ウクライナとロシアは同じくらい

1.同じくらいでないもの

「ウクライナとロシアは同じくらい」というタイトルにしました。
けれども、両国は、面積、人口、軍事力、経済力の点では、「同じくらい」ではありません。
ロシアの方が圧倒しています。

2.同じくらいなもの

しかし、両国にも、同じくらいなものがあります。

・兵士の士気

マスメディアやネットでは、ロシア軍の兵士よりも、ウクライナ軍の兵士の方が士気が高いとされています。後者は自国を守っているのに対し、前者は他国を侵略しているため、などと言う。しかし、本当でしょうか?

ウクライナでは、昨年2月25日に、18歳から60歳までの男性が出国禁止になりましたが、国民の士気が高かったら、そのような禁令は必要ないでしょう。また、侵攻後ウクライナからは、多くの国民(女性や子供や老人が多数派でしょうが、中には男性も混じっているでしょう)が出国しています。一方、ロシアは昨年9月21日の部分動員令の発令の後、国民の国外脱出が報じられました。
士気が高かったら、多くの国民が外国へ脱出するでしょうか。
ウクライナとロシアの、一方が他方より、士気が高いとは信じられません。私は、両者の士気の高さ(低さ)は同じくらいだと見ています(注)。

・国民の戦争支持・不支持

侵攻後、ゼレンスキー宇大統領も、プーチン露大統領も、国民の支持率は高いです。
ロシアは報道や言論の自由がないし、政府にとって都合の良い情報しか報じられなから、プーチン氏の支持率が高いのだと解説されます。一方、民主主義国のウクライナは、報道等が正確になされていて、自国が直面している危機について、国民の理解が得られているから、ゼレンスキー氏の支持率は高いということなのでしょうか。

ウクライナは総動員体制、戦時体制下にありますし、報道や言論の自由がそれほどあるとは思えません。それに、同国内は、戦争を支持しないとは言えない雰囲気に覆われていると私は考えます。

ウクライナ国民も、ロシア国民も、その過半は、
こんな戦争!では死にたくない。東部(ノヴォロシア)なんぞ、相手にやっても構わない!
というのが本音だろうと思います。

ゼレンスキー氏も、プーチン氏も、国民の支持率が高い、ということになっているだけなのかもしれません。

・政権の安定度

侵攻開始以降、プーチン政権を倒すクー・デターなり、民衆の反乱なりが起こるのではないか、起こって欲しいと、ずっと語られてきました。語られてきましたが、それはいまだに起こっていません。
一方、ウクライナに関しては、それらの可能性について、殆んど話題になりません。それなら、プーチン政権と比較して、ゼレンスキー政権は、より安定しているのでしょうか。たぶん、そんなことはないでしょう。
私は、両者の政権の安定度・不安定度は、同じくらいだと思います。

ついでに述べるなら、戦後の、ウクライナとロシアの国家の分裂・国土の分割の可能性も、同じくらいでしょう。

・腐敗・汚職度

ネットでは、世界各国の腐敗度ランキングのたぐいを見ることができますが、それを見るとウクライナとロシアのそれは同じくらいです。
同じルーシの人間だもの。

・残虐度

捕虜になった相手側兵士に対する虐待や殺害は、時折報じられたりもしますが、その残虐さに関しても、ウクライナとロシアは同じくらいでしょう。
同じルーシの人間だもの。

・民主主義と権威主義

西側の主流派の人たちによれば、ウクライナは民主主義体制であり、ロシアは権威主義体制だそうです。だから、西側はウクライナを支援するのだと言う。しかし、政権内や軍内部の不協和音に関する報道は、ウクライナよりもロシアの方が多いように思います(フェイクかもしれませんが、ワグネルのプリゴジン氏によるショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長批判)。
それら政権内の軋轢の報道が少ないのは、ウクライナの方が、内部が纏まっているからでしょうか、それとも、同国は、ロシアよりも発言の自由がないためでしょうか。
実際には、民主主義度、権威主義度の点で、両国は同じくらいなのかもしれません。

3.前節に対する反論に対する反論

士気以下、前節で述べた点で(その他にもそのような点はあるでしょうが)、ウクライナは、ロシアと同じくらいではないと反論(反発?)する人もあるでしょう。そして、彼らは、言うかもしれません。
同じくらいだと言うのなら、その根拠を示せ、と。

しかし、それらの点で、一方が他方よりも、高い、低い、または優れていることを示す明確な証拠がないために、私は「同じくらい」だと仮定している訳です(笑)。

それらの点で、一方が他方よりも、高い、低い、優れているという報道や言説を頻繁に見かけますが、それは希望的観測か、プロパガンダではないかと、私は疑っています。

(注)
このような記事もあります。
https://s.japanese.joins.com/JArticle/303005?sectcode=A00&servcode=A00

