戦場で新しい国境が決まる

ウクライナ侵攻

このブログでは、シカゴ大学政治学部教授のジョン・ミアシャイマー氏や、フランスの歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏に言及したことがあります。が、私は日本人では、国際政治アナリスト伊藤貫氏の動画「真剣な雑談」や、元外務省主任分析官佐藤優氏の論説や鈴木宗男参議院議員が主催する大地塾での氏の発言に注目しています。勿論、すべてを見たわけではありませんが。

彼らの名前を挙げると、道理でお前の投稿は親露的なはずだと言われそうですが、重要なのは、親宇派とか、親露派とかの政治的色分けではなく、誰の言論が真を衝いているかでしょう。
一年以上ウクライナ問題を見てきて思うのは、ミアシャイマー氏の論説(『文藝春秋』2022年6月号)が、一番真実に近いように思われます。

大地塾の講演で、鈴木氏も佐藤氏も、即時停戦を主張しています。けれども、ウクライナとロシアの主張・目的の隔たりが大きすぎて、両者の折り合いがつくはずがないので、現状では停戦は不可能でしょう。

佐藤氏は、『Wedge』という雑誌の2014年8月26日付のオンライン記事「佐藤優が分析するウクライナ危機の黒幕とプーチン来日問題」で語っています。

「率直にいうとお互いにまだ殺し足りないことだ。これ以上犠牲が出るのは嫌だとお互い思わないと、和解は成立しない。満足のいく犠牲者の数がどのぐらいかというと、定量的には表せない。ある国では何十人だが、ある国では何万人。時期によっても変わる。そのラインに達したとき、和解は成立する」

記事の年月日を見れば分かりますが、昨年から始まった侵攻に関しての発言ではありません。しかし、その主張は、現状でも、そのまま通用しそうです。なので、戦場である程度の決着をつけなければ、停戦は実行できないでしょう。
それはともかく、上のように主張した佐藤氏なら、現在でもそのような発言をして当然だと思うのですが、なぜか即時停戦を主張しています。

ヤフー記事のコメント欄を見ると、いまだにウクライナ側が優勢だとが、ロシアは劣勢だとか、ウクライナは全占領地を奪還できるとかを信じている人が少なくありません。しかし、彼らはどのような情報から、そのような判断を行っているのでしょうか。不思議です。

戦況図を見れば、特に、バフムートでのそれを見れば、少しづつですが、ロシアが押しているのは分かりますし(注)、奪われた広大な土地をウクライナが取り戻せている訳でもありませんし、4月20日に配信されたNewsweek誌の記事で、ウクライナの駐英大使バディム・プリスタイコ氏も認めています。

「西側の同盟国は、ウクライナによる春の大規模反転攻勢に注目していながら、勝利を確実にするほどの支援をしていない。(中略)
あまり認識されていないが、ロシアは大きな戦果を手にしている。『ロシアはすでに多くの成果を得ている。だからいつでも、交渉のテーブルにつくことができる』
『一方、ウクライナにとって交渉は、失うことを意味する。最低でもクリミアを奪われることは天才でなくても理解できる』(中略)
今すぐ戦争を終らせても、ロシアは国境からクリミア半島まで地続きの領土を手にすることができる。ロシアにとってこれは勝利を意味する、とプリスタイコは言う」

「あまり認識されていないが」と断りつつ、「ロシアは大きな戦果を手にしている」云々と語っています。現在の戦況は、この通りでしょう。ヤフコメ民の多数派の認識とは、相当な懸隔があります。

因みに、このNewsweek誌の記事を元にしたヤフーのそれには、コメントが6件しかありません(今日現在)(https://news.yahoo.co.jp/articles/c4ecd470f43f23ab667fcd19d9500a0470a092fa)。

他の記事では、数十、数百、時に一千件を超えるコメントが寄せられるのに。
本質的ではない記事ばかり読んでいるから、ヤフコメ民は認識がズレてしまうのかもしれません。

ウクライナ情勢は、現状はロシアの方が優勢です。
自力で戦っていない、西側からの支援頼みのウクライナは、今後西側からの支援が劇的に増大しない限り、全占領地の奪還は無理でしょう。そして、この先西側からの支援は劇的に増加しうるでしょうか。どうもそんなことはありそうもありません。

とするなら、不測の事態(ゼレンスキー氏やプーチン氏の死亡または暗殺、クー・デターによる何れかの政権の崩壊)でも発生しない限り、予測しうるのは、ウクライナとロシアの戦闘が膠着したところで、そこが新しい国境となって終わる、ではないでしょうか。

ロシアの目的が、ウクライナ全土の併合だと信じている人たちにとっては、その場合も、ロシアの敗北なのかもしれません。

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(注)
5月20日、ロシア側はバフムートの市街地をほぼ制圧したようです。一方、ウクライナ側は同郊外の一部を掌握しているだけのようです。(2023・5・27)

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