中村逸郎教授の「大胆予想」

ロシア政治を専門とする中村逸郎筑波大学名誉教授は、5月13日にテレビに出演し、そこで、「『ロシア軍はあと2、3カ月しかもたない』と大胆予想した」そうです(1)。

5月13日から三カ月経ちました。しかし、ウクライナ情勢は相変わらず、ロシア優勢で推移しています。中村氏の「大胆予想」は、大外れでした。

作家で、元外務省主任分析官の佐藤優氏は、書いています(2)。

「ウクライナ戦争に関する日本の報道は、『政治的、道義的に正しいウクライナが勝利しなければならない』という価値観に基づいてなされている。
このことが総合的分析の障害になっている」

佐藤氏が言うように、「『政治的、道義的に正しいウクライナが勝利しなければならない』という価値観に基づいてなされている」から、中村氏は判断を誤ったのだと思います。

(1)https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2022/05/13/kiji/20220513s00041000427000c.html
(2)https://www.tokyo-sports.co.jp/social/4296977/

出口戦略と結末 ウクライナ侵攻

1.戦争は強い側が勝つ

今回は、「出口戦略と結末 ウクライナ侵攻」という題名にしましたが、戦争の出口戦略を考えるには、戦争当事国双方の力の強弱を無視することはできません。なぜならば、戦争は強い側が勝ち、弱い側が負けますし、その力の差によって、双方がとりうる出口戦略の範囲が決まるからです。

今後、攻撃の限界点を迎え、ウクライナ側が巻き返すかもしれませんが、今のところ戦局は、ロシア≧ウクライナ(ロシアはウクライナよりも優勢もしくは同等である)で推移しています。

2.ロシアの出口戦略

ロシア・ウクライナ戦争は、ロシアが優位な情勢なので、まず、ロシアの出口戦略を考えましょう。
一体、同国の首脳陣は、この戦いの出口について、どう考えているのでしょうか。
元々ロシアの戦争の主目的は、ウクライナのNATOへの加盟の阻止=同国の中立化であり、副目的はドンバス地方の「解放」でした(1)。

ウクライナのNATO加盟は阻止しえましたし、ドンバスの「解放」もおおよそ実現できそうです。さらに、ドンバスからクリミア半島に至る回廊を確保すれば、戦争目的は達成したと言えるでしょう。
私がロシアの指導者なら、それが実現した時点で、一方的に停戦を表明します。

たとえ、その後奪われた土地を奪還しようとして、ウクライナ側が攻撃を仕掛けてきたとしても、防御のための敵基地攻撃はするものの、新たな占領地を増やそうとはしません。むしろ、ウクライナ側の攻撃による被害を、国際的にアピールします。
要するに、ウクライナの東部及び南部の併合を既成事実化します。

ウクライナの東部と南部を併合したことを、国際社会は許さないでしょうか。国際社会は、意外に健忘症です。
ロシアは、エネルギーと食料の輸出大国ですし、特にそれらに依存する諸国は、いつまでも同国の行動にこだわらないでしょう。
また、ウクライナのブチャなどで市民が虐殺された疑いがあるため、4月7日ロシアの国連人権理事会の理事としての資格を停止するよう求める決議案が国連総会に提出されました。採決の結果は、93か国が賛成、反対が24か国、58か国が棄権しました。
西側以外は、国際的に反露で結束している訳でもなさそうです。

日本は戦後、北方領土はロシアに、竹島は韓国に奪われました。もし現在の日本が、それらを軍事的に奪還するとしたら、どうでしょうか。それは、軍事的に可能でしょうか。あるいは、国内外の世論は、それを認めるでしょうか。
認めるわけがありません。

ウクライナの場合も、数年後か数十年後、NATOに加盟し、力を付けた同国が、ロシアに奪われた東部南部を、武力を用いて取り戻そうとした場合、国際社会はそれを認めるでしょうか。認めないでしょう。
たぶん、NATO諸国が真っ先に反対するでしょう。既成事実化は強し、です。

3.アメリカの出口戦略

ロシアの出口戦略の次は、本来ならウクライナのそれを問題にすべきですが、同国は自力でロシアと戦っていません。他者依存で戦争をしています。他国からの支援なくして、戦いを継続できません。なので、独自の出口戦略を描くことはできません。

また、ウクライナ侵攻に対して、ある日突然アメリカが対宇支援から手を引いたとしたなら、どうでしょうか。その他のNATO諸国や日本は、その後、対露経済制裁や対宇軍事支援を行いうるのでしょうか。アメリカが手を引けば、制裁も支援も雲散霧消するでしょう(わが国では、ロシアに対して勇ましいことを言っている人たちが多いですが、そんな主張ができるのは、日本が対米依存しているからだということさえ、彼らは自覚していません)。

欧州や日本のような、アメリカの金魚のフン諸国も出口戦略を描くことはできません。
出口戦略を描きうるのは、アメリカだけです。

問題は、当のアメリカです。
アメリカは、何のためにウクライナを支援しているのでしょうか。バイデン大統領は、「ウクライナが停戦交渉で有利な立場を確保するまで武器供与などの援助を続けると明言」(2)したそうですし、ゼレンスキー大統領は、「失地回復まで停戦はあり得ないと断言」(2)したそうです。

ですが、そのためには、戦争当事国の力が、ウクライナ(+NATO)>ロシアでなければなりませんし、その上で、ロシア軍を押し返さなければなりません。
それには、それを実現するだけの大量のウクライナ支援か、アメリカが実際に参戦するかが不可欠です。では、アメリカにその意思があるでしょうか。
周知のとおり、バイデン大統領は昨年12月に、米軍をウクライナに派遣することは検討していないと表明していますし、軍事支援の逐次投入をしていて、大量支援の意思もありそうにありません。

ということは、双方の力の差は、どうしてもロシア≧ウクライナ(+NATO)で固定したままになります。なので、現状のままでは、ウクライナによる占領地の奪還は不可能でしょう。

アメリカは、昨年アフガニスタンから撤退しましたが、今年になってたちまち、勝つ意思のない戦争に介入して、新たにウクライナという泥沼に足を踏み入れたのではないでしょうか。
自国軍を投入していない点で、深い泥沼ではありませんが、しかし、長期化は避けられそうにありませんし、浅いにしても泥沼は泥沼です。