ウクライナ侵攻 ロシアの動機

昨年2月24日のウクライナ侵攻直前に行った演説で、プーチン大統領は、ロシアの動機は「ドンバスで起きている悲劇的な事態」と、「ロシアの重要な安全保障問題」であることを明示しています(1)。
そして、その演説と、そこで言及されている同年2月21日の演説を読めば、ロシアの主目的は、「ロシアの重要な安全保障問題」であるのが分かります。

安倍晋三元首相も、昨年の雑誌のインタビューで述べています。

「プーチン大統領は領土的野心を持っているのではなく、自国の防衛、安全の確保という観点から今回のような行動を起こしたのではないかとは思います」(2)。

ロシアは自国の安全保障のために、何を必要としたのでしょうか。
第一、ウクライナの武装強化の阻止と、第二、ウクライナのNATO加盟阻止だと思われます。

第一、ウクライナの武装強化の阻止。
米英はウクライナを軍事的に強化しました。ジョン・ミアシャイマー氏の言葉を引くなら、「事実上のNATO加盟国」(3)にしました。そして、ウクライナの軍事強化の対象はロシアです。
昨年の12月7日付ドイツのツァイト誌のインタビューで、「2014年のミンスク合意は、ウクライナに時間を与えるための試みだった」との発言の後で、メルケル前独首相は、「ウクライナもこの時間を利用して、ご覧のように、強くなった」(4)と述べましたし、このたびの宇露戦争におけるウクライナの健闘により、それは証明されました。
ウクライナが「強くなった」ことは、ロシアにとって脅威だったのでしょう。

第二、ウクライナのNATO加盟阻止。
ウクライナがNATOに加盟すれば、同国に米軍が駐留する(核ミサイルが配備される)かもしれず、そうなったらロシアにとって大変な脅威です。
それらの脅威を除去するために、ロシアは今回の行動に踏み切ったのでしょう。

ロシアの行動は、過剰反応でしょうか。そうかもしれません。
しかし、2001年9月11日、イスラム過激派によって、ニューヨークの世界貿易センタービル他を攻撃されたアメリカだって、過敏になり、その結果、アフガニスタン侵攻やイラク侵攻を起こしました。

核ミサイルを撃ち込まれる可能性はないのに、地球の反対側にまで行って、敵を殲滅もしくは打倒しようとしたアフガニスタン紛争やイラク戦争よりも、ロシアのウクライナ侵攻に似ているのは、これは多くの人たちが指摘していることですが、1962年ソ連がアメリカの裏庭に位置するキューバに、核ミサイルを配備しようとしたキューバ危機でしょう。

ミアシャイマー氏は、語っています。

「国家、とりわけ大国というものは、お互いに『恐怖』を感じています。その恐怖の度合いは、時と局面によって違ってきますが、自分たちの生存が脅かされるほどの恐怖を感じた時、国家は大きなリスクを背負って大胆な行動に出るのです」(5)。

そして、9・11後のアメリカも、今回のロシアも、「大胆な行動に出」ました。
それにしても、アメリカの「大胆な行動」に対しては、西側諸国は、米国に対しては経済制裁、イラクに対しては経済・軍事支援ではなかったのに、昨年以来のロシアのそれに対しては経済制裁、ウクライナに対しては経済・軍事支援なのは、どうしてなのでしょうか。
明らかにダブル・スタンダードですが、それを納得できるように説明した論説を、見たことがありません。

それはさておき、たとえ「自分たちの生存が脅かされるほどの恐怖を感じ」たとしても、大国はあくまでも国際法の枠内で、行動する(すべき)でしょうか。米露が実例を示してくれているように、そんなことはありません。2022年5月31日に、「現実は法に優先する」という投稿を公開しましたが、大国の行動原理は、<自国の安全保障は国際法に優先する>です。
大国は国際法よりも、自国の安全保障を優先します。そして、アメリカもロシアも、そして、いわゆる大国ではありませんが、イスラエルも、そのように振舞っています。

今後の世界の平和のために必要なことは、
第一、ロシアは彼らなりに、自国の安全保障のために行動していることを認めること、
第二、必ずしも、ロシア=悪、ウクライナ=善、ではないことを認めること。

この二つを認めるなら、そして、戦後国際社会が、とりわけ西側が制裁を解除するなりして、ロシアを受け入れるなら、ヨーロッパは、そして世界は平和になるでしょう。しかし、この二つを認めないなら、それを原因とする紛争が、何れ生じることになるでしょう(6)。

(1) https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220304/k10013513641000.html
(2) 『月刊 Hanada』2022年5月号 36頁
(3) 『文藝春秋』2022年6月号 149頁
(4) 「ミンスク合意は『ウクライナに時間を与える』ための試みだった=メルケル前ドイツ首相」Sputnik 日本
(5) 『文藝春秋』2022年6月号 156頁
(6) 西側の政治家、メディア、知識人、ヤフコメ民に代表される大衆などの発言を見ると、おおよそ予想できますが、西側諸国は、たぶん後者を選択することになるでしょう。

【参考動画です】
https://www.youtube.com/watch?v=TGHd4806WAA

ウクライナの反転攻勢について

1.それはいつなのか?

