ロシアの侵攻目的

ウクライナ侵攻

1.ロシアの目的

今月7日公開の投稿でも述べましたが、昨年2月24日、侵攻直前にプーチン大統領が行ったテレビ演説によれば、その目的は、A.「ロシアの重要な安全保障問題」とB.「ドンバスの悲劇的な事態」の解決です。その具体的な内容に関する、自分なりの解釈と、それに関するプーチン氏の演説を、以下で記します。
引用文末の(2・24演説)と(2・21演説)は、プーチン氏が侵攻前に行った演説と、そこで言及されている昨年2月21日に行った演説からの引用だという意味です。

<A.に関して>

第一。ウクライナのNATO加盟阻止。
冷戦後、NATOが東方へ拡大して行きました。同同盟は、実質的に対ロシア軍事同盟(仮想敵はロシア)であり、その矛先はロシアに向いています。

そのような対露同盟に、「単なる隣国ではない・・・・私たち自身の歴史、文化、精神的空間における不可欠な部分・・・・私たちの同志、最も大切な人々であり・・・・親戚や血縁、家族の絆で結ばれた人たち」(2・21演説)であるウクライナが、加盟しようとしました(「単なる隣国」であるフィンランドやスウェーデンの加盟は、ロシアはさほど問題にしていません)。
加盟すれば、NATO軍、最悪アメリカ軍がそこに駐留するかもしれません。

「近年、NATO諸国の軍事派遣団は、演習の名目でウクライナの領土に常駐している。ウクライナ軍の統制システムは、すでにNATOに統合されている。(中略)
アメリカとNATOは、ウクライナの領土を軍事作戦の潜在的な舞台として、無分別に開発してきた。定期的な合同演習は、明らかに対ロシアのものであり、(中略)
多くのウクライナの飛行場は、我々の国境からそれほど遠くない場所にある。そこに配備されたNATOの戦術航空機は、精密兵器運搬船を含めて、私たちの領土をヴォルゴグラード、カザン、サマラ、アストラハンのラインの深いところまで攻撃することができる。ウクライナ領内に偵察レーダーを配備することで、NATOはウラル山脈までのロシアの領空を、厳しく管理することができるようになる。

最後に、米国が中距離核戦力全廃条約(INF条約)を破棄した後、ペンタゴン(米国防総省)は、最大5500キロメートル離れた標的を攻撃できる弾道ミサイルを含む陸上攻撃兵器を公然と開発してきた。ウクライナに配備された場合、これらのシステムはロシアの欧州地域全体の標的を攻撃できるようになる。巡航ミサイル『トマホーク』のモスクワまでの到達時間は35分未満になる。ハリコフからの弾道ミサイルなら7~8分。そして極超音速攻撃兵器では4~5分だ。それは喉へ突きつけられたナイフのようなものだ」(2・21演説)

第二。ウクライナ自身からの脅威の除去(ウクライナの非軍事化)。
NATO軍の脅威とは別に、米英によって軍事強化されたウクライナ自身による脅威も、ロシアは感じていたようです。

「すでに我々が知っているように、今やウクライナは自分たち独自の核兵器をつくる用意があると宣言している。(中略)
戦術核兵器の取得はウクライナにとって簡単なことだ。(中略)
もしウクライナが大量破壊兵器を手に入れたら、世界とヨーロッパの状況は、特に我々ロシアにとって劇的に変化することになる。
西側にいるウクライナの後援者たちは、ウクライナがこれらの兵器を入手し、ロシアに対する新たな脅威を生み出すのを助けることができるため、我々はこの危険に反応せざるを得ない」(2・21演説)(1)

安倍晋三元首相は、昨年の『月刊 Hnada』の編集長インタビューで述べています。

「プーチン大統領は領土的野心を持っているのではなく、自国の防衛、安全の確保という観点から今回のような行動を起こしたのではないかと思います」(2022年5月号、36頁)