4.無益な戦争

歴史的にウクライナはロシアの勢力圏でした。しかし、西側はそこに手を突っこみました。一方、ウクライナもNATO加盟を求めました。
ウクライナはロシアの勢力圏である、少なくとも、ロシアがそう見做しているということを、ウクライナもNATO諸国も見誤ったのだと思います。

共産主義体制が永遠ではなかったのと同様、権威主義体制も永遠ではありえません。プーチン氏だって、不死ではありません。
西側もウクライナも性急さを求めず、いまだ、ウクライナはロシアの勢力圏であることを認めるべきでした。敢えて言いますが、西側はウクライナを「見捨てる」べきでした。そうしていれば、ウクライナは多くの死者も難民も出さず、領土の保全もできていたでしょう。

5.その結末

戦争が始まった2月24日から5か月以上が経過して、現状を予想しえた人は殆んどいないでしょう。まして、この戦争がどのような形で終結するのかは、誰にも分りません。

ただ、おおよそ言えそうなことは、ウクライナ、ロシア、アメリカ他NATOの指導者の誰も予想しなかった結果で、戦争は終わりそうだということ、何れの首脳も楽しくない結果で終わりそうだということです。

(1)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220304/k10013513641000.html
(2)https://news.yahoo.co.jp/articles/b0152ae9213088b9867094d60b9d40613df75d7b?page=1

『自主防衛を急げ!』を読んで

1.大国の行動原理

先日、日下公人、伊藤貫著、『自主防衛を急げ!』(発行 李白社 販売 フォレスト出版、2011年刊)を読んでいたら、下記のような記述がありました。
同著は、両氏の対談本で、引用部分は伊藤氏の発言です。

「過去の国際政治史を振り返ってみると、リアリストの重視するバランス・オブ・パワーの力学が世界を動かしてきました。なぜそうなるのかといえば、過去二千四百年間、国家間でいくら友好条約や不可侵条約を結んだり、国際法を強化したり、国連のような機関をつくっても、いったん強い国が暴れだすとすべては吹っ飛んでしまうからです。
国際関係も国際法も、経済の相互依存関係の強化も、いざとなると戦争を阻止する機能を持たないのです」(23-24頁)

「思うに、人類というのは、世界政府とか世界立法院、あるいは世界裁判所とか世界警察軍、そういうものをつくることができない体質なのです。もちろん、いかさまな国際裁判所はありますけれど、『本当の正義』を実現する力など持っていません。ルワンダやセルビアやカンボジアといった弱小国が“見せしめ”としてお仕置きを加えられるだけです。世界の強国であるアメリカやロシアや中国は、けっしてお裁きの場に引きずり出されることはありません。結局、みんなで寄ってたかっていじめてもかまわないような国だけが、国際裁判にかけられるのです」(24頁)

「アメリカのイラク戦争だって、ロシアがグルジアに攻め込んだのだって、国際法違反の侵略戦争です。しかし力の強い大国に対しては、どこの国も処罰できない。米中露イスラエルのように利己的・独善的で軍事力と国際政治力の強い国は、何をやってもいい。これらの諸国が侵略戦争をしようが凶悪な戦争犯罪を繰り返して民間人を無差別虐殺しようが、いっさいお咎めなしです。
『いったん強国が一方的に軍事力を行使すると、どうしようもなくなってしまう』というのが、過去三千年間続いてきた国際政治の現実なのです。残念ながらこの現実は、二十一世紀になっても変わっていないのです」(25頁)

5月10日に「主権国家は平等ではない」を、同31日に「現実は法に優先する」を公開しました。私は、いわゆるリアリストではありませんが、伊藤氏の認識に近づいているのが分かって驚きました。と同時に、同著が出版されたのが、11年前なのに感心しました。
ボールペンの記載によれば、8年前に読んでいますが、引用個所に関しては時に記憶に残っていなくて、素通りしています。

ロシアによるウクライナ侵攻で、漸くにして私に分かったことですが、国際政治を虚心に眺めれば、たとえ国連や国連憲章ができた第二次大戦後でも、「国家間でいくら友好条約や不可侵条約を結んだり、国際法を強化したり、国連のような機関をつくっても、いったん強い国が暴れだすとすべては吹っ飛んでしまう」というのが、「国際政治の現実」であり、それが今日でも「変わっていない」ということです。

ところが、第二次世界大戦後、「この現実」は変わったと信じる人たちがいます。彼らは、「あること」よりも、「あるべきこと」を優先して、世界を見ているのだと思います。言い換えるなら、「あること」を直視せずに、「あるべきこと」という眼鏡によって、世界を眺めています。

だから、国際法は厳守すべきとか、主権国家は平等であるべきとか、力による一方的な現状変更の試みは許されるべきではないとか、大国が守ってもいない準則を、金科玉条のように唱えるのでしょう。

フランス革命の前に『第三身分とは何か』を書いて、革命を鼓舞したシェイエス(1748ー1836)について、歴史書には下記のような記述があります。因みに、『第三身分とは何か』は、「『フランスにおける第三身分(平民)こそが、国民全体の代表に値する存在である』と訴え、この言葉がフランス革命の後押しとなった」(ウィキペディア「シェイエス」)とされます。

「つぎにオランダとの平和ー同年(1795年)五月、ハーグで調印された条約によって、フランスはフランドルなど一部領土の割譲、賠償金、オランダとの攻守同盟という成果を得た。そのさい、フランス側の過酷な条件をおしつけて、二四時間以内の回答を強要した代表は、ほかならぬシエースであった。オランダ代表が『人権宣言』の作者が弱国をこんなにいじめるのはどうしたことかと嘆いたのに対して、シエースは平然として、『原理は学校のためにある。権益は国家のためにある』と答えたという」(桑原武夫責任編集、『世界の歴史 10 フランス革命とナポレオン』、中央公論社、311頁)(シエースとは、シェイエスのことです いけまこ)

国際法を厳守すべし以下は、「学校のため」の「原理」なのでしょう。あるいは、中小国家のみ遵守すべき原理なのだと思います。大国は別の原理、すなわち、国家の権益のためには、それらは必ずしも厳守する必要はない、というのを実践していて、それが、国際政治の「現実」です。