西側からの兵器を得て、いよいよウクライナが反転攻勢をしかけるだろうと、マスメディアやネットで話題になっています。

その時機を巡っては、既に始まっているとの説もあれば、近日中に始まるとの説もあれば、ウクライナには反転攻勢をする余力がないとの説もあります。

それがいつ始まるかはともかく、実際に始まったとして、予想される結果は、そうそう楽観視できないだろうと思います。

2.兵器の損傷が大きければ

ウクライナが劇的に占領地を奪回し、しかも、兵器の損傷が少なければ、奪回地を維持できます。また、占領地の奪回がわずかであっても、兵器の損傷が少なければ、奪回地を維持できるでしょう。

しかし、劇的な奪回を果たしたとしても、兵器の損傷が大きければ、奪回地を維持するのは困難でしょうし、西側からの更なる軍事支援が到着するまで、持ちこたえられるでしょうか。その場合、再びロシアに押し戻されるかもしれません。

ウクライナは、外国からの軍事支援で戦っているので、その点、ロシアに足元を見られています。同国の兵器の損傷が激しければ、ロシアはその隙を狙うでしょう。
ロシアは自らの敗北が明確にならない限り、戦争目的を達成しようとするでしょう。

ウクライナの反転攻勢が成功し、それを見て、西側が即座に、多大な軍事支援を行えば、奪回地は維持できるかもしれません。
しかし、反転攻勢が失敗し、兵器の損傷が甚だしければ、そこからがロシアの反転攻勢のスタートになるかもしれません。そうなると、ウクライナの反転攻勢は、同国の敗北を早める結果になりさえします。

反転攻勢は、一種の博打です。
吉と出るでしょうか、それとも、凶と出るでしょうか。

「かもしれません」、ばかりの文章になってしまいました。

戦場で新しい国境が決まる

このブログでは、シカゴ大学政治学部教授のジョン・ミアシャイマー氏や、フランスの歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏に言及したことがあります。が、私は日本人では、国際政治アナリスト伊藤貫氏の動画「真剣な雑談」や、元外務省主任分析官佐藤優氏の論説や鈴木宗男参議院議員が主催する大地塾での氏の発言に注目しています。勿論、すべてを見たわけではありませんが。

彼らの名前を挙げると、道理でお前の投稿は親露的なはずだと言われそうですが、重要なのは、親宇派とか、親露派とかの政治的色分けではなく、誰の言論が真を衝いているかでしょう。
一年以上ウクライナ問題を見てきて思うのは、ミアシャイマー氏の論説(『文藝春秋』2022年6月号)が、一番真実に近いように思われます。

大地塾の講演で、鈴木氏も佐藤氏も、即時停戦を主張しています。けれども、ウクライナとロシアの主張・目的の隔たりが大きすぎて、両者の折り合いがつくはずがないので、現状では停戦は不可能でしょう。

佐藤氏は、『Wedge』という雑誌の2014年8月26日付のオンライン記事「佐藤優が分析するウクライナ危機の黒幕とプーチン来日問題」で語っています。

「率直にいうとお互いにまだ殺し足りないことだ。これ以上犠牲が出るのは嫌だとお互い思わないと、和解は成立しない。満足のいく犠牲者の数がどのぐらいかというと、定量的には表せない。ある国では何十人だが、ある国では何万人。時期によっても変わる。そのラインに達したとき、和解は成立する」

記事の年月日を見れば分かりますが、昨年から始まった侵攻に関しての発言ではありません。しかし、その主張は、現状でも、そのまま通用しそうです。なので、戦場である程度の決着をつけなければ、停戦は実行できないでしょう。
それはともかく、上のように主張した佐藤氏なら、現在でもそのような発言をして当然だと思うのですが、なぜか即時停戦を主張しています。

ヤフー記事のコメント欄を見ると、いまだにウクライナ側が優勢だとが、ロシアは劣勢だとか、ウクライナは全占領地を奪還できるとかを信じている人が少なくありません。しかし、彼らはどのような情報から、そのような判断を行っているのでしょうか。不思議です。

戦況図を見れば、特に、バフムートでのそれを見れば、少しづつですが、ロシアが押しているのは分かりますし(注)、奪われた広大な土地をウクライナが取り戻せている訳でもありませんし、4月20日に配信されたNewsweek誌の記事で、ウクライナの駐英大使バディム・プリスタイコ氏も認めています。

「西側の同盟国は、ウクライナによる春の大規模反転攻勢に注目していながら、勝利を確実にするほどの支援をしていない。(中略)
あまり認識されていないが、ロシアは大きな戦果を手にしている。『ロシアはすでに多くの成果を得ている。だからいつでも、交渉のテーブルにつくことができる』
『一方、ウクライナにとって交渉は、失うことを意味する。最低でもクリミアを奪われることは天才でなくても理解できる』(中略)
今すぐ戦争を終らせても、ロシアは国境からクリミア半島まで地続きの領土を手にすることができる。ロシアにとってこれは勝利を意味する、とプリスタイコは言う」

