1.トランプ氏のアカウント停止
1月6日トランプ前大統領の支持派とされる人たちによる、米連邦議会への乱入事件が発生しました。
さらなる暴力をあおる危険があるとの理由で、ツイッター社による永久停止を初め、SNS各社による同氏のアカウント停止が行われました。
アカウントの停止は、トランプ氏本人のみならず、支持者他にも及んでいるようです。
2.SNS媒体の行為に対する批判
SNS媒体の、そのような行為に対し、支持する意見がある一方、他方では疑義が呈されています。
ドイツ政府のザイベルト首相報道官は、1月11日の定期記者会見で、
「『言論の自由は、根本的に重要な基本的人権だ。そしてこの基本的人権が制限され得るのは、法律を通じて、また立法者が定めた枠組みの中でであり、ソーシャルメディア各社の経営陣の決定によってではない』と言明。『この観点から、(メルケル)首相は米大統領のアカウントが永久停止されたことは問題だと考えている』」(1)
と述べたそうです。メルケル首相の判断は、正しいでしょう。
その他、メキシコのオブラドール大統領、フランスのル・メール経済・財務相、同欧州問題担当副大臣のボーヌ氏からも批判的な主張がなされました(2)。
さらにつけ加えれば、アメリカのヘイリー前国連大使も「米大統領は言うまでもなく、人々を沈黙させようというのは、中国で起きていることだ。わが国ではあってはならない」(3)と発言したそうですし、「米公共ラジオなどによる調査では、トランプ氏の退任後のSNS利用を、企業が制限すべきでないとした回答が50%にのぼり、制限を続けるべきだとした43%を上回った」(4)そうです。
3.自己の考えを絶対視する人たち
第一。トランプ氏は選挙で国民から選ばれた大統領であるのに対し、SNS媒体の経営陣はそうではありません。
第二。トランプ氏のツイート他は非合法で行われたわけではないのに対し、SNS媒体が行ったアカウント停止は、法的根拠がありません。
第三。そもそも議会に乱入した者たちは、トランプ氏支持者だとされていますが、本当にそうなのでしょうか。中に、それを装った者はいなかったのでしょうか。それが明確になっていない段階での、トランプ氏のアカウント停止は、早計ではないでしょうか。
第四。トランプ氏は支持者に議会へ突入せよと呼びかけたのでしょうか。もし呼びかけたのなら、どの発言がそれに当たるのでしょうか。もし同氏が呼びかけていないのなら、責任は突入した当人にあります。
また、トランプ氏はそんな呼びかけを行っていないのに、SNS媒体の経営陣が勝手にそう解釈したということはないでしょうか。
トランプ前大統領のアカウント停止で分かるのは、SNS媒体の経営陣は、合法的に選ばれた現職の大統領よりも自分たちの方が見識があり、判断も優れていると思い込んでいる!ということです。
彼らは、ひょっとしたら自分たちの判断の方が間違っているかもしれないとの疑いがありません。自らは無謬だと確信しているようです。
1月7日フェイスブックのザッカーバーグ氏は述べたそうです。
「トランプ大統領に我々のサービスを利用することを容認するリスクは、大きすぎる」(5)
むしろ、SNS媒体の経営陣に、誰の発言を容認するか容認しないかの判断を委ねることこそ、「リスクは、大き過ぎる」と言うべきでしょう。
4.ダブル・スタンダードの理由を示さない人たち
「SNSのトランプ氏アカ停止は『問題』独首相」(6)という記事に、ある日面白いコメントが寄せられていました。
「暴動に発展したのを理由に停止するなら、BLMを支持した政治家・歌手・俳優・アスリートなんかも停止しなければおかしい。
明らかにダブスタだ。言論の自由が侵害されている」
もっともな主張です。オーストラリアのマイケル・マコーマック副首相も発言しています。
「トランプ氏の阻止は、検閲に値する。
ツイッター社はなぜ、オーストラリアの兵士がアフガニスタンの子どもを殺しているように合成されたフェイク写真を中国政府が投稿したことを許し、削除しなかったのか。まだアメリカの大統領である人物の投稿を削除する場合、それらの兵士の写真についても考える必要があると、ツイッター社のオーナーに言いたい。(その偽りの写真は)まだ削除されておらず、誤りである」(7)
自己の考えを絶対視する人たちには、もう一つの特徴があります。ダブル・スタンダードです。
一歩譲って、米議会に乱入した者たちは皆トランプ支持派だったとしましょう。では、なぜ暴動を引き起こしたトランプ氏及びその支持者のアカウントは停止し、暴動を引き起こしたBLMの支持者たちのアカウントは停止しないのでしょうか。それはどうしてなのでしょうか。
SNS媒体の経営陣は、前者のアカウント停止は可で、後者のアカウント停止は不可であるとする合理的な理由を示すべきです。示しえないなら、アカウントの停止はすべきではありません。しかし、彼らはその理由を説明しないまま、アカウントの停止を続けています。
他人を説得できないのに、力に任せて自己の主張を貫徹している。
彼らは、独善的な全体主義者です。
5.自由社会の自由の敵
今日、自由社会の自由の最大の敵はだれなのでしょうか。
自己の考えを絶対視し、なおかつ自分たちが行っているダブル・スタンダードの合理的な理由を示さないという、二つの性質を併せ持つ人たちです。
そのような人たちは、わが国にもいます。「差別的発言に言論の自由はない」と言った人たち(差別的であるかどうかは私が決める。そして私の判断は絶対に正しい!)や、あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」は可で、あいちトリカエナハーレ「表現の自由展」はヘイトとした、前者の主催者大村秀章愛知県知事のような人たちです。
要するに、いわゆるリベラル派です。
本当のリベラリストなら、ヴォルテールの言葉「私はあなたの意見には反対だ。だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」を遵守するはずですが、しかし、いわゆるリベラルは、それとは真反対の人たちです。彼らは、ヴォルテールの言葉が耳から入っても、脳味噌まで届かない人たちです。
(1)(6)「SNSのトランプ氏アカ停止は『問題』独首相」。
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(2)(7)「跡形もなくなったトランプ氏ツイッター。世界のリーダー7人はビッグテックの制裁をどう見たか?」
(3)(4)2021年1月18日付朝日新聞
(5)「トランプ氏のFBを無期限停止に ツイッターは凍結解除」