伊藤氏は、同著で、「日本にはモーゲンソー、ケナン、ハンティントン、ミアシャイマーのような深い思考を持つオーソドックスな外交論を展開する人はほとんどいません」(27頁)と発言していますが、国際政治学者には、「あること」を直視する人たちと、「あるべきこと」に執心するあまり、「あること」が直視できない人たちがいて、日本は後者のような学者ばかりだから、国際的に通用する学者がいないのだろうと思います。

2.二重基準の放置

私が気になるのは、ウクライナ侵攻に関する人々の二重基準です。第二次大戦後に限っても良いですが、国際法に違反したのは今回の、ウクライナへ侵攻したロシアだけなのでしょうか。勿論、違うでしょう。

では、ロシア以外の国、アメリカや中共やイスラエルが国際法に違反する行動をとった時、国際社会は加害国には経済制裁を、被害国には軍事支援を行ってきたでしょうか。もし行っていないのだとしたら、それはどうしてなのでしょうか。

それに答えられない人たちが、ウクライナ問題で正義派ぶっています。ロシアだけを過剰に非難する人たちは、まず自らの二重基準を是正すべきです。

戦争は弱い側が負ける

1.古来戦争は

7月11日公開の投稿では、「戦争は強い側が勝つ」と述べました。
ということは、同じことではありますが、戦争は弱い側が負ける、ということでもあります。

古来戦争は強い側が勝ち、弱い側が負けました。
敗戦国は戦勝国に、領土の一部を割譲し、あるいは、賠償金を科されましたが、最悪の場合、前者は後者に吸収合併されました。前者の国民や領土は、後者のものになりました。そして、強い国は大国になり、弱い国は地図上から消滅しました。

2.弱い側はいつまで戦うべきか

弱い国と強い国が戦った場合、弱い国の国民は、最後の一人になるまで戦うというようなことはあるでしょうか。ありません。
もし弱い国が何らかの理由で、引き分けくらいに持ち込めるのなら、継戦は無駄ではありませんが、弱い国(小国)は強い国(大国)と戦えば戦うほど、人命は失われ、国土は荒廃します。なので、ある時点で、前者は後者に降伏しました。

第二次世界大戦で、ドイツは1945年4月30日ヒトラー総統は地下壕で自殺し、5月8日同国は連合国に降伏しました。

一方、日本は、戦争の後半で、一億玉砕というスローガンを軍部が掲げましたが、1945年3月10日東京大空襲、4月1日沖縄本島に米軍上陸、8月6日広島に、同9日長崎に原爆投下、同8日、日ソ中立条約を破って、ソ連が対日宣戦布告、それらを経て、しかし、一億の民は玉砕することなく、8月14日ポツダム宣言を受諾し、翌日昭和天皇の玉音放送で、戦争は終了しました。

ロシアによるウクライナ侵攻は、どちらが勝ち、どちらが負けるか分かりませんが、負ける側は第二次大戦のドイツ、日本以上に被害を出してでも、戦争を継続すべきなのでしょうか。

3.ウクライナ侵攻の場合

<古来戦争は強い側が勝ち、弱い側が負けました>
もし、それが真実なら、ウクライナ侵攻もその例外ではないでしょう。

財政破綻、人口減少だけではない 破綻国家となりつつあるウクライナの窮状」という記事のコメント欄に、次のような意見が寄せられていました。

「この戦争でウクライナは自国を守って居るだけなのに、国民は死に、領土は奪われ、困窮して国家が破綻するってどうしても納得が行かない。ロシアの戦犯としての責任追及と補償はさせるべきだと思います。武力が勝る国が何をしても責任無し、戦勝する為に何をしても良いと言う事になってしまう。西側も復興再建には当然支援すべきだが、ロシアに一番の復興支援をさせるべきだと思う。それが出来なければロシアを更に孤立させるべきだと思う。思いっ切り経済制裁を課して戦争ではない経済困窮を知らしめてやって欲しい。ウクライナの人達が余りにも惨めでならない」

歴史を眺めるなら、「武力が勝る国が何をしても責任無し、戦勝する為に何をしても良いと言う事」なのが現実です。市民に対する無差別爆撃も原爆投下も、不問に付されてきました。

もし「ロシアの戦犯としての責任追及と補償をさせる」のだとしたら、また、「ロシアに一番の復興支援をさせる」のだとしたら、ウクライナはロシアに戦争で勝たなければなりません。では、ウクライナはロシアに勝てるのでしょうか。

以下、X>Yは、XはYよりも強い、を意味するとして、
A、ウクライナ(+NATO)>ロシアの場合。
ここで、なぜ(+NATO)なのかと言えば、NATOは直接的には参戦していなくて、間接的に対露制裁や対宇軍事支援を行っているだけですし、ウクライナとロシアの戦争で、前者が敗北しても、NATO諸国が敗戦国になるわけではないからです。

Aの場合、ウクライナとロシアの戦いが、続けば続くほど、前者は有利になり、後者は不利になります。何れ、ウクライナは被占領地を取り戻すことができるでしょう。

しかし、B、ロシア>ウクライナ(+NATO)の場合なら、どうでしょうか。
戦いが長引けば長引くほど、ウクライナは不利になります。そして、最終的には、ウクライナはロシアに降伏しなければならなくなるでしょう。
Bの場合でも、ウクライナは降伏まで、ロシアと戦い続けるべきなのでしょうか。

たとえ、この戦争でウクライナを支持するにしても、AB何れかの認識に立脚することによって、別の判断を下すことが可能です。

Aなら、たとえば、今後の戦局は、ウクライナに有利に転化するでしょうから、戦い続けるべきだということになります。しかし、Bだとしたら、どうでしょうか。
もともとロシアとの間に戦力差があますし、いわゆるウクライナ疲れが喧伝されていて、今後NATO諸国が、ウクライナが勝てるだけの軍事的支援ができるのか微妙です。
このままでは、二国間の力の差は、ウクライナ>ロシアとはならずに、せいぜいロシア≧ウクライナのままで推移しそうです。とするなら、ウクライナは戦いが続けば続くほど、不利になります。
それなら、すべてを失うよりも、失わない時点で、停戦に持ち込んだ方が良いということになります。

