プーチン大統領の侵攻前演説を読む

ウクライナ侵攻

1.ロシアの言い分

昨年2月24日、ロシア軍はウクライナへ侵攻しました。
主権国家が主権国家に侵攻したのですから、それは明らかに国際法違反であり、侵略である。だから、ロシアの行動は非難してしかるべきだとの意見が、少なくとも西側諸国では圧倒的です。

しかし、一方、ロシアにも言い分があり、同国はそれを表明しているので、ロシアの行動を非難するにしても、一度それに耳を傾けてからにしてはどうでしょうか。
というのは、世にあふれるロシア非難を見ても、ロシアの主張を読んでさえいないと思われる言説が、大部分だからです。

2.ラブロフ露外相の言

ロシアのラブロフ外相は、昨年9月24日、国連本部での記者会見で、述べました。

「プーチン大統領が2月24日に発表したことをもっと頻繁に、気をつけながら読むといい。そこに全部書いてある。読めばわかる」(1)

ロシアの侵攻目的は、プーチン氏が2月24日の侵攻の直前に行った演説で、明示されているということでしょう。
では、当の2・24演説を見てみましょう。

3. 2・24演説

プーチン大統領は2月24日の演説を、次のように始めています。

「親愛なるロシア国民の皆さん、親愛なる友人の皆さん。

きょうは、ドンバス(=ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州)で起きている悲劇的な事態、そして、ロシアの重要な安全保障問題に、改めて立ち返る必要があると思う。

まずことし2月21日の演説で話したことから始めたい。・・・・」(2)

この文言から、ロシアがウクライナへ侵攻した動機は、二本の柱から成っているのが分かります。「ドンバスで起きている悲劇的な事態」と「ロシアの重要な安全保障問題」です。
そして、プーチン氏は、まず、後者の問題を語り、その後、「そんな中、ドンバスの情勢がある」として、前者の説明をしています。

「まずことし2月21日の演説で話したことから始めたい」と述べていますが、2・21演説で語っているのは、現在の事態を招くことになったウクライナの歴史と現状です。その殆んどが「ロシアの重要な安全保障問題」に関する事柄であり、最後に、ドンバスのことに少し触れているに過ぎません。

2・24演説と2・21演説から分かるのは、ロシアにとって、主目的は自国の安全保障問題であり、副次目的がドンバスの問題であることです。戦前日本の戦争の主目的が、自存自衛であり、副次目的が東亜解放であったように。

4.主目的

では、主目的に関する、プーチン大統領の2・24演説を所々引用しましよう。

「まずことし2月21日の演説で話したことから始めたい。それは、私たちの特別な懸念や不安を呼び起こすもの、毎年着実に、西側諸国の無責任な政治家たちが我が国に対し、露骨に、無遠慮に作り出している、あの根源的な脅威のことだ。
つまり、NATOの東方拡大、その軍備がロシア国境へ接近していることについてである。(中略)

NATOは、私たちのあらゆる抗議や懸念にもかかわらず、絶えず拡大している。(中略)それはロシアの国境のすぐ近くまで迫っている。

私たちの国境に隣接する地域での軍事開発を許すならば、それは何十年も先まで、もしかしたら永遠に続くことになるかもしれないし、ロシアにとって増大し続ける絶対に受け入れられない脅威を作り出すことになるだろう。(中略)

すでに今、NATOが東に拡大するにつれ、我が国にとって状況はどんどん悪化し、危険になってきている(中略)。

NATOが軍備をさらに拡大し、ウクライナの領土を軍事的に開発し始めることは、私たちにとって受け入れがたいことだ。(中略)

問題なのは、私たちと隣接する土地に、言っておくが、それは私たちの歴史的領土だ、そこに、私たちに敵対的な『反ロシア』が作られようとしていることだ(3)。
それは完全に外からのコントロール下に置かれ、NATO軍によって強化され、最新の武器が次々と供給されている。

アメリカとその同盟諸国にとって、これはいわゆるロシア封じ込め政策であり、明らかな地政学的配当だ。
一方、我が国にとっては、それは結局のところ、生死を分ける問題であり、民族としての歴史的な未来に関わる問題である。(中略)

誇張しているわけではなく、実際にそうなのだ。
これは、私たちの国益に対してだけでなく、我が国家の存在、主権そのものに対する現実の脅威だ。

それこそ、何度も言ってきた、レッドラインなのだ。
彼らはそれを超えた。

そんな中、ドンバスの情勢がある」

5.副次目的

「そんな中、ドンバスの情勢がある」以下で、「ドンバスで起きている悲劇的な事態」について述べています。

「ロシアしか頼る先がなく、私たちしか希望を託すことのできない数百万人の住民に対するジェノサイド、これを直ちに止める必要があったのだ。(中略)

ドンバスの人民共和国はロシアに助けを求めてきた。
これを受け、国連憲章第7章51条と、ロシア安全保障会議の承認に基づき、また、本年2月22日に連邦議会が批准した、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国との友好および協力に関する条約を履行するため、特別な軍事作戦を実施する決定を下した。

その目的は、8年間、ウクライナ政府によって虐げられ、ジェノサイドにさらされてきた人々を保護することだ。
そしてそのために、私たちはウクライナの非軍事化と非ナチ化を目指していく。(中略)

ただ、私たちの計画にウクライナ領土の占領は入っていない(5)。
わたしたちは誰のことも力で押さえるつもりはない」

6.ウクライナの人々へ

プーチン氏は、ウクライナ国民へ、次のような訴えも行っています。

「現在起きていることは、ウクライナ国家やウクライナ人の利益を侵害したいという思いによるものではない。
それは、ウクライナを人質にとり、我が国と我が国民に対し利用しようとしている者たちから、ロシア自身を守るためなのだ。

繰り返すが、私たちの行動は、我々に対して作り上げられた脅威、今起きていることよりも大きな災難に対する、自己防衛である。
どんなにつらくとも、これだけは分かって欲しい」

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(1) https://www.asahi.com/articles/ASQ9T41MQQ9TUHBI004.html
(2) https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220304/k10013513641000.html
(3) 「問題なのは」以下は、次のように解釈すべきだと思います。
「問題なのは、私たち《ロシア》と隣接する土地《ウクライナ》に、言っておくが、それ《ウクライナ》は私たち《ルーシ》の歴史的領土だ、そこ《ウクライナ》に、私たち《ロシア》に敵対的な『反ロシア』が作られようとしていることだ」
なぜ太字の箇所が、ロシアではなくルーシなのかと言えば、プーチン氏は「私たちの計画にウクライナ領土の占領は入っていない」と語っているからです。
(《 》内は、いけまこ補足) 

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