国連憲章で定められた武力不行使原則を、欧米諸国が度々破ってきたことに対する挑戦でもあります。それがブーメランのように、突きつけられているという点もあるのではないでしょうか」

「国連憲章で定められた武力不行使原則を」「米国が破ったからといって、ロシアも破っていいということにはならない」のは確かですが、その原則によって、米国やロシアなどの大国の武力行使を止められないのも確かです。それが、今「突きつけられている」のだと思います。

大国の行動は、彼らの侵攻を思い止まらせるだけの軍事力を保持することでしか(自国単独か、同盟国と共同かで)、抑止できません。

【参考記事です】
https://news.yahoo.co.jp/byline/aoyamahiroyuki/20220516-00296310

同士討ち ウクライナ侵攻

1.同士討ち

勿論、アメリカを含めたNATO諸国には、そんな意図はないでしょうし、そんなことを真顔で言えば、陰謀論だとされて当然です。

しかし、ウクライナ戦争を見ていると、結果的に、NATO諸国が、汎ロシア諸国のメンバー(ロシア、ウクライナ、ベラルーシ)同士を戦わせて、とりわけロシアの弱体化を図り、その脅威を除去しようとしているように思えてなりません。

2.中策か下策

孫氏の兵法に、「百戦百勝は善の善なる者に非ず」というのがあります。その意味は、「戦わないで勝つことこそが、最もよい作戦である、という教え。(中略)『孫氏』の基本的な考え方は、戦いにおいては、自分の国や軍隊をできるだけ傷つけずにすませるのが最善で、実際に戦って相手を打ち破るのは、必ず損害を伴うから次善の策である、というもの」(コトバンク)です。

あらゆる「戦争」において、戦わずして勝つが上策であり、戦って勝つは中策であり、戦って負けるは下策です。
もはやウクライナとロシアには、中策か下策のどちらかの選択しかありません。両国とも、出口の見通しもなく、ズルズル戦いを続けているように見えます。
漁夫の利という故事がありますが、さて漁夫はアメリカなのでしょうか、それとも、中共なのでしょうか。

3.誤算

元々ロシアは、独立国としてのウクライナの存在には反対ではありませんでしたし、ウクライナに対して領土的な野心があった訳でもありませんし、兄弟国なのですから、その人民の抹殺を意図した訳でもありません。
ただ、対ロシア同盟であるNATOに、ウクライナが参加するのが許せなかった。NATOに加盟すれば、同国内に米軍の基地や核を含めた兵器が配備されるかもしれず、そうなったらロシアにとって大変な脅威だからでしょう。

ウクライナは戦争によって、多くの国民の生命を失い、多くの国民を難民にし、東部や南部といった領土を奪われました。勿論、今後それらの地域を奪還するかもしれませんが、それにしても、何と多くの犠牲を払うことになったことでしょうか。

ウクライナは、一体何のための戦っているのでしょうか。自国の独立のため、あるいは、ロシアの侵略を阻止するためだと言うのかもしれません。しかし、戦争前に、ロシアに領土的な野心があった訳ではない等は、今述べた通りです。ウクライナがNATOへの加盟を求めなければ、ロシアだって侵攻する必要はありませんでしたし、領土の保全も可能でした。多くの犠牲を払ってまで、NATOへの加盟を急ぐ必要があったのでしょうか。

これは誰も言いません。しかし、敢えて言いますが、ウクライナは自国ばかりか世界を戦争に巻き込もうとしている!

短期間でウクライナ侵攻の成果が出せなかったことについて、ロシアは誤算をおかしたと多くの人たちは言いますが、ウクライナもまた大きな計算間違いをおかしたのではないでしょうか。

主権国家は平等ではない

ー米露他大国の行動原理を理解するためにー

1.疑問

ロシアによるウクライナ侵攻では、奇妙な主張がなされています。
一般的には、それは正しいとされていますし、それを主張する当人たちも、その正しさを疑っていません。その奇妙な主張とは、

A 主権国家たるウクライナに侵攻したロシアの行動は、国際法に違反しており、侵略である(注1)。

ウクライナ侵攻を単独で眺めれば、全然奇異ではないのですが、2003年アメリカが行ったイラク侵攻と対比したら、やはり珍妙だと言わざるをえません。
イラクは主権国家でしたし、アメリカはそのようなイラクを攻撃し、フセイン政権を倒しました。もしウクライナ侵攻が侵略なら、イラク侵攻だって侵略でしょう(注2)。

ウクライナ侵攻は国際法違反であり、侵略であると言ってロシアを非難している人たちが、2003年当時もアメリカを非難し、同国に対しては経済制裁を、イラクに対しては軍事支援を行うことに賛成していたのなら、不思議ではありません。
しかし、イラク侵攻の時は、今日のロシアに対するようなアメリカ非難は沸き起こりませんでしたし、日本政府にしてからが、ウクライナ侵攻ではロシア非難で、イラク侵攻ではアメリカ支持です。
両者に対する主張が矛盾しています。