上の引用文のような考えの人たちは、戦争は善の側が勝ち、悪の側が負けるとは限らないということを理解していませんし、もしロシアより弱ければ、戦えば戦うほどウクライナの側が不利になるということも理解していません。
彼らは意図せずに、ウクライナを更なる窮地に追い込んでいるのかもしれないのです。

4.どちらも決定的に負けない策

戦争を続け、決着をつけようとするなら、一方の側が勝ち、他方が負けることになります。弱い側は、何れ降伏しなければなりません。
しかし、ウクライナ、ロシアの双方が決定的な恥辱を受けないようにするには、そして、そのような策があるとすれば、それは休戦でしょう。何れかの時点で、力の強い側が相対的に有利で、弱い側が相対的に不利な状態で、手を打つしかないでしょう。

ベトナム戦争(ー1975)では、北ベトナムと南ベトナムが最後まで戦い、結果、北ベトナムが南ベトナムを打ち負かし、吸収・統一しました。

一方、朝鮮戦争(1950ー1953)では、北朝鮮と韓国が戦いましたが、結局、決着がつかないまま休戦し、北緯38度線を境に、北側は北朝鮮、南側は韓国で、今日に至っています。

ウクライナ戦争は、ベトナム戦争型で終わるのでしょうか、それとも、朝鮮戦争型で終わるのでしょうか。

戦争は強い側が勝つ

1.不思議な主張

たとえば、次のような主張があります。
ロシアによるウクライナ侵攻において、領土の占有が既成事実として認められたなら、同様に振舞う国が現れるだろうから(中共?)、ロシアの侵略は決して許されてはならない、と。
だから、ロシアに対する経済制裁も、ウクライナに対する軍事支援も続けられるべきだと言う。

これは一見正当な主張に見えますが、過去の歴史を眺めれば、むしろ特異な意見だと思えます。

2.古来戦争は

言論人やジャーナリスト(テレビのコメンテーター?)や学者の論争は、その勝敗が明確ではありませんが、スポーツではその勝敗は明確です。そして、戦争もスポーツほどではありませんが、その勝ち負けは明確です。つまり、強い側が勝ちます。

古来様々な国が盛衰を繰り返してきました。
小国aが隣の小国bを侵略し、また、その向こうの小国cを吸収し、a国は大国になりました。大国になったA国は、さらにd、e国を合併しました。
時代を経て、A国では後継者を巡って、子孫が殺し合い、あるいは、臣下が王を暗殺し、内紛が生じて、大国は衰退し、あるいは、滅びました。滅びた後、f国g国h国が誕生しました。そして、f国はg国を侵略し、さらにh国を併合し、F国は大国になり・・・・歴史は繰り返しました。

そのように、古来戦争は強い側が勝ってきました。大国が小国を侵略するのが、常態でした。
現代では、国際世論を味方につけるとか、相手国民の厭戦気分を喚起するとか、非軍事的な力を含めてですが、
<戦争は強い側が勝つ>が、原則でしょう。

3.正義の側が勝つとは限らない

戦争は、強い側が勝ちます。しかし、強い側=正しい側とは限りません。
ということは、戦争では、正しい側が勝つとは限らないということです。正しい側が、負ける場合もあります。

聖地エルサレムを、イスラム教徒から奪還するために、11世紀から13世紀にかけてキリスト教徒は十字軍を派遣しました。
キリスト教とイスラム教のどちらが正しいとは言えませんが、もしどちらか一方が正しくて、しかも、正しい側が勝つはずなら、どちらか一方がずっと勝利しているでしょう。しかし、十字軍の歴史を見るなら、キリスト教徒側が勝つ場合もあれば、イスラム教徒側が勝つ場合もありました。前者が聖地を取り戻した場合もあれば、奪われた場合もありました。
相手より強かった時には勝ち、弱かった時には負けました。

第二次世界大戦は、旧連合国の国民も、旧同盟国の多くの人たちも、連合国側=善、同盟国側=悪だと信じています。が、前者が正しかったから勝ったわけではありません。強かったから勝っただけです。
歴史は勝者によって書かれますが、勝った側が自分たちの陣営が正しかったのだと歴史を記述するから、後世では多分に、勝者=正義の側ということになっています。本来なら、このことこそが、歴史修正主義だと呼ばれるべきでしょう。

それはともかく、戦争の勝敗と善悪は無関係です。善い側が勝つとは限りませんし、悪い側が負けるとは限りません。

第二次世界大戦後も、沢山戦争が行われました。
朝鮮戦争、ベトナム戦争、中東戦争、湾岸戦争、イラク戦争・・・・はたして、それらの戦争で、正義の側が勝ってきたでしょうか。
また、戦後国際連合のような機関や国際法が発達してきたとは言えますが、それらは、イスラエルを含めて大国が自国の安全保障のためと称して行う対外的軍事行動の歯止めとはなりませんでした。

<戦争は正義の側が勝つとは限らない>というのも、戦争の原則の一つでしょう。

4.ウクライナ侵攻の場合

以上の二つの原則によって、ウクライナ問題を眺めてみましょう。

<戦争は正義の側が勝つとは限らない>
ロシアによるウクライナ侵攻は、米欧日などでは、ウクライナ=善、ロシア=悪だとされています。もしそれが正しいとしても、ウクライナ=正義の側が勝つとは限らないということになります。

<戦争は強い側が勝つ>
ウクライナとロシアは、どちらが強いでしょうか。
純粋に一対一で戦った場合は、ロシアの方が強いのは明らかです。だから、双方が単独で戦争をしていたなら、ウクライナは早くに敗北しているでしょう(ウクライナ<ロシア:ロシアはウクライナより強い)

ところが、ウクライナにNATO諸国が味方をしました。NATO諸国は、直接には参戦していませんが、ロシアに対する経済制裁や、ウクライナに対する軍事支援を行った結果、ウクライナとロシアの力の差が縮まりました(ウクライナ+NATO諸国≦ロシア)。
なので、戦争は長期化しています。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、「占領されたすべての領土を取り戻すことを目指している」と表明しました。
もしウクライナ+NATO連合とロシアの力の差がほぼ同じなら、戦争は一進一退、膠着状態が続くでしょう(ウクライナ+NATO諸国≒ロシア)。
しかし、ウクライナが占領地を奪還するためには、ロシアの力を凌駕しなければなりません(ウクライナ>ロシア)。