「あまり認識されていないが」と断りつつ、「ロシアは大きな戦果を手にしている」云々と語っています。現在の戦況は、この通りでしょう。ヤフコメ民の多数派の認識とは、相当な懸隔があります。

因みに、このNewsweek誌の記事を元にしたヤフーのそれには、コメントが6件しかありません(今日現在)(https://news.yahoo.co.jp/articles/c4ecd470f43f23ab667fcd19d9500a0470a092fa)。

他の記事では、数十、数百、時に一千件を超えるコメントが寄せられるのに。
本質的ではない記事ばかり読んでいるから、ヤフコメ民は認識がズレてしまうのかもしれません。

ウクライナ情勢は、現状はロシアの方が優勢です。
自力で戦っていない、西側からの支援頼みのウクライナは、今後西側からの支援が劇的に増大しない限り、全占領地の奪還は無理でしょう。そして、この先西側からの支援は劇的に増加しうるでしょうか。どうもそんなことはありそうもありません。

とするなら、不測の事態(ゼレンスキー氏やプーチン氏の死亡または暗殺、クー・デターによる何れかの政権の崩壊)でも発生しない限り、予測しうるのは、ウクライナとロシアの戦闘が膠着したところで、そこが新しい国境となって終わる、ではないでしょうか。

ロシアの目的が、ウクライナ全土の併合だと信じている人たちにとっては、その場合も、ロシアの敗北なのかもしれません。

(注)
5月20日、ロシア側はバフムートの市街地をほぼ制圧したようです。一方、ウクライナ側は同郊外の一部を掌握しているだけのようです。(2023・5・27)

ロシアの侵攻目的

1.ロシアの目的

今月7日公開の投稿でも述べましたが、昨年2月24日、侵攻直前にプーチン大統領が行ったテレビ演説によれば、その目的は、A.「ロシアの重要な安全保障問題」とB.「ドンバスの悲劇的な事態」の解決です。その具体的な内容に関する、自分なりの解釈と、それに関するプーチン氏の演説を、以下で記します。
引用文末の(2・24演説)と(2・21演説)は、プーチン氏が侵攻前に行った演説と、そこで言及されている昨年2月21日に行った演説からの引用だという意味です。

<A.に関して>

第一。ウクライナのNATO加盟阻止。
冷戦後、NATOが東方へ拡大して行きました。同同盟は、実質的に対ロシア軍事同盟(仮想敵はロシア)であり、その矛先はロシアに向いています。

そのような対露同盟に、「単なる隣国ではない・・・・私たち自身の歴史、文化、精神的空間における不可欠な部分・・・・私たちの同志、最も大切な人々であり・・・・親戚や血縁、家族の絆で結ばれた人たち」(2・21演説)であるウクライナが、加盟しようとしました(「単なる隣国」であるフィンランドやスウェーデンの加盟は、ロシアはさほど問題にしていません)。
加盟すれば、NATO軍、最悪アメリカ軍がそこに駐留するかもしれません。

「近年、NATO諸国の軍事派遣団は、演習の名目でウクライナの領土に常駐している。ウクライナ軍の統制システムは、すでにNATOに統合されている。(中略)
アメリカとNATOは、ウクライナの領土を軍事作戦の潜在的な舞台として、無分別に開発してきた。定期的な合同演習は、明らかに対ロシアのものであり、(中略)
多くのウクライナの飛行場は、我々の国境からそれほど遠くない場所にある。そこに配備されたNATOの戦術航空機は、精密兵器運搬船を含めて、私たちの領土をヴォルゴグラード、カザン、サマラ、アストラハンのラインの深いところまで攻撃することができる。ウクライナ領内に偵察レーダーを配備することで、NATOはウラル山脈までのロシアの領空を、厳しく管理することができるようになる。

最後に、米国が中距離核戦力全廃条約(INF条約)を破棄した後、ペンタゴン(米国防総省)は、最大5500キロメートル離れた標的を攻撃できる弾道ミサイルを含む陸上攻撃兵器を公然と開発してきた。ウクライナに配備された場合、これらのシステムはロシアの欧州地域全体の標的を攻撃できるようになる。巡航ミサイル『トマホーク』のモスクワまでの到達時間は35分未満になる。ハリコフからの弾道ミサイルなら7~8分。そして極超音速攻撃兵器では4~5分だ。それは喉へ突きつけられたナイフのようなものだ」(2・21演説)

第二。ウクライナ自身からの脅威の除去(ウクライナの非軍事化)。
NATO軍の脅威とは別に、米英によって軍事強化されたウクライナ自身による脅威も、ロシアは感じていたようです。

「すでに我々が知っているように、今やウクライナは自分たち独自の核兵器をつくる用意があると宣言している。(中略)
戦術核兵器の取得はウクライナにとって簡単なことだ。(中略)
もしウクライナが大量破壊兵器を手に入れたら、世界とヨーロッパの状況は、特に我々ロシアにとって劇的に変化することになる。
西側にいるウクライナの後援者たちは、ウクライナがこれらの兵器を入手し、ロシアに対する新たな脅威を生み出すのを助けることができるため、我々はこの危険に反応せざるを得ない」(2・21演説)(1)