ウクライナ侵攻は侵略であり、イラク侵攻は侵略ではないと言う人たちは、

B 主権国家イラクに侵攻したアメリカの行動は、国際法に違反していないし、侵略ではない

との主張なのでしょうか、それとも、

b 主権国家イラクに侵攻したアメリカの行動は、国際法に違反しているけれども、侵略ではない

との主張なのでしょうか。しかし、Bは無理筋でしょう。ということは、Aとbから、彼らは、

C たとえ国際法に違反していても、他国の主権を侵しても良い国家または場合もある

と言っているのと同じです。

奇妙な主張の二つ目は、次のようなものです。

D 主権国家はどこの国と同盟を結ぼうが自由である。故に、ウクライナがNATOに加盟するのは自由である

主権国家には、行動の自由があり、どこの国と軍事同盟または軍事協定を結ぶのも、同盟国の軍隊を駐留させ、核を含む兵器を配備するのも自由であるのだとしたら、1962年にキューバがソ連の核ミサイルを配備するのを、アメリカは反対すべきではなかったということになります。
では、ウクライナがNATOに加盟するのは自由であると言う人たちは、当時キューバがソ連のミサイルを配備するのも自由だったとの立場なのでしょうか。

また、主権国家には行動の自由があるなら、台湾に対して、独立は支持しないとのアメリカの言明だって、主権国家台湾(同国は主権、領土、国民という国家の三要素を有する独立国であり、領域に他国の主権が及んでいない点で、明らかに主権国家です)の行動の自由を妨げていることになります。云うまでもなく、アメリカが台湾の独立を支持しないと言うのは、中共を刺激して、最悪の場合、戦争になるかもしれないからでしょう。
ウクライナがNATOに加盟するのは自由であると言っている人たちは、アメリカの台湾に対する干渉を、これまで批判してきたでしょうか、彼らは台湾が即時に独立宣言するのも賛成なのでしょうか。

Dの主張者は、ウクライナのNATO加盟同様、キューバへのソ連のミサイル配備や台湾の即時独立を是とするのでしょうか、それとも、非とするのでしょうか。是とするのなら、論理的一貫性がありますが、非とするのだとしたら、一貫性がないと言わざるをえません。
そして、Dの主張者は、恐らく殆んどが後者の立場でしょう。とするなら、彼らは実際には、

E 主権国家はどこの国と同盟を結ぼうが(即時独立を宣言しようが)自由である訳ではないし、その行動の自由が制限されても良い場合もある。しかし、ウクライナがNATOに加盟するのは自由である

と言っていることになります。

ところで、欧米が、台湾に対するように、ウクライナのNATO加盟は支持しないと表明していたなら、この度の戦争は起こらなかったでしょう。

2.仮説

AとbCは矛盾していますし、DとEも矛盾しています。
両者が矛盾している場合、何れかの立場が間違っているのを認め、意見を変えるか、つまり、一方の立場を選択し、他方の立場を放棄するか、それとも、両者が矛盾しない、論理的整合性がある新たな仮説を考案するかの何れかです。
後者の線で考えてみましょう。

【仮説1】
同盟国または友好国が行った、主権国家に対する侵攻は、侵略ではないけれども、敵対国または非友好国が行った主権国家に対する侵攻は、侵略である。同じことをしても、味方と敵、友好国と非友好国に対しては、違った評価が下される。同盟国等に対してなら非難しないことでも、敵対国等に対しては非難する場合がある。なので、友好国が多いほど、国際社会では有利である。

日本にとってアメリカは同盟国であるし、有事の際には来援を求めなければならないので、イラク侵攻は侵略ではない。一方、日本にとってロシアは同盟国ではないし、今日も海空からの脅威を受けているので、同国によるウクライナ侵攻は侵略である。

これは酷い主張ですし、明らかにご都合主義的です。しかし、国際社会の現実を眺めると、あながち否定はできません。次に浮かんだ仮説です。

【仮説2】
主権国家は平等ではない。
ある種の主権国家には、他国の主権を侵す権利があるが、ある種の主権国家には、その権利はない。ある種の主権国家は、自国の安全保障のためなら、他国の主権を侵す権利があると考えているし、必要とあらばそのように行動する。

すべての主権国家が平等なら、どの国も他国を侵す権利はないとするのが当然ですが、すべての主権国家が必ずしも平等ではないのだとしたら、ある種の国家は他国を侵す権利はあるという結論だって導き出せます。

これも酷い仮説ですが、国際社会の現実はどうなのでしょうか。
一言断っておかなければならないのは、ここでは、それが善いか悪いかではなく、事実か事実でないかを問題にしています。