ウクライナが奪われた土地を取り戻すには、ロシアの力を上回るだけの兵器等をNATO諸国が供与するか、実際に参戦するかのどちらかしかありません。
NATO諸国は、そのようなことが実行できるでしょうか。

5.進歩主義的戦争観

今回のウクライナ侵攻では、A ロシアが全面的に悪い派と、B ロシアの主張にも一理ある、または、ウクライナやNATO諸国にも過失がある派に分かれましたが、人々の意見は従来の右派と左派、タカ派とハト派とは違った分かれ方をしました。

左翼的思考とそれが生み出す社会」に、保守主義者は<あること>から出発し、進歩主義者は<あるべきこと>から出発すると述べましたが、戦争に関して言うなら、善悪に拘らず、事実として強い側が勝つと考えるのが保守主義者であり、力の強弱にも拘らず、正しい側が勝たねばならないと信じるのが進歩主義者だと判断できるでしょう。

ウクライナ侵攻で顕わになったのは、戦争は善の側が勝つべきであるし、勝たなければならないと信じる者が、右派やタカ派の中にも少なくなかったことです。
東京裁判史観否定論者の一つの確信は、戦争の善悪と勝敗は無関係である、ということだったはずなのに、彼らの中から、力の強弱とは無関係に、ウクライナが勝たなければならないと言う者が出現したのは、意外でした。 

ロシアの戦略的な目標?

ブリンケン米国務長官は、6月26日放送のCNNテレビで、「プーチン氏の戦略的目標は、ウクライナの主権と独立を奪って地図上から消し去り、ロシアに組み込むことだったと指摘」したそうです(1)。

はたしてロシアはそんなことを意図しているでしょうか。意図しているとして、同国はどこでそんなことを表明しているのでしょうか。

2月24日ロシアはウクライナに侵攻しましたが、当日のテレビ演説でプーチン氏は述べています。

「私たちの計画にウクライナ領土の占領は入っていない」(2)

6月7日には、ウクライナのEU加盟に対して、「われわれは全く反対していない。EUは軍事同盟ではない。経済連合に加入するのは全ての国が持つ権利だ」と発言しました(3)。

また、5月29日ラブロフ露外相は、ドンバス以外の地域に関しては、「自らの意思で未来を決めるべきだとの立場を示した」そうです(4)。

これらから言えるのは、ロシアはウクライナの併合を目的としていないということです。少なくとも、ウクライナの国としての生存権は認めています。
ただ、ウクライナがNATOに加盟するのは許せない、ドンバス地方におけるロシア系住民に対する、ウクライナ政府による攻撃は許せないというのが動機でしょう。

ウクライナの次にロシアが侵略するのはX国だなどとの説が、まことしやかに語られていますが、どのような根拠に基づいて、主張者はそのような発言をしているのでしょうか。
この度のウクライナ戦争で分かったのは、ロシアには自国の安全保障上重要ではない、あるいは、ロシア系の住民のいない地域へ侵攻する力はないということでしょう。

ブリンケン氏の発言を含めて、ロシアが言ってもいないことを言って、しかも、それを根拠に、同国を悪魔に仕立て上げ、非難する。どうかと思います。

ロシアが本心を隠していないとは言えませんが、少なくとも、宇米欧の指導者よりも、ロシアの指導者の発言の方が、ブレが少ないように思います。

(1)https://news.yahoo.co.jp/articles/09e4973106b6e59edb3e3708a6304d1ccf573266
(2)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220304/k10013513641000.html
(3)https://news.yahoo.co.jp/articles/5ca68dd396c99d2708414e555df02399e8203cb9
(4)https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-donbas-lavrov-idJPKBN2NF0L5

ロシアだって自衛戦争をたたかっている

冷戦後、NATOの東方拡大により、対露同盟がどんどんロシアの方へ勢力圏を延ばしました。そして、ついに、汎ロシアの構成メンバー(ロシア、ウクライナ、ベラルーシ)たるウクライナまでが対露同盟に参加することになるかもしれなくなりました。
ウクライナがNATOに加盟すれば、最悪同国内に米軍の基地ができるかもしれないし、核を含む兵器が配備されるかもしれない。それは、ロシアにとって、大変な脅威です。

ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、雑誌『Hanada』6月号で、シカゴ大学教授ジョン・ミアシャイマー氏の論文を引用しています。

<強大国は、自分たちの領土近くに迫る潜在的な脅威には、いつもセンシティブである。これは地政学の基本だ。たとえば、中国がカナダやメキシコと軍事同盟を結ぼうとしたときの、ワシントンの怒りを想像してみればいい>(94ー95頁)

ロシアにとっての、ウクライナのNATO加盟は、アメリカにとって、「中国がカナダやメキシコと軍事同盟を結ぼうとした」ようなものです。そして、それゆえに、ロシアはウクライナへ侵攻しました(ドンバスの「解放」は、ロシアの副次的な理由です)。

勿論、それに対しては、だからと言ってロシアがウクライナに侵攻して良い理由にはならないと、ロシア批判派は反論します。
もし他の国が、そのような侵攻をしないのなら、ロシアの行動は突出して不当だと言えるでしょう。では、他の国は、そのような行動は取らないでしょうか。

1962年にキューバはソ連の核ミサイルを国内に配備しようとしました。同国は、いわゆるアメリカの裏庭と呼ばれるカリブ海に位置する国です。そのような国にアメリカを狙うことができるミサイルが配備されることになって、米国は愕然としました。
キューバ危機では、アメリカの選択肢として、軍事侵攻がありました。実際に採用したのは海上封鎖ですが、選択肢の中にそれがあったということは、場合によっては、米国はキューバへ軍事侵攻をする可能性があったということです。

また、2001年の9・11テロを受けて過敏になったアメリカは、2003年に主権国家イラクへ侵攻し、フセイン政権を倒しました。
キューバに配備されたソ連のミサイルはアメリカに届きますし、ウクライナに配備されるかもしれないミサイルや爆撃機はロシアに届きます。一方、イラクはアメリカに届くようなミサイルは持っていませんでした。それなのに、アメリカはイラクへ侵攻しました。

キューバ危機の時も、イラク侵攻の時もアメリカは平然としていられませんでしたし、ウクライナがNATOに加盟することに、ロシアも平然としていられないから、この度の戦争は起こったのでしょう。

今、ロシアに対する経済制裁やウクライナに対する軍事支援を叫んでいる人たちは、イラク戦争当時、アメリカに対する経済制裁やイラクに対する軍事支援を主張したでしょうか?