安倍晋三元首相は、昨年の『月刊 Hnada』の編集長インタビューで述べています。

「プーチン大統領は領土的野心を持っているのではなく、自国の防衛、安全の確保という観点から今回のような行動を起こしたのではないかと思います」(2022年5月号、36頁)

NATOの東方拡大によってロシアが受けた脅威と、それを与えたNATO側の意識のギャップが、このたびの侵攻の原因だと思われます。

<B.に関して>

第三。「ドンバスの悲劇的事態」の解決(2)。
2014年以来、「8年間、ウクライナ政府によって虐げられ、ジェノサイドにさらされてきた(ロシア系の)人々を保護すること」(2・24演説)。
そのために、ドンバスのウクライナからの分離、ロシアへの併合を求めたのでしょう(3)。

<AとBの両方に関して>

第四。反ロシアの現ウクライナ政権の転覆(非ナチ化)。
軍事強化されたウクライナ軍の矛先は、ロシアに向いていますし、東部地域では、ロシア系住民が迫害を受けています。
反ロシア=ナチ政策(4)を推し進めているウクライナ現政権を転覆すること。
但し、昨年11月21日、ペスコフ露大統領報道官は、「侵攻時に『非ナチ化』と称してゼレンスキー政権の排除を目指したことに関し、現時点で侵攻の目的ではないと述べた」そうです(5)。
現在の目的は、第一、第二、第三ということでしょう。

2.それはロシアの目的ではない

ロシアが言ってもいないことを、言っているかのように解釈をして、それを基に、同国を非難する人たちがいます。彼らによれば、ロシアの目的は、
第一、ウクライナ全土の併合、
第二、ウクライナ民族の絶滅(6)、
第三、ウクライナの破壊(7)、
であるらしい。

しかし、ロシアはどこで、そのようなことを言っているのでしょうか。
私は、2・24演説と2・21演説と「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」という論文くらいしか読んでいないので、ロシアが別のところで、上記を目的すると述べているかもしれませんが。
何れにせよ、そのように主張するのなら、どこでそう言っているのかを示すべきです。

ロシアが表明していることをそのまま信じるのはナイーブだという人もあるかもしれません。しかし、これまで何度も引用しましたが、ラブロフ露外相は、昨年9月24日の国連本部での記者会見で、2・24演説に関して、ロシアの侵攻の目的は「そこに全部書いてある」と述べています。それに、プーチン氏は合理的な人間だと評されていますし、それなら、文書で表明されていること=プーチン氏・ロシアが実際に考えていること、と判断するのが自然だと思います。

(1) ロシアの軍事・安全保障政策が専門の小泉悠氏は、ウクライナの核武装の意図については懐疑的です(『ウクライナ戦争』、ちくま新書、220頁)。私も半信半疑なのですが、プーチン氏は2・24演説でも、ウクライナは「今やさらに、核兵器保有まで求めている」と発言していますし、2・21演説での発言内容も、嘘ばかりだとはとても思えないので、そのまま引用しました。
(2) これはウクライナとロシアの間に関してだけではありませんが、政治が強引に引いた国境と、居住する民族が一致しないことが、多くの紛争の原因でしょう。
(3) ロシアは、ザポリージャとヘルソン州も併合を宣言しましたが、それについては、2・24、2・21演説、一体性論文の何れにも言及がありません。
昨年9月30日に、その他ルハンスク、ドネツク州と共に、四州の併合を宣言しましたが、その演説を読んだ限りでは、その意図は「ドンバスとノボロシア」のロシアへの復帰、であるようです。
(4) 第二次世界大戦、ロシアがいうところの大祖国戦争において、ウクライナは反ソ(ロ)の立場からナチス・ドイツの側についた者と、ソ連=ロシアの側についた者に分かれて戦いました。プーチン氏の言うナチとは、反ロシアの側につく者という意味に、私は理解しています。
(5) https://www.jiji.com/jc/article?k=2022112300427&g=int
(6) 第一と第二に関する記事です。
グレンコ・アンドリー氏の発言に対する疑問
(7) https://www.yomiuri.co.jp/world/20230428-OYT1T50038/
アメリカの対宇支援の目的は、ロシアの破壊である、との主張と相似形を成しています。

プーチン大統領の侵攻前演説を読む

1.ロシアの言い分

昨年2月24日、ロシア軍はウクライナへ侵攻しました。
主権国家が主権国家に侵攻したのですから、それは明らかに国際法違反であり、侵略である。だから、ロシアの行動は非難してしかるべきだとの意見が、少なくとも西側諸国では圧倒的です。

しかし、一方、ロシアにも言い分があり、同国はそれを表明しているので、ロシアの行動を非難するにしても、一度それに耳を傾けてからにしてはどうでしょうか。
というのは、世にあふれるロシア非難を見ても、ロシアの主張を読んでさえいないと思われる言説が、大部分だからです。