では、改めて問います。すべての主権国家は平等でしょうか。
確かに国際連合憲章の第二条には、「1.この機構は、そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている」との文言はあります。しかし、一方で、国連安保理の常任理事国には、拒否権があります。

この度のウクライナ侵攻で、常任理事国が、とりわけロシアが拒否権を持っていることの不当が問題になりましたが、拒否権そのものを廃止するには至りませんでした。
拒否権を廃止すれば、国連は上手く運営できるのでしょうか。拒否権を持つ大国が、国連を離脱したら、その運営に支障をきたさないでしょうか。きたすでしょう。とするなら、国際社会が選択すべきは、常任理事国が拒否権を持つ実効性のある国連か、彼らが拒否権を持たない実効性のない国連かのどちらかになります。そして、国連加盟国は、前者を取らざるをえません。

国連安保理の常任理事国は拒否権を有する。これは、現実の国際社会では、主権国家は平等ではないことの証拠ではないでしょうか。また、核拡散防止条約では、一部の国にのみ核兵器保有が認められていますが、それも主権国家は平等ではないことの証拠でしょう。

3.上位の主権国家と下位の主権国家

プーチン大統領は2008年に、「核を持たない国は、主権国家の名に値しない」と言ったそうです。また、ロシア研究家・軍事アナリストの小泉悠氏は、2019年12月10日公開の「日本を主権国家だと認めていない!? ロシアの強気な言動の根拠」という記事で、プーチン氏の発言を引用しています。

「軍事・政治同盟の枠内においては、それ(主権)は公式に制限されています。何をしてよくて何がいけないか、そこに書いてあるんですよ。実際はもっと厳しい。許可なくしては何もしてはいけないのです。許可を出すのは誰か?上位の存在です。主権を持つ国はそう多くありません。ロシアはそれ(主権)を持つことを非常に重んじます。おもちゃのように扱うわけではありません。それ(主権)は利益を守り、自らを発展させるために必要なものです」

小泉氏の同記事には、下記のような記述もあります。

「ロシア国際法思想の専門家であるメルクソーが指摘するように、ロシアの国際法理解における主権とは、すべての国家に適用される抽象的な概念ではなく、大国のそれを特に指すものであり、大国の周辺に存在する中小国の主権に対しては懐疑的な態度が見られる。

オーストラリア外務省出身のロシア専門家として知られるローもまた、ロシアの言う主権とはごく少数の大国だけを対象とした極めて狭義なものであって、中小国は基本的に主権国家とはみなされていないとしている」

プーチン氏、あるいはロシアはすべての国連加盟国を主権国家だと見做していないようです。主権国家にはそれなりに条件が必要との主張らしい。プ氏は、「自らの運命を自由に決」することができるのが、主権国家であると語ったらしい。そして、そのような見地から、「『ドイツは主権国家ではない』と述べ」る一方、インドや中共は「主権を持つ国として挙げた」そうです。ということは、アメリカの「許可なくしては何もしてはいけない」ことから、当然日本もプーチン氏の言う主権国家ではないということになります。

プーチン氏の言ではありませんが、おおよそ核兵器を保有するか否かによって、主権国家は二種類に分けることができそうです。それを保有するのが「上位の存在」としての主権国家であり、それを保有しないのが、いわば下位の存在の主権国家です。そして、プーチン氏の言う主権国家とは前者のことであり、国連憲章第二条で云われる国家とは、前者と後者を含めた諸国のことになるでしょう。

主権国家は平等ではない。そして、主権国家には、上位の主権国家と下位の主権国家の二種類があり、国際社会において上位の主権国家には行動の自由があるけれども、下位の主権国家にはそれはない。

現実には、下位の主権国家とされる諸国は、大枠として上位の主権国家の意思には逆らえませんし、下位の国家の行動は、上位の国家に制限されています。台湾の独立は支持しないというアメリカの姿勢は、そして、それに反対しえない日台の態度は、その表現です。

これは、プーチン氏、あるいはロシアだけが信奉している原則でしょうか。違うと思います。それは、アメリカを含めた上位の主権国家が共有する不文律ではないでしょうか。国際社会においては、上位の主権国家にのみ行動の自由がある。だから、アメリカはイラクが主権国家(下位の)であるのを承知の上で、侵攻したのでしょう。

ジョージ・オーウェル流に言うなら、上位の主権国家の本音は、こうなります。

すべての主権国家は平等である。
しかし、ある主権国家は、ほかのものよりも
もっと平等である。

それが分かっているから、米露英仏支以外にも、いくつかの国は上位の主権国家を目指して核保有国になったし、いくつかの国はそれを目指しているのでしょう。一方、主権平等の原則を本気で信じているのは、下位の主権国家だけではないでしょうか。