ウクライナ侵攻に関して、ローマ教皇はインタビューで、「赤ずきんちゃんが善で、狼が悪というお決まりのパターンから脱却する必要がある」として、「『善VS悪』というおとぎ話のような単純な認識が広まっていることに警鐘を鳴ら」したそうです(注)。

日本を含めた、いわゆる西側諸国の、アメリカとロシアに対するダブル・スタンダードは酷いし、また、ロシア非難も過ぎると思います。

(注)
https://news.yahoo.co.jp/articles/84f38af17ecbfa1fbf129b001913f20df6dd8ae8

バイデン氏は過失を認めた ウクライナ侵攻

1.台湾では失敗しない

つい最近までの、アメリカの政策は、「台湾の独立は支持しない」でした。

ところが、5月23日の日米首脳会談後の記者会見で、「あなたは、明らかな理由でウクライナの紛争に軍事的な介入は望まなかった。あなたは、もしそれが起きたら、台湾を守るために、軍事的に介入しますか」と、問われたバイデン大統領は、「はい。(中略)それが、我々の公約だ」と答えました(注)。

それは、従来のアメリカの立場から逸脱しています。もっとも、その発言の後、ホワイトハウスは、「我々の政策は変わっていない」と一応打ち消しましたが。

バイデン氏のその発言は、意図的なのか、失言なのか、あれこれ詮索されました。アメリカはこれまでは、いわば両足を台湾の独立は支持しないにかけていたのに対し、5月23日からは、一方の足は独立を支持しないに、もう片方は軍事介入する、に置くように変化したように見えます。
ずっと、台湾の独立は支持しないと言っていたのに、どうしてその立場を変更した?のでしょうか。
ウクライナで失敗したからでしょう。

2.ウクライナで失敗した

なぜアメリカは、これまで台湾に対して、独立は支持しないと表明していたのでしょうか。
中共にとって、台湾は支那の一部であり、独立は認めることができないとの立場です。独立を宣言すれば、中台間で、ひいては米中間で戦争になるかもしれないからでしょう。

もし台湾の独立は支持しない同様、ウクライナに対しても、加盟は支持しないとアメリカ及びNATO諸国が明確に表明していれば、ロシアによるウクライナ侵攻はなかったでしょう。しかし、台湾とは違って、ウクライナに対しては、アメリカもNATO諸国も、加盟を支持しました。だから、戦争は起こりました。

3.バイデン氏は過失を認めた

バイデン大統領は昨年12月8日、ロシアがウクライナに侵攻した場合に、米軍をウクライナに派遣することは「検討していない」と述べました。もしその判断が正しかったなら、5月23日にも、中共が台湾に侵攻した場合も、米軍を台湾に派遣することはないと答えたはずです。しかし、実際は台湾に対しては、軍事介入をするような発言をしました。なぜでしょうか。
ウクライナに対する言動が失敗だったからでしょう。

アメリカ大統領が公式に失敗を認める訳がありませんが、似たようなケースにあったウクライナに対する政策の後、台湾に対する政策を変えたのだとしたら、前者の失敗を認めたのも同然です。

4.中途半端な学習

アメリカは、ウクライナの失敗で学習したとは言えます。しかし、ちゃんと学習しえているのでしょうか。3月21日公開の記事「ウクライナ侵攻と台湾」に書きました。

「この度のロシアによるウクライナ侵攻から、中共による台湾への侵攻を阻止するための教訓を挙げるとするなら、
第一、戦争が発生する恐れがある場合は、主権国家であろうと、力によらない一方的な現状の変更は、国際社会は安易に認めてはならないこと、
第二、認める場合は、戦争が起こらないだけの軍事的な抑止力を備えてからにすべきこと、
ではないでしょうか」

第一に関して。
ウクライナのNATOへの加盟しろ、「台湾を守るために軍事介入する」への方針の変更?にしろ、力によらない一方的な現状変更の試みです。そして、後者の場合も「戦争が発生する恐れがあ」ります。それなのに、またしてもバイデン氏は、一方的な現状変更の試みを為すような発言を行いました。

第二に関して。
それを認める場合は、戦争が起こらないだけの軍事的な抑止力を備えてからにすべきです。
では、5月23日のバイデン氏の発言の前に、アメリカは台湾に対し、対支抑止力を備えるよう求めたでしょうか。また、台湾はそのための準備を完了していたでしょうか。言うまでもありませんが、していません。
ただ、中共を牽制するために、バイデン氏は軽挙妄言しただけです。

5.ロシアが全面的に悪いか

3月27日に開催された米アカデミー賞授賞式で、俳優のウィル・スミス氏が、プレゼンターのクリス・ロック氏に平手打ちを食らわせるという事件が起こりました。もしロック氏がスミス氏の妻に対して、侮蔑的な発言を行っていないのに、平手打ちを食らわせたのだとしたら、スミス氏が全面的に悪いと言えますが、スミス氏の行動はロック氏の発言がなければ起こりえませんでした。

同様に、ゼレンスキー氏やバイデン氏のヘマがなければ起こらなかった訳ですから、ウクライナ侵攻はロシアが全面的に悪いとは言えないだろうと思います。

実質的にバイデン氏が過失を認めているのに、ロシアが全面的に悪いとか言っている人がいるのは、不思議ではあります。

(注)
https://news.yahoo.co.jp/articles/8a9b789a5a639de42d330cf6b4cba36e6fbf39bd

【折々の名言】
「女の人はよくしゃべると言っただけだ。本当の話をするので叱られる。(中略)本当の話を政治家がしないから、世の中がおかしくなっている」
(森喜朗元首相、https://news.yahoo.co.jp/articles/6e54af51d9174b1a1663787f6345be34d9137f37)

