「北朝鮮の非核化」は何のため?

そもそも核兵器の廃絶は不可能ですし(「それでも核兵器は廃絶できない」)、北朝鮮は独立と体制維持のため、核兵器を手放すとは思えません。

ジョージ・W・ブッシュ政権で国務副長官を務めたリチャード・アーミテージ氏は、「核(兵器)廃絶の可能性はゼロ%」との意見の持ち主ですし(『日米同盟vs.中国・北朝鮮』文春新書、217-218頁)、現在のボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官も同じ認識だろうと思います。

それなのに、トランプ大統領、ポンペオ国務長官、ボルトン氏は北朝鮮に対して、非核化を求めています。
4月11日の米韓首脳会談で、「トランプ氏は『我々(米国)は【ビッグディール】(大きな取引)を協議している。核兵器を廃棄させなければいけない』と述べ、北朝鮮がすべての核関連施設を完全に廃棄するまで、制裁解除などの『見返り』を与えない一括合意を追求していると述べた」とのことです(朝日新聞、4月12日夕刊)。
これはどういうことでしょうか。

トランプ氏も、ポンペオ氏も、ボルトン氏も、北朝鮮が核(開発)を放棄すると本気で考えているのでしょうか。
それとも、経済制裁によって核(開発)を抑制するため、方便として「非核化」の要求を突きつけているだけなのでしょうか。

【追記】
9月10日、トランプ大統領はボルトン補佐官を更迭しました。
ボルトン氏は核兵器の廃絶も、北朝鮮がすんなり核(開発)を放棄するとも、考えていなかっただろうと思います。
一方、トランプ大統領やポンペオ国務長官はどうでしょうか。もし彼らがそれら二つの幻想を信じているのだとしたら、日本の安全保障は不利になるでしょう。(2019・9・14)

北朝鮮の「完全な非核化」?

10月13日付朝日新聞夕刊によれば、英BBCとのインタビューで、「韓国の文在寅大統領は12日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が完全な非核化を約束したと改めて強調した」とのことです。

「文氏によれば、北朝鮮は『経済発展のために核を放棄する』『体制だけ保証されれば、制裁という困難に遭いながら核を持つ理由は全くない』と約束したという。
文氏は『金正恩氏が語る完全な非核化は、現存する核兵器と核物質などを全てなくすことも含まれている』と語った」

そうです。

私たちが知りたいのは、麗しい目的地の話ではありません。どのような経路をへて、そこに辿り着くのかということです。
どのような要求、つまり「米国の相応の措置」が認められたら、金正恩氏は非核化を実施すると述べているのでしょうか。その方が知りたい。
しかし、文氏の発言には、その要求について具体的な言及がありません。なぜでしょうか。それは、米国が決めるべき問題だからでしょうか。もしそうであるなら、米国が呑めない要求だったら、非核化は実現しないということでしょう。

10月15日に配信されたTBS NEWSによれば、仏フィガロ紙への書面のインタビューに文氏は、

「北朝鮮は経済制裁により、すでに困難に直面していて、非核化合意に違反した場合に、さらに経済制裁が強化されれば耐えることができない」

ゆえに、

「北朝鮮が、経済状況の悪化を招く非核化合意の破棄を選択することはない」

との「認識を示した」そうです。

文氏の言う通りなら、アメリカを翻弄する余裕など北朝鮮にはないはずです。速やかに、非核化に着手しなければおかしい。しかし、同国は米国に対し条件闘争を行っているように見えます。あるいは、本音は非核の意志はなくて、のらりくらりして、トランプ大統領の任期切れを待っているようにしか見えません。

文氏は、麗しい目的地の目くらましを受けて、舞い上がっていなければ良いのですが。
文氏のみならず、トランプ氏もそうですが、一国の大統領の発言だから憂慮に及ばないと、韓朝、ひいては米朝の交渉も安心して見ていられないのは、残念です。