上位の主権国家の準則は、次のようなものでしょう。
上位の国家は、自国の、場合によっては同盟国の安全保障のためなら、他国の(殆どは下位国家のそれですが)主権を侵すことも許される。
そして、アメリカも、ロシアも、中共も、イスラエルもそのように振舞っていますし、英仏印パだって、有事の際はそのように振舞うでしょう。
そのように考えれば、アメリカによるイラク侵攻も、ロシアによるウクライナ侵攻も、矛盾なく説明できます。

因みに、第二次大戦以前には、世界には核兵器はありませんでしたが、当時日本は上位の主権国家でした。だから、他国の、たとえば韓国の主権よりも、自国の安全保障を優先しました。

では、上位の主権国家にとって、主権平等の原則とは何なのでしょうか。
国連自体と同様、自国の都合の良い時には利用し、都合が悪い時には反故にする、便利な道具であると言えそうです。そして今、アメリカとNATOは、ロシア非難のために主権平等の原則を振り回しています。そして、下位の存在であるわが国他は、それに追随している。

<すべての主権国家は平等である>
これは、幻想でしょう。それが幻想であるのを知っているのは、上位国家のエリートたちだけであり、その国の大衆、下位国家のエリートも大衆も、その幻想の中に棲んでいるのではないでしょうか。

4.二つの仮説の適用

仮説1と仮説2を、ウクライナ侵攻に適用したら、以下のようになります。

たとえ国際法に違反しているにしても、上位の主権国家は自国の安全保障のためなら、他国の主権を侵す権利がある。
下位の主権国家イラクに侵攻したアメリカの行動は、国際法に違反しているけれども、侵略ではない。下位の主権国家ウクライナへ侵攻したロシアの行動も、国際法に違反しているけれども侵略ではない、はずだった。

同盟国及び友好国が多いアメリカのイラク侵攻は、国際社会は必ずしも侵略だとは判断しなかった。一方、同盟国や友好国が少ないロシアのウクライナ侵攻は、国際社会で力を誇るアメリカとその同盟国が支持しないから、侵略だと判断される。

上位の主権国家はどこの国と同盟を結ぼうが自由である。しかし、下位の主権国家はどこの国と同盟を結ぼうが(即時に独立を宣言しようが)自由である訳ではないし、その行動が制限されて良い場合がある。

たとえ下位国家であるにしても、アメリカが支持するから、ウクライナがNATOに加盟するのは自由である。一方、同じ下位国家であるけれども、アメリカが支持しないから、台湾の独立は自由ではない。
こんな感じでしょうか。

ウクライナとロシア、下位国家と上位国家の二国間だけで済めば、ロシアの思い通りになったでしょうが、ウクライナの側にはNATOが付いてしまった。その中には、米英仏といった上位の主権国家がいる。それが、もう一方の側の上位国家ロシアの誤算だろうと思います。

半ば本気、半ば冗談のような論説になりました。

(注1)
国際法に違反しているとは、国際連合憲章第二条4項「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」に違反しているとされています。

(注2)
「侵攻」(invasion)は、「敵地に侵入して攻めること。攻めて相手の領地にはいりこむこと」の意味で、「自衛の対義語である国際法用語としての侵略(aggression)とは異なり、必ずしも相手の主権や政治的独立を一方的に侵す目的とは限らない、価値中立的な概念である」。
一方、「侵略」は、「『略』は『かすめるとる』『攻めとる』『奪う』の意味で」、「武力攻撃によって他国領土を剥奪すること」、「土地や財物を奪い取ること」を意味するとされます。
(コトバンク「侵攻」、ウィキペディア「侵攻」「侵略」、コトバンク「侵略」より)


ウィル・スミス平手打ち事件とウクライナ侵攻

1.平手打ち事件の場合

周知の通り、3月27日に開催されたアカデミー賞授賞式で、プレゼンターのクリス・ロック氏がウィル・スミス氏の妻を侮辱する発言を行い、怒ったスミス氏がロック氏に平手打ちを食らわすという事件が発生しました。

この事件に関しては、賛否両論がありましたが、両者の評価に関しては、五つの立場がありうるでしょう。
第一、ウィル・スミス氏が全面的に悪い。
第二、クリス・ロック氏が全面的に悪い。
第三、両者の非は、50対50である。
第四、大部分の責任はスミス氏にあるけれども、ロック氏にも一部責任がある。
第五、大部分の責任はロック氏にあるけれども、スミス氏にも一部責任がある。

スミス氏は、事後同賞主催者や来席者に謝罪の言葉を述べましたし、翌日ロック氏にも謝罪しました。また、スミス氏は4月1日に映画芸術科学アカデミーから退会し、同8日同会は今後十年間、アカデミーのイベントへの出席を認めないと発表し、スミス氏はそれを受け入れると表明しました。