現実は法に優先する

1.ウクライナ侵攻は国際法違反である

2月24日、ロシア軍はウクライナに侵攻しました。
それに対して、アメリカをはじめNATO諸国も日本も、ロシアの行動は国際法に違反しているとして、非難しています。

それが国際法違反であるとされるのは、国際連合憲章第二条第四項に違反しているからだそうです。当該条文は以下の通りです。

「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」

わが国外務省が発した、2月24日付「ロシアによるウクライナへの軍事行動の開始について」も、次の通りです。

「1 2月24日、ロシアが、ウクライナへの軍事行動を開始しました。

2 この軍事行動は、明らかにウクライナの主権及び領土の一体性を侵害し、武力の行使を禁ずる国際法の深刻な違反であり、国連憲章の重大な違反です。力による一方的な現状変更は断じて認められず、これは、欧州にとどまらず、アジアを含む国際社会の秩序の根幹を揺るがす極めて深刻な事態であり、我が国は最も強い言葉でこれを非難します。
ロシアに対し、即時に攻撃を停止し、部隊をロシア国内に撤収するよう強く求めます。

3 我が国は、引き続きウクライナ及びウクライナ国民に寄り添い、事態に改善に向けてG7を始めとする国際社会と連携して取り組んでいきます」

「武力の行使を禁ずる国際法の深刻な違反」と「国連憲章の重大な違反」は、同一の内容なのか、別の意味なのかは知りませんが、しかし、当然次のような疑問が湧きます。
では、第二次世界大戦後、国連憲章第二条第四項に反するような「暴挙」を行ったのは、この度のロシアが初めてなのだろうか、ということです。

2.アメリカも時に国際法に違反する

2003年3月20日、アメリカはイラクへの攻撃を開始し、その後米軍は同国へ侵攻しました。言うまでもなく、当時イラクは主権国家であり、そのような国へ侵攻し、フセイン政権を倒しました。
ロシアによるウクライナ侵攻が国際法違反なら、アメリカによるイラク侵攻だって、国際法違反でしょう。
それは、国連安保理決議に基づかない軍事行動でした。

「イギリスを除くほとんどのヨーロッパ諸国、中東諸国、ロシア、中国など多くの国が戦争反対の立場をとり、反戦デモが広がるなか、そうした国際世論を押し切る形で行われた」(コトバンク「イラク戦争」)

イギリスは、アメリカの武力行使を支持しましたが、

「トニー・ブレア政権では、閣僚が相次いで辞任を表明し、政府の方針に反対した」(ウィキペディア「イラク戦争」)

その他にも事例があります。1962年10月、アメリカの偵察機の撮影により、キューバにソ連のミサイル基地が造られているのをが発覚しました。キューバ危機です。
それにどう対処するのかについて、アメリカでは、「国家安全保障会議執行委員会(エクスコム)」の会議で、六つの選択肢が提案されました(ウィキペディア「キューバ危機」)。
1.ソ連に対して外交的圧力と警告および頂上会談(外交交渉のみ)
2.カストロへの秘密裏のアプローチ
3.海上封鎖
4.空爆
5.軍事侵攻
6.何もしない

キューバは、「海上封鎖は『主権に対する侵害』だとして非難した」(コトバンク「キューバ危機」)そうですが、実際にアメリカが選択したのは、海上封鎖でした。
その後、米ソの交渉により、ソ連はミサイルを撤去することになりましたが、選択肢として、空爆や軍事侵攻があったことは事実ですし、場合によっては、アメリカは国際法に反する行動を起こす可能性があったことが分かります。

その他、グレナダ侵攻(1983年)など、アメリカは他国の主権を侵害したと思しき軍事行動を取っていますし、イスラエルによるパレスチナに対する行動でも、米国は国連決議において何度となく拒否権を行使しています。

第二次大戦後、国際法に違反する行動をおこなったのは、何も今回のロシアだけではありません。アメリカその他の国だって、そのような行動を取っています。
アメリカも国際法違反を犯しているのに、なぜロシアのウクライナ侵攻だけがこんなにも非難されるのでしょうか。2003年から2022年の間に、国際社会のルールは変わったのでしょうか。

3.大国の行動原理

ロシアによるウクライナ侵攻、アメリカによるイラク侵攻やキューバ危機で分かるのは、ロシアであろうが、アメリカであろうが、中共や英仏であろうが、大国は自国の安全が脅かされたと感じる時は、国際法にしろ、他国(小国)の主権にしろ、侵すことを躊躇しないということです。

<自国の安全保障は国際法に優先する>

これが、大国の行動原理です。
もし現行の国際法があれば、第二次世界大戦は、とりわけナチス・ドイツによる侵略は防ぎえたでしょうか。防げたとは思えません。しかも、現在の大国の多くは、第二次大戦の戦勝国です。むしろ彼らは、安全保障における軍事力の有効性を信奉していることでしょう。だから、今日でも、大国の行動原理は、<自国の安全保障は国際法に優先する>です。

この大国の行動原理は、善いか悪いかではなく、事実かそうでないかの問題です。そして、国際社会を眺めるなら、実際に大国はそのように振舞っています。
国際連合などの活動もあって、良く見えなくなっていますが、第二次世界大戦以前同様、以後も国際社会は力の論理で動いています。そして、大国が自国の危機に瀕した時(瀕したと感じた時)、それが顕在化します。

5月10日公開の「主権国家は平等ではない」で、主権国家を、上位の主権国家と下位の主権国家の二種類に分けましたが、前者が大国、後者が小国に相当するでしょう。
今日おおよそ、大国とは核兵器保有国のことであり、小国とは非保有国のことです。たとえば、イスラエルはパレスチナに対して、大国として振舞っています。

第二次大戦以前は、まだ核兵器は開発されていませんでしたが、わが国は上位の主権国家でした。だから、韓国の主権よりも、自国の安全保障を優先しました。

一方、小国だって、有事の際は大国と同じように振る舞いたいと思っているでしょうが、いかんせん、力がないので、実行できません。

4.現実は法に優先する

日本国憲法第九条を引用します。

「第九条【戦争の放棄、軍備及び交戦権の否認】
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
②前項の目的を達するため陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」