2.ラブロフ露外相の言

ロシアのラブロフ外相は、昨年9月24日、国連本部での記者会見で、述べました。

「プーチン大統領が2月24日に発表したことをもっと頻繁に、気をつけながら読むといい。そこに全部書いてある。読めばわかる」(1)

ロシアの侵攻目的は、プーチン氏が2月24日の侵攻の直前に行った演説で、明示されているということでしょう。
では、当の2・24演説を見てみましょう。

3. 2・24演説

プーチン大統領は2月24日の演説を、次のように始めています。

「親愛なるロシア国民の皆さん、親愛なる友人の皆さん。

きょうは、ドンバス(=ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州)で起きている悲劇的な事態、そして、ロシアの重要な安全保障問題に、改めて立ち返る必要があると思う。

まずことし2月21日の演説で話したことから始めたい。・・・・」(2)

この文言から、ロシアがウクライナへ侵攻した動機は、二本の柱から成っているのが分かります。「ドンバスで起きている悲劇的な事態」と「ロシアの重要な安全保障問題」です。
そして、プーチン氏は、まず、後者の問題を語り、その後、「そんな中、ドンバスの情勢がある」として、前者の説明をしています。

「まずことし2月21日の演説で話したことから始めたい」と述べていますが、2・21演説で語っているのは、現在の事態を招くことになったウクライナの歴史と現状です。その殆んどが「ロシアの重要な安全保障問題」に関する事柄であり、最後に、ドンバスのことに少し触れているに過ぎません。

2・24演説と2・21演説から分かるのは、ロシアにとって、主目的は自国の安全保障問題であり、副次目的がドンバスの問題であることです。戦前日本の戦争の主目的が、自存自衛であり、副次目的が東亜解放であったように。

4.主目的

では、主目的に関する、プーチン大統領の2・24演説を所々引用しましよう。

「まずことし2月21日の演説で話したことから始めたい。それは、私たちの特別な懸念や不安を呼び起こすもの、毎年着実に、西側諸国の無責任な政治家たちが我が国に対し、露骨に、無遠慮に作り出している、あの根源的な脅威のことだ。
つまり、NATOの東方拡大、その軍備がロシア国境へ接近していることについてである。(中略)

NATOは、私たちのあらゆる抗議や懸念にもかかわらず、絶えず拡大している。(中略)それはロシアの国境のすぐ近くまで迫っている。

私たちの国境に隣接する地域での軍事開発を許すならば、それは何十年も先まで、もしかしたら永遠に続くことになるかもしれないし、ロシアにとって増大し続ける絶対に受け入れられない脅威を作り出すことになるだろう。(中略)

すでに今、NATOが東に拡大するにつれ、我が国にとって状況はどんどん悪化し、危険になってきている(中略)。

NATOが軍備をさらに拡大し、ウクライナの領土を軍事的に開発し始めることは、私たちにとって受け入れがたいことだ。(中略)

問題なのは、私たちと隣接する土地に、言っておくが、それは私たちの歴史的領土だ、そこに、私たちに敵対的な『反ロシア』が作られようとしていることだ(3)。
それは完全に外からのコントロール下に置かれ、NATO軍によって強化され、最新の武器が次々と供給されている。

アメリカとその同盟諸国にとって、これはいわゆるロシア封じ込め政策であり、明らかな地政学的配当だ。
一方、我が国にとっては、それは結局のところ、生死を分ける問題であり、民族としての歴史的な未来に関わる問題である。(中略)

誇張しているわけではなく、実際にそうなのだ。
これは、私たちの国益に対してだけでなく、我が国家の存在、主権そのものに対する現実の脅威だ。

それこそ、何度も言ってきた、レッドラインなのだ。
彼らはそれを超えた。

そんな中、ドンバスの情勢がある」

5.副次目的

「そんな中、ドンバスの情勢がある」以下で、「ドンバスで起きている悲劇的な事態」について述べています。

「ロシアしか頼る先がなく、私たちしか希望を託すことのできない数百万人の住民に対するジェノサイド、これを直ちに止める必要があったのだ。(中略)

ドンバスの人民共和国はロシアに助けを求めてきた。
これを受け、国連憲章第7章51条と、ロシア安全保障会議の承認に基づき、また、本年2月22日に連邦議会が批准した、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国との友好および協力に関する条約を履行するため、特別な軍事作戦を実施する決定を下した。

その目的は、8年間、ウクライナ政府によって虐げられ、ジェノサイドにさらされてきた人々を保護することだ。
そしてそのために、私たちはウクライナの非軍事化と非ナチ化を目指していく。(中略)

ただ、私たちの計画にウクライナ領土の占領は入っていない(5)。
わたしたちは誰のことも力で押さえるつもりはない」

6.ウクライナの人々へ

プーチン氏は、ウクライナ国民へ、次のような訴えも行っています。

「現在起きていることは、ウクライナ国家やウクライナ人の利益を侵害したいという思いによるものではない。
それは、ウクライナを人質にとり、我が国と我が国民に対し利用しようとしている者たちから、ロシア自身を守るためなのだ。