スミス氏の謝罪と処分から見て、第二、第五の立場を主張する人は全くと言っていいほどいないことが分かりますし、両者を同等に処分せよという意見がないことを見ても、第三の主張者も殆んどいないと思われます。わが国の芸能人の中には、自分が同じ立場にあったら、スミス氏と同様な行動を取ったという意見もネットで見た記憶がありますが、そう言う人たちだって、そのような行動が正しいとは考えていないでしょう。正しくはないけれど、感情的に許せないというものでしょう。

結局、事件に対する人々の評価は、第一と第四の二つに割れているのだと思います。

2.ウクライナ侵攻の場合

ロシアによるウクライナ侵攻も、平手打ち事件と似た構図だと思います。同侵攻に対する評価も、五つの立場がありえます。
第一、ロシアが全面的に悪い。
第二、ウクライナと米欧が全面的に悪い。
第三、両者の非は五分五分である。
第四、大部分はロシアが悪いけれども、宇米欧にも一部責任がある。
第五、大部分は宇米欧が悪いけれども、一部ロシアにも責任がある。

しかし、平手打ち事件と同様、第二、第五を主張している人は、見たことがありません。

第三の立場らしきことを言ったのは、4月12日東大の入学式の祝辞で、「例えば『ロシア』という国を悪者にすることは簡単である。けれどもその国の正義がウクライナの正義とぶつかり合っているのだとしたら、それを止めるにはどうすればいいのか。なぜこのようなことが起こってしまっているのか。一方的な側からの意見に左右されてものの本質を見誤っていないだろうか?」と述べた映画監督の河瀬直美氏くらいでしょうか。しかし、彼女だって両者が五分五分だと考えているのかどうか・・・・。
ロシア寄りの発言をしているとか、宇米欧にも責任があると言って、批判されている人たちがいますが、彼らはたいてい第四の立場ではないでしょうか。

ウクライナ侵攻に関する評価も、実際には、第一の立場と第四の立場とに分かれているだけだと思います。冷戦時代に、左(派)から見たら真ん中も右(派)に見える、という言い方がありましたが、それと同じで、第一の立場から見たら、第四の立場も、第三の立場、両者の非は五分五分=「どっちもどっち」論に見えるのだと思います。

スミス氏はロック氏に謝罪をしたのに対し、ロシアはウクライナに謝罪をしていないと反論する人もあるかもしれませんが、戦争の途上にあり、しかも今のところ攻勢の側にある国家が謝罪するとは思えませんし、事件に一部責任がある(と私が考える)ロック氏にしろ、宇米露の政治指導者にしろ、反省を表明していないのですから、ロシアだけに謝罪を求めるのは無理でしょう。

3.統一協会による同調圧力

この度のウクライナ侵攻で気が付くのは、従来の政治問題とは違って、意見の対立する二派が、左派対右派、ハト派対タカ派という風に分かれていないことです。各々の思想的立場の人たちが各々に分裂しています。

言えるのは、第一に立脚する人たちが多数派であり、第四に立脚する人たちが少数派だということです。しかし、前者は多数派なのですから、鷹揚に構えていれば良いと思うのですが、後者の人たちの発言が癇に障るらしい。多数派の人たちは、自分と違った意見の持ち主の存在自体が許せないようです。彼らは、ウクライナ侵攻に関する日本国民の意見を統一したいのでしょうか。
戦前のわが国のスローガンは、「鬼畜米英、一億一心火の玉だ」でしたが、現在は「鬼畜ロシア、一億一心火の玉だ」です。日本人は、八十年前から少しは進歩したのでしょうか。

ただ、少数派であり、不人気な意見である分、一般的に、第一の立場の人たちよりも、第四の立場の人たちの方が、自分の頭で考えているし、勇気もあるとは言えるでしょう。

4.正確な教訓と認識

自民党の政調会長高市早苗氏は、4月19日テレビ番組に出演しました。

「高市氏は、『ロシアによるウクライナ侵攻が始まった当初は、ロシアに対して経済制裁を行うのか、同盟を結んでいないウクライナに対して武器供与するのか、装備品供与するのか、各国で温度差があった』と指摘。しかし、ウクライナ軍が必死に戦っている状況が世界に報道され始めてから、周りの国々の態度に変化があり、特にアメリカについては、『同盟関係がないにもかかわらず、経済制裁を主導し、先進的な武器の供与を始めた。やはり自分の国を自分で守るという意思を明確にした国に対しては、同盟関係がなくても周りが助けてくれる。これは日本人にとってとっても教訓だと思う』と述べた」()

これまでも、「〇〇軍が必死で戦っている状況が」あったにも拘らず、「世界に報道され」ないがために、「周りが助けてくれ」ないという事例も、あったでしょう。その点、ウクライナは幸福ですが、一方、見捨てられた諸国とのダブル・スタンダードは気になります。

それはともかく、教訓はいく通りもありえます。
たとえば、日本は中共に対して抑止力を備えなくても、侵略された後に「自分の国を自分で守るという意思を明確にし」さえすれば「同盟関係がなくても周りが助けてくれる」という教訓だって導き出せます。