大東亜戦争に敗北し、アメリカからこの占領憲法を押し付けられた当時は、文字通り「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」つもりだったでしょう。また、米国側からすれば「これを保持させない」つもりだったでしょう。しかし、1950年6月25日、北朝鮮が韓国へ南侵し、状況が一変しました。アメリカは日本に対して、軍の創設を要求しました。

陸上自衛隊 1950年(昭和25年)の朝鮮戦争勃発時、GHQの指令に基づくポツダム政令により警察予備隊総理府の機関として組織されたのが始まりである」(ウィキペディア「自衛隊」)

自衛隊は「陸海空軍その他の戦力」であるのは明らかです。しかし、戦後の政府はそれが戦力ではないかのように、言い繕ってきました。憲法九条は、解釈改憲によって運用されてきました。
法を守って、国が亡ぶよりも、法を破って、国の生存を図る方が賢明、というよりも当然だからです。戦後のわが国は大国ではありませんが、そんな日本だって、<自国の安全保障は憲法に優先する>を実行しています。

将来のわが国有事の際に、某安保理常任理事国が、日本にとって不利な方向で、拒否権を発動するかもしれません。また、わが国が自国の安全保障のために、国際法違反だとされるような行動を取らざるをえない場面に直面する可能性だって、絶対にないとは言い切れません。
私たちは、そのようなこともありうることを、頭の片隅に入れておく必要があると思います。

5.大国の行動は国際法で抑止できるか

ロシアは権威主義体制の国であることから、そのような体制の国だから、ウクライナ侵攻のような野蛮な行動をおこなったのだと誤解する人があるかもしれません。が、米英仏やイスラエルのような自由で民主的な体制の国であろうと、大国は危機の際は、国際法よりも、自国の安全保障を優先します。
一体どこの国が、自国が滅んでも、あるいは、自国を危機に追い遣ってでも、国際法を遵守するでしょうか。

とするなら、今後も何れかの大国が、国際法よりも、自国の安全保障を優先するような行動に出る可能性は十分あるということです。私たちは、ウクライナ侵攻以降も、某大国が、国際法よりも自国の安全保障を優先するような行動を取るのを見ることになるだろうと思います。

国際法で、大国の行動を抑えることができるでしょうか。できると信じているらしい学者は、あるシンポジウムで述べています。

「プーチン大統領の演説では、かつて米国がイラクに対して武力行使を行った際に、国際秩序を揺るがしたと主張しています。その指摘は正しい。だからといって、今回ロシアがウクライナを侵略する行為が許されるわけではありません。米国が破ったからといって、ロシアも破っていいということにはならないのです。今回のロシアによる武力行使は、国連憲章で定められた武力不行使原則を、欧米諸国が度々破ってきたことに対する挑戦でもあります。それがブーメランのように、突きつけられているという点もあるのではないでしょうか」

「国連憲章で定められた武力不行使原則を」「米国が破ったからといって、ロシアも破っていいということにはならない」のは確かですが、その原則によって、米国やロシアなどの大国の武力行使を止められないのも確かです。それが、今「突きつけられている」のだと思います。

大国の行動は、彼らの侵攻を思い止まらせるだけの軍事力を保持することでしか(自国単独か、同盟国と共同かで)、抑止できません。

【参考記事です】
https://news.yahoo.co.jp/byline/aoyamahiroyuki/20220516-00296310

同士討ち ウクライナ侵攻

1.同士討ち

勿論、アメリカを含めたNATO諸国には、そんな意図はないでしょうし、そんなことを真顔で言えば、陰謀論だとされて当然です。

しかし、ウクライナ戦争を見ていると、結果的に、NATO諸国が、汎ロシア諸国のメンバー(ロシア、ウクライナ、ベラルーシ)同士を戦わせて、とりわけロシアの弱体化を図り、その脅威を除去しようとしているように思えてなりません。

2.中策か下策

孫氏の兵法に、「百戦百勝は善の善なる者に非ず」というのがあります。その意味は、「戦わないで勝つことこそが、最もよい作戦である、という教え。(中略)『孫氏』の基本的な考え方は、戦いにおいては、自分の国や軍隊をできるだけ傷つけずにすませるのが最善で、実際に戦って相手を打ち破るのは、必ず損害を伴うから次善の策である、というもの」(コトバンク)です。

あらゆる「戦争」において、戦わずして勝つが上策であり、戦って勝つは中策であり、戦って負けるは下策です。
もはやウクライナとロシアには、中策か下策のどちらかの選択しかありません。両国とも、出口の見通しもなく、ズルズル戦いを続けているように見えます。
漁夫の利という故事がありますが、さて漁夫はアメリカなのでしょうか、それとも、中共なのでしょうか。

3.誤算

元々ロシアは、独立国としてのウクライナの存在には反対ではありませんでしたし、ウクライナに対して領土的な野心があった訳でもありませんし、兄弟国なのですから、その人民の抹殺を意図した訳でもありません。
ただ、対ロシア同盟であるNATOに、ウクライナが参加するのが許せなかった。NATOに加盟すれば、同国内に米軍の基地や核を含めた兵器が配備されるかもしれず、そうなったらロシアにとって大変な脅威だからでしょう。

ウクライナは戦争によって、多くの国民の生命を失い、多くの国民を難民にし、東部や南部といった領土を奪われました。勿論、今後それらの地域を奪還するかもしれませんが、それにしても、何と多くの犠牲を払うことになったことでしょうか。

ウクライナは、一体何のための戦っているのでしょうか。自国の独立のため、あるいは、ロシアの侵略を阻止するためだと言うのかもしれません。しかし、戦争前に、ロシアに領土的な野心があった訳ではない等は、今述べた通りです。ウクライナがNATOへの加盟を求めなければ、ロシアだって侵攻する必要はありませんでしたし、領土の保全も可能でした。多くの犠牲を払ってまで、NATOへの加盟を急ぐ必要があったのでしょうか。

これは誰も言いません。しかし、敢えて言いますが、ウクライナは自国ばかりか世界を戦争に巻き込もうとしている!

短期間でウクライナ侵攻の成果が出せなかったことについて、ロシアは誤算をおかしたと多くの人たちは言いますが、ウクライナもまた大きな計算間違いをおかしたのではないでしょうか。