ウクライナとロシアは同じくらい

ウクライナ侵攻

昨年2月24日のウクライナ侵攻直前に行った演説で、プーチン大統領は、ロシアの動機は「ドンバスで起きている悲劇的な事態」と、「ロシアの重要な安全保障問題」であることを明示しています(1)。
そして、その演説と、そこで言及されている同年2月21日の演説を読めば、ロシアの主目的は、「ロシアの重要な安全保障問題」であるのが分かります。

安倍晋三元首相も、昨年の雑誌のインタビューで述べています。

「プーチン大統領は領土的野心を持っているのではなく、自国の防衛、安全の確保という観点から今回のような行動を起こしたのではないかとは思います」(2)。

ロシアは自国の安全保障のために、何を必要としたのでしょうか。
第一、ウクライナの武装強化の阻止と、第二、ウクライナのNATO加盟阻止だと思われます。

第一、ウクライナの武装強化の阻止。
米英はウクライナを軍事的に強化しました。ジョン・ミアシャイマー氏の言葉を引くなら、「事実上のNATO加盟国」(3)にしました。そして、ウクライナの軍事強化の対象はロシアです。
昨年の12月7日付ドイツのツァイト誌のインタビューで、「2014年のミンスク合意は、ウクライナに時間を与えるための試みだった」との発言の後で、メルケル前独首相は、「ウクライナもこの時間を利用して、ご覧のように、強くなった」(4)と述べましたし、このたびの宇露戦争におけるウクライナの健闘により、それは証明されました。
ウクライナが「強くなった」ことは、ロシアにとって脅威だったのでしょう。

第二、ウクライナのNATO加盟阻止。
ウクライナがNATOに加盟すれば、同国に米軍が駐留する(核ミサイルが配備される)かもしれず、そうなったらロシアにとって大変な脅威です。
それらの脅威を除去するために、ロシアは今回の行動に踏み切ったのでしょう。

ロシアの行動は、過剰反応でしょうか。そうかもしれません。
しかし、2001年9月11日、イスラム過激派によって、ニューヨークの世界貿易センタービル他を攻撃されたアメリカだって、過敏になり、その結果、アフガニスタン侵攻やイラク侵攻を起こしました。

核ミサイルを撃ち込まれる可能性はないのに、地球の反対側にまで行って、敵を殲滅もしくは打倒しようとしたアフガニスタン紛争やイラク戦争よりも、ロシアのウクライナ侵攻に似ているのは、これは多くの人たちが指摘していることですが、1962年ソ連がアメリカの裏庭に位置するキューバに、核ミサイルを配備しようとしたキューバ危機でしょう。

ミアシャイマー氏は、語っています。

「国家、とりわけ大国というものは、お互いに『恐怖』を感じています。その恐怖の度合いは、時と局面によって違ってきますが、自分たちの生存が脅かされるほどの恐怖を感じた時、国家は大きなリスクを背負って大胆な行動に出るのです」(5)。

そして、9・11後のアメリカも、今回のロシアも、「大胆な行動に出」ました。
それにしても、アメリカの「大胆な行動」に対しては、西側諸国は、米国に対しては経済制裁、イラクに対しては経済・軍事支援ではなかったのに、昨年以来のロシアのそれに対しては経済制裁、ウクライナに対しては経済・軍事支援なのは、どうしてなのでしょうか。
明らかにダブル・スタンダードですが、それを納得できるように説明した論説を、見たことがありません。

それはさておき、たとえ「自分たちの生存が脅かされるほどの恐怖を感じ」たとしても、大国はあくまでも国際法の枠内で、行動する(すべき)でしょうか。米露が実例を示してくれているように、そんなことはありません。2022年5月31日に、「現実は法に優先する」という投稿を公開しましたが、大国の行動原理は、<自国の安全保障は国際法に優先する>です。
大国は国際法よりも、自国の安全保障を優先します。そして、アメリカもロシアも、そして、いわゆる大国ではありませんが、イスラエルも、そのように振舞っています。

今後の世界の平和のために必要なことは、
第一、ロシアは彼らなりに、自国の安全保障のために行動していることを認めること、
第二、必ずしも、ロシア=悪、ウクライナ=善、ではないことを認めること。

この二つを認めるなら、そして、戦後国際社会が、とりわけ西側が制裁を解除するなりして、ロシアを受け入れるなら、ヨーロッパは、そして世界は平和になるでしょう。しかし、この二つを認めないなら、それを原因とする紛争が、何れ生じることになるでしょう(6)。

(254)

(1) https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220304/k10013513641000.html
(2) 『月刊 Hanada』2022年5月号 36頁
(3) 『文藝春秋』2022年6月号 149頁
(4) 「ミンスク合意は『ウクライナに時間を与える』ための試みだった=メルケル前ドイツ首相」Sputnik 日本
(5) 『文藝春秋』2022年6月号 156頁
(6) 西側の政治家、メディア、知識人、ヤフコメ民に代表される大衆などの発言を見ると、おおよそ予想できますが、西側諸国は、たぶん後者を選択することになるでしょう。

【参考動画です】
https://www.youtube.com/watch?v=TGHd4806WAA

タイトルとURLをコピーしました