そのような誤った教訓を導き出さないためにも、抑止力を備えずに安易にウクライナのNATO加盟を認め、ロシアによる侵攻を招いてしまった宇米欧の政治指導者たちの過失は、問われてしかるべきでしょう。
正確な教訓を得るためには、正確な認識は不可欠です。不正確な認識からは、正確な教訓は得られません。

5.私のスタンス

これまでも書いてきましたが、ウクライナ侵攻に関する私の主張の根幹は、次の二つです。

第一、ロシアの言い分にも一理ある。
ウクライナがNATOに加盟すれば、同国にアメリカの軍隊なり、とりわけ核兵器が配備されるかもしれず、それはロシアにとって脅威である。

第二、この度の侵攻が発生したのは、宇米欧の政治指導者たちにも一部責任がある。

戦争は宇米欧対露になっていて、大局的にはロシアは敗北するだろうと思います。けれども、上記の第一と第二が真実なのは否定できません。
この二つの地点に錨を下ろしているので、私の小舟が波間を漂う(主張がブレる)ことは、今後も余りないだろうと思います。

経済制裁と軍事支援は何のため?

人々は、自分が乗っている列車の終着駅がどこなのか、分かっているのでしょうか。

1.その政治目的

またしても、クラウゼヴィッツを引用します。
「戦争は他の手段をもってする政治の継続にすぎない」
それを応用するなら、経済制裁および軍事支援は、他の手段をもってする戦争の継続にすぎない、となります。ということは、経済制裁および軍事支援は、他の手段をもってする政治の継続でもある、ということです。

「戦争は一つの政治的行為である」。
もしそうなら、経済制裁にしろ、軍事支援にしろ、「一つの政治的行為」なのですから、何らかの政治目的を目指しているはずです。
経済制裁や軍事支援が行われるのなら、ある政治目的を達成するための手段として、それらが行使されるはずです。

2月24日、ロシア軍はウクライナへ侵攻しました。それ以降、ウクライナはロシアに抵抗しています。
欧米(EUおよびNATO)そしてわが国は、ウクライナを支援するために、ロシアに対して経済制裁を、そしてウクライナに対して軍事支援を行っています。
それでは米欧日は、何のために、経済制裁なり、軍事支援なりを行っているのでしょうか。その政治目的は何なのでしょうか。

ロシアに対し、ウクライナへの侵攻を止めさせるためなのでしょうか。
ロシアでクー・デターなり、民衆の反乱なりを起こさせて、プーチン政権を転覆するためなのでしょうか。
プーチン政権よりもより増しな、できれば民主的な政権を作るためなのでしょうか。

ある政治目的を実現するための手段として、経済制裁や軍事支援を行っているはずですが、米欧日にそれについての共通理解はあるのでしょうか。

2.目的と手段

ドイツは、1月26日軍用ヘルメット5000個を供与すると発表して、ウクライナの失望を買いました。
ところが、2月24日侵攻が開始された途端に、ショルツ首相は、2月27日連邦議会で演説し、「『ドイツ連邦軍を、確実に祖国を守ることができる近代的な軍隊に作り替える』ために、『防衛予算が国内総生産(GDP)に占める比率を2%超に引き上げ、これを維持する』と明言した」そうです(注)。

侵攻後米欧日は、ロシアに対する経済制裁とウクライナに対する軍事支援の強化を段階的に進めました。米欧日は、政治目的は明確だけれども、相手の出方に応じて手段を変えているのでしょうか。
しかし、ドイツのブレ方が象徴的ですが、どうも当事国に目的と手段が明確に意識されているとは思えません。何らかの明確な政治目的を実現しようとしているというよりも、とにかくロシアに対して懲罰を与えなければならないとの情念に駆られて、経済制裁や軍事支援を行っているように見えます。

3.たいてい計算通りに行かない

湾岸戦争(1991年)はいくらか増しでしたが、ベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争他、第二次大戦後の軍事行動は、アメリカの思い通りにはなっていません。唯一の超大国が軍事力に物を言わせて取った直接的な行動でさえ、思い描いた通りにはなっていません。
軍事力を用いてでさえそうですから、それを用いない間接的な経済制裁や軍事支援で、米欧日が期待する結果が得られるのでしょうか。

経済制裁や軍事支援で、
ウクライナに対するロシアの行動を止めさせることができるのでしょうか。
クー・デターなり、民衆の反乱なりを起こして、プーチン政権を転覆させることができるのでしょうか。
転覆させた後、プーチン政権よりも増しな政権が生まれるのでしょうか。
その政権は、受け継いだロシアの膨大な核兵器をコントロールできるのでしょうか。