繰り返すが、私たちの行動は、我々に対して作り上げられた脅威、今起きていることよりも大きな災難に対する、自己防衛である。
どんなにつらくとも、これだけは分かって欲しい」

(1) https://www.asahi.com/articles/ASQ9T41MQQ9TUHBI004.html
(2) https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220304/k10013513641000.html
(3) 「問題なのは」以下は、次のように解釈すべきだと思います。
「問題なのは、私たち《ロシア》と隣接する土地《ウクライナ》に、言っておくが、それ《ウクライナ》は私たち《ルーシ》の歴史的領土だ、そこ《ウクライナ》に、私たち《ロシア》に敵対的な『反ロシア』が作られようとしていることだ」
なぜ太字の箇所が、ロシアではなくルーシなのかと言えば、プーチン氏は「私たちの計画にウクライナ領土の占領は入っていない」と語っているからです。
(《 》内は、いけまこ補足) 


なぜロシアの動機を非合理的にしか説明できないのか

昨年4月3日に「なぜ二つの立場に分かれるのか ウクライナ侵攻」という記事を公開しました。
短いので、全文を引用します。

「ロシアによるウクライナ侵攻に関しては、様々な意見があります。
細々とした意見の相違を別にすれば、大枠として二つの意見に集約できそうです。

第一の立場。ロシアの言い分には全く理がない=ロシアには大義がない。
第二の立場。ロシアの言い分にも一理ある。

言うまでもなく、前者の主張の方が、圧倒的に多い。
第一と第二の立場の論者には、ウクライナ侵攻が全く別の見え方をしています。そして、第一の論者には、第二の論者が言っていることが、全く理解できないようです。

(追加)
それにしても、第一の立場の人たちは、ロシアの動機は何だと考えているのでしょうか。
領土的野心?プーチン氏が病気だから?それとも、彼が正気を失っているから?
第一の立場では、ロシアの動機を合理的に説明できないと思うのですが。(2022・4・4)」

侵攻開始から、一年以上経ちますが、記事で述べたことは、そのまま通用しそうです。

「第一の立場。ロシアの言い分には全く理がない=ロシアには大義がない」と考える人たちが主戦論者になり、「第二の立場。ロシアの言い分にも一理ある」と考える人たちが、和平論者になっています。

そして、西側では、「言うまでもなく、前者の主張の方が、圧倒的に多い」。
もっとも、じわりじわりですが、後者の主張者の数が、増えているようです。

第一と第二の立場の論者には、ウクライナ侵攻が全く別の見え方をしています。
そして、第一の論者には、第二の論者が言っていることが、全く理解できないようです 」

ヤフー記事のコメント欄を読むと、つくづくそう思います。侵攻から一年以上経つのですから、両者の認識がいくらかでも近づいても良さそうなのですが。両者の認識が、一向に近づいていないのは、なぜでしょうか。

第一の立場の人たちは、「ロシアの言い分には全く理がない」と考えていますが、彼らは、ジョン・ミアシャイマー氏やエマニュエル・トッド氏のような優れた知識人の論説を読んでいないし、何よりも、プーチン氏が侵攻直前に行ったテレビ演説を、読んでいないからだと思います。要するに、ロシアの言い分に、耳を傾ける意思がない。だから、第一の論者は、ロシアの動機について、非合理な解釈を行う。そのために、第一の論者と、第二の論者の話が通じないのではないでしょうか。

「それにしても、第一の立場の人たちは、ロシアの動機は何だと考えているのでしょうか。
領土的野心?プーチン氏が病気だから?それとも、彼が正気を失っているから?
第一の立場では、ロシアの動機を合理的に説明できないと思うのですが」

「ロシアの動機を合理的に説明できない」!
そのことこそが、第一の論者の解釈なり、仮説なりが、間違っていることの証拠ではないでしょうか。

膠着ならロシアの勝ち

バフムート攻防戦に関する、あるヤフー記事のコメント欄に、4月14日ある人は書いています。

「東部の一都市を制圧するのに何か月かかるんだよ。
これじゃウクライナ全土の掌握など100年かかるな(笑)」

今月11日公開の記事「ウクライナの併合はロシアの目的か」で述べましたが、「ウクライナ全土の掌握」は、ロシアの目的ではありません。
それはともかく、ロシア連邦軍がバフムートへ攻撃を開始したのは、昨年5月からとのことです(注)。「東部の一都市を制圧するのに何カ月かかるんだよ」と言うのは、正しいかもしれません。しかし、逆も真なりです。

ウクライナの目的は、昨年2月24日以降に奪われた領土と、クリミアの奪回です。しかし、現状は、同国はバフムートでロシア軍に押されています
「東部の一都市」を死守するのも厳しい状況です。とするなら、「これじゃ占領地全土の奪還など100年かかるな(笑)」ということになりませんか。