NATOの東方拡大によってロシアが受けた脅威と、それを与えたNATO側の意識のギャップが、このたびの侵攻の原因だと思われます。

<B.に関して>

第三。「ドンバスの悲劇的事態」の解決(2)。
2014年以来、「8年間、ウクライナ政府によって虐げられ、ジェノサイドにさらされてきた(ロシア系の)人々を保護すること」(2・24演説)。
そのために、ドンバスのウクライナからの分離、ロシアへの併合を求めたのでしょう(3)。

<AとBの両方に関して>

第四。反ロシアの現ウクライナ政権の転覆(非ナチ化)。
軍事強化されたウクライナ軍の矛先は、ロシアに向いていますし、東部地域では、ロシア系住民が迫害を受けています。
反ロシア=ナチ政策(4)を推し進めているウクライナ現政権を転覆すること。
但し、昨年11月21日、ペスコフ露大統領報道官は、「侵攻時に『非ナチ化』と称してゼレンスキー政権の排除を目指したことに関し、現時点で侵攻の目的ではないと述べた」そうです(5)。
現在の目的は、第一、第二、第三ということでしょう。

2.それはロシアの目的ではない

ロシアが言ってもいないことを、言っているかのように解釈をして、それを基に、同国を非難する人たちがいます。彼らによれば、ロシアの目的は、
第一、ウクライナ全土の併合、
第二、ウクライナ民族の絶滅(6)、
第三、ウクライナの破壊(7)、
であるらしい。

しかし、ロシアはどこで、そのようなことを言っているのでしょうか。
私は、2・24演説と2・21演説と「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」という論文くらいしか読んでいないので、ロシアが別のところで、上記を目的すると述べているかもしれませんが。
何れにせよ、そのように主張するのなら、どこでそう言っているのかを示すべきです。

ロシアが表明していることをそのまま信じるのはナイーブだという人もあるかもしれません。しかし、これまで何度も引用しましたが、ラブロフ露外相は、昨年9月24日の国連本部での記者会見で、2・24演説に関して、ロシアの侵攻の目的は「そこに全部書いてある」と述べています。それに、プーチン氏は合理的な人間だと評されていますし、それなら、文書で表明されていること=プーチン氏・ロシアが実際に考えていること、と判断するのが自然だと思います。

(250)

(1) ロシアの軍事・安全保障政策が専門の小泉悠氏は、ウクライナの核武装の意図については懐疑的です(『ウクライナ戦争』、ちくま新書、220頁)。私も半信半疑なのですが、プーチン氏は2・24演説でも、ウクライナは「今やさらに、核兵器保有まで求めている」と発言していますし、2・21演説での発言内容も、嘘ばかりだとはとても思えないので、そのまま引用しました。
(2) これはウクライナとロシアの間に関してだけではありませんが、政治が強引に引いた国境と、居住する民族が一致しないことが、多くの紛争の原因でしょう。
(3) ロシアは、ザポリージャとヘルソン州も併合を宣言しましたが、それについては、2・24、2・21演説、一体性論文の何れにも言及がありません。
昨年9月30日に、その他ルハンスク、ドネツク州と共に、四州の併合を宣言しましたが、その演説を読んだ限りでは、その意図は「ドンバスとノボロシア」のロシアへの復帰、であるようです。
(4) 第二次世界大戦、ロシアがいうところの大祖国戦争において、ウクライナは反ソ(ロ)の立場からナチス・ドイツの側についた者と、ソ連=ロシアの側についた者に分かれて戦いました。プーチン氏の言うナチとは、反ロシアの側につく者という意味に、私は理解しています。
(5) https://www.jiji.com/jc/article?k=2022112300427&g=int
(6) 第一と第二に関する記事です。
グレンコ・アンドリー氏の発言に対する疑問
(7) https://www.yomiuri.co.jp/world/20230428-OYT1T50038/
アメリカの対宇支援の目的は、ロシアの破壊である、との主張と相似形を成しています。

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