ウィキペディアの「経済制裁」には、次のような記述があります。

「1930年代には経済制裁の結果、イタリアや日本を追い詰め日独伊三国同盟を締結させた例もある。経済制裁が期待した効果を生み出すとは限らない」

4.その行き着く先

侵攻を、予想も予防もできなかったリーダーたちが主導する経済制裁や軍事支援という矢によって、平和という的を射ることができるのでしょうか。
勿論、瓢箪から駒、思いがけず良い結果が得られるということはありえます。しかし、経済制裁を含めた戦争は、往々にして、誰も予想しなかった結果が生まれるというのも歴史の教訓です。

経済制裁や軍事支援によってロシアを屈服させ、来るべき対中封じ込めに同国を参加させようとの長期的な目論見に従っての行動なら良いのですが、ベトナム戦争以下で失敗をした米国に、そんな長期的な戦略は期待できません。

米欧日は、経済制裁や軍事支援の強化へ邁進していますが、それらの首脳は、その結果を「計算」しえているでしょうか。とてもそうとは思えません。

<自国側と相手国側をチキンレースに追い込むのは愚かな政治指導者である>

経済制裁や軍事支援イケイケ、ウクライナ頑張れ!が世の大勢ですが、それを推進する人たちや、それに喝采を送っている人たちは、その行き着く先が分かっているのでしょうか。

それは、戦争の拡大や飛び火、第三次世界大戦に発展することはないのでしょうか。ウクライナ戦争は、ウクライナ・NATO連合対ロシアの様相を呈していますが、もし戦争が拡大した場合、宇露の二カ国だけではなくその他の国(民)も被害をこうむることになります。
それを危惧する人たちが、両国の早期の妥協と停戦を求める和平論者になり、それを危惧しないイケイケ派が主戦論者になっているようです。

【追記】
便意兵ー西野法律事務所」という記事から引用します。

「『便衣』とは平服という意味であり、『便衣兵』と呼ばれるものには2種類あります。
1 一般市民が武器を取って抵抗するもの
2 軍隊が一般市民に偽装して作戦を行うもの」

普通、便衣兵とは2の意味で用いられますが、ウクライナのブチャで起こった虐殺は、1を原因として起きたもの、ゲリラとか非合法戦闘員の問題だと思われます。
(キーウに潜入した報道カメラマンが見たもの)

【参考記事です】
1.https://news.yahoo.co.jp/articles/94fac36da997e27c638e6407b9afcc148fafa22f?page=2
2.https://news.yahoo.co.jp/articles/7be3f44be5f08d47c1278ee360d08da807ee3d7d

アメリカの言い草には呆れます。
やはり停戦よりも継戦で、ロシアの弱体化を狙っているのでしょうか。
もっとも、米国にはそのような長期的な戦略を立案・実施する能力はないとは思いますが。
(2022・6・11)

日本は参戦している ウクライナ侵攻

1.鳥越氏の中立的発言

3月23日、ウクライナのゼレンスキー大統領が国会でオンライン演説を行うことになったことに対して、同月17日ジャーナリストの鳥越俊太郎氏は、ツイッターで反対の意見を表明しました。

「私はゼレンスキーに国会演説のチャンスを与えるのには反対する!どんなに美しい言葉を使っても所詮紛争の一方当事者だ。台湾有事では台湾総統に国会でスピーチをさせるのか?」

鳥越氏はジャーナリストなので、不偏不党とか中立とかが念頭にあっての発言かもしれません。
もし日本がウクライナとロシアの間で中立を保っているのなら、氏の主張は正しいでしょう。しかし、日本は両国の間で中立ではありません。
ロシアがウクライナに侵攻した翌日、2月25日の時点で、日本は「ロシアによるウクライナへの軍事行動の問題を受けた制裁措置(外務大臣談話)」を発していますし、その後対ロシア制裁を行っています。
鳥越氏が演説に反対した時には、日本は既に中立ではなかったのです。

2.経済制裁は戦争の延長である

戦争は軍事力を用いますが、経済制裁はそれを用いません。なので、後者は平和的な行為だと誤解している人も、少なくないかもしれません。しかし、経済制裁は平和的な行動なのでしょうか。ウィキペディアの記述を引きます。

「経済制裁は非軍事的強制手段のひとつであり、武力使用(交戦)による強制外交と同様に外交上の敵対行為と見なされる」

クラウゼヴィッツの「戦争は他の手段をもってする政治の継続である」を応用するなら、経済制裁は他の手段をもってする戦争の継続である、と言うことができます。
すなわち、経済制裁は非軍事的手段なのかもしれませんが、それは戦争の一部なのです。

わが国の北朝鮮に対する経済制裁のように、他国と一緒になってそれを行うことは、行う方は、平和的だと考えるかもしれませんが、受ける側からすれば、非平和的な、戦争の一部だと判断するだろうということです。