この先、ウクライナなりロシアなりの、どちらかが、劇的に戦況を有利に変える可能性は、あるのでしょうか。どうもありそうにありません。
今月発覚した、流出した米軍の機密文書によれば、「戦況は膠着状態に陥る可能性が高い」との記述があるらしい。

朝鮮戦争では、双方が、結局膠着状態に陥り、北緯38度線を境に、北は北朝鮮が、南は韓国が掌握し、現在に至っています。同戦争では、勝敗の決着がつかなかったので、引き分けで終わったと言えます。

では、ウクライナ侵攻では、現在の状況で膠着した場合、双方は引き分けだと判断できるでしょうか。できません。領土を一方的に占有されているのは、ウクライナの側だからです。

A バフムートを落とし、さらに占領地を拡大すれば、ロシアの優勢または勝ち。

B 膠着でもロシアの優勢または勝ち

ということになります。

C ウクライナの優勢または勝ちだと判断できるのは、同国が奪還地を増やしている場合だけです。

(注) 「バフムートの戦い

【追記1】
ウクライナのバディム・プレスタイコ駐英大使は、『Newsweek』誌のインタビューで語ったそうです。

「西側の同盟国は、ウクライナによる春の大規模反転攻勢に注目していながら、勝利を確実にするほどの支援をしていない。(中略)
あまり認識されていないが、ロシアは大きな戦果を手にしている。『ロシアはすでに多くの成果を得ている。だからいつでも、交渉のテーブルにつくことができる』
『一方、ウクライナにとって交渉は、失うことを意味する。最低でもクリミアを奪われることは天才でなくても理解できる』(中略)
今すぐ戦争を終らせても、ロシアは国境からクリミア半島まで地続きの領土を手にすることができる。ロシアにとってこれは勝利を意味する、とプリスタイコは言う」
(https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/04/post-101443.php)

【追記2】
バフムート攻防戦で云われていることですが、「ウクライナは、バフムト防衛はロシア軍を消耗させるためと位置付けて」いるという。
ヤフー記事のコメント欄を見ると、これを文字通り信じている人たちがいます。しかし、それは本当だと信じて良いのでしょうか。
「ロシアは、バフムト攻撃はウクライナ軍を消耗させるためと位置付けて」いるようにも見えるのです。

習近平氏訪露が意味するもの

ーロシアの負け、はないー

先月20日、習近平支国家主席はロシアを訪問し、プーチン露大統領と会談を行いました。
その「双方のねらいと世界への影響」の分析はNHKに任せて、私の個人的な見解を述べます。

昨年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻で、西側諸国はロシアに対しては経済制裁を、ウクライナに対しては軍事・経済支援を、現在も継続して行っています。

もし西側の経済制裁が効力を発揮し、ロシアが経済的に苦境に陥り、継戦が困難になっていたなら、また、西側の軍事支援が功を奏し、ウクライナ軍がロシア軍を押し返し、占領地をますます取り戻しているようなら、習近平氏は先月ロシアを訪問したでしょうか。

する訳がありません。中共が、負けると分かったロシアを、訪問するはずがありません。
開戦後、一年が経過して、大勢の見極めがついたから、つまり、ロシアが勝つとは言えないまでも、その負けはないと踏んだから、習氏は訪露したのではないでしょうか。

西側の支援目的

昨年2月24日の、ロシアによるウクライナへの侵攻以来、アメリカを筆頭とするNATO諸国やその他の西側諸国は、ロシアに対しては経済制裁、ウクライナに対しては軍事、経済支援を行っています。

そもそも、西側の支援の目的は何なのでしょうか。
・ウクライナに勝利させるため。
・ロシアを潰すため、あるいは、その力を削ぐため。
・プーチン政権を倒すため。
・戦争を終らせるため(目的と手段が一致していませんが)。
・欧米の軍需産業、あるいは、アメリカのエネルギー産業を儲けさせるため。
・西側諸国の旧式兵器を処分し、新式兵器を導入するため・・・・。

西側の経済制裁や、軍事・経済支援に関して、明確な目的なり、戦争の出口戦略なりはあるのでしょうか。そして、それが、西側諸国の共通理解となっているのでしょうか。
西側には、明確な目的なり、出口戦略があるとは思えません。だから、陰謀論的言説が流通し、また、各国の支援の温度差となって表れているのだと思います。

西側には、支援の目的の共通認識があるとは思えません。あるとすれば、次の一言で云い表せそうです。

<ロシアに勝たせてはならない>

その情念が、西側の政治リーダーや国民を突き動かしている。

けれども、理想(ロシアに勝たせてはならない、ウクライナに勝って欲しい)と現実(物価やエネルギー価格が上昇しているし、ウクライナが勝つとの見込みに対しても半信半疑である)のギャップがあり、そのため、littleでlateな支援になっているのではないでしょうか。

表向きの発言とは違って、NATO諸国の首脳たちの苦悩は、かなり深いだろうと思います。