3.自覚なき参戦

ウクライナ・ロシア戦争に、日本は既に参戦しています。
もし参戦していない=中立なら、国会でゼレンスキー大統領の演説を認めるのと同様、プーチン大統領の演説も認めるべきですし、前者の演説を許可しないなら、後者のそれも許可すべきではありません。
しかし、日本は参戦しているがゆえに、味方の首脳が国会で演説するのは是とし、敵国の首脳には演説させないのは自然です。先の鳥越氏の発言はズレています。

問題なのは、ゼレンスキー大統領の国会演説に出席した岸田内閣の閣僚や国会議員、そして国民に、日本は参戦しているとの自覚があるのかどうかです。

4.主戦論と和平論

日本国憲法の第九条を改正すべきという人たちよりも、改正すべきではないという人たちの方が今でも多数派です()。そして、憲法の第二章は、「戦争の放棄」です。
不正や不当な戦争は勿論、正当な戦争、たとえば、自衛戦争でさえも放棄すべきと考える人たちはまだまだ少なくないはずでした。

ところが、ロシアによるウクライナ侵攻が発生すると、人々の主張が一変しました。
自衛戦争をも否定していた人たちが影を潜め、正しい戦争は許されるという風に、世間の戦争観が変ったような印象を受けます。当人たちには、その自覚がないかもしれませんが、彼らはいつの間にか、自衛戦争肯定派に転向したのでしょうか。それとも、ウクライナの自衛戦争は肯定するけれども、日本のそれは肯定しないのでしょうか。

ロシアには大義がない。同国に対する制裁を強化せよ。そのような経済制裁イケイケ派の人たちは、実質的に戦争を継続せよと言っているのに等しい。
経済制裁に賛意を示している人たちは、言わば主戦論者です。

今日、報道や言論を見る限り、多数派は主戦論者です。一方、和平論者は少数派です。そして、後者の評判は頗る悪い。彼らは、ロシアの言い分を代弁していると批判されます。
私は今まで、自分をタカ派だと思っていましたが、いつの間にかハト派になってしまいました。

今や、世界には主戦論者が溢れています。彼らは世界を、どこへ導こうとしているのでしょうか。

危険な賭け 対ロシア制裁

クラウゼヴィッツは、戦争は賭けであると言ったそうです。
唯一の超大国が全力投入した(軍事力を使用した)アフガン、イラク戦争は、米国の思い通りにはなりませんでした。

経済制裁は軍事力を用いないので、それは平和的な行動でしょうか。
クラウゼヴィッツ流に言うなら、経済制裁は他の手段をもってする戦争の継続です。
米欧日は対ロシア制裁を強めていますが、全力投入した戦争でさえ、思った通りの結果が生まれなかったのに、経済制裁で、考える通りの結果が得られるでしょうか。

経済制裁をすれば、ロシアは譲歩、もしくは引き下がるでしょうか?
それをある程度の期間実施すれば、クー・デターなり、民衆の反抗なりが起こって、プーチン政権は倒れるでしょうか?
プーチン政権後のロシアは、今よりも増しな国になるでしょうか?
その政権は、同国の大量の核兵器を制御できるでしょうか?

丁か、半か。
ロシアによる侵攻を防ぎえなかった米欧宇の指導者たちが、今また世界の人々の命を賭けて博打をしているように見えます。
彼らが思い描くように丁と出れば良いですが、半と出たなら?
言うまでもなく、半の極北は第三次世界大戦です。

往々にして、指導者の意図したのとは別の結果が生まれるというのが、戦争の、あるいは歴史の教訓です。

【追記】
インドにとって、支那は脅威ですから、遠交近攻の原則により、ロシアとは友好関係にあります。同国の武器の半分以上はロシア製であるらしい。経済制裁イケイケドンドンは、ロシアと中共をより接近させ、クアッドの一角であるインドを困惑させていることでしょう。

なぜ二つの立場に分かれるのか ウクライナ侵攻

ロシアによるウクライナ侵攻に関しては、様々な意見があります。

細々とした意見の相違を別にすれば、大枠として二つの意見に集約できそうです。

第一の立場。ロシアの言い分には全く理がない=ロシアには大義がない。

第二の立場。ロシアの言い分にも一理ある。

言うまでもなく、前者の主張の方が、圧倒的に多い。

第一と第二の立場の論者には、ウクライナ侵攻が全く別の見え方をしています。

そして、第一の論者には、第二の論者が言っていることが、全く理解できないようです。

(追加)
それにしても、第一の立場の人たちは、ロシアの動機は何だと考えているのでしょうか。

領土的野心?プーチン氏が病気だから?それとも、彼が正気を失っているから?

第一の立場では、ロシアの動機を合理的に説明できないと思うのですが。(2022・4・4)

【追記】
ウクライナ侵攻に対する私の言論は、世間の論調からかなりズレているようです。
でも、殆んど読まれていない過疎ブログなので、気にしないことにします。