1.ウクライナの併合がロシアの目的?
日本在住のウクライナ人の国際政治学者、グレンコ・アンドリー氏は、テレビ番組で述べました。
「ロシアは何としてでもウクライナを征服し、ウクライナの国土を併合した上でウクライナ民族を絶滅させたいと思っているのです」(1)
岡崎研究所の署名で、筆者は、ネット記事に書いています。
「プーチンがウクライナ国家の存立を否定し、それをロシアに併合するためにウクライナを侵略しているのがこの戦争の原因である」(2)
北海道大学教授宇山智彦氏も、やはり記しています。
「ロシアがウクライナ全体、さらには旧ソ連地域全体を領土ないし属国とし、欧米中心の世界秩序を壊そうとする野心を持っている限り(後略)」(3)
引用文から窺われるように、また、ヤフーコメント欄でも散見されるように、昨年から始まったロシアによるウクライナ侵攻の目的は、前者が後者を吸収合併することである、というようなことを言う人たちがいます。
しかし、それは、本当でしょうか。
2.私が読んだ限りでは
このブログで、何度も引用しましたが、ラブロフ露外相は、昨年9月24日国連本部での記者会見で、次のように発言しています。
「プーチン大統領が2月24日に発表したことをもっと頻繁に、気をつけながら読むといい。そこに全部書いてある。読めばわかる」(4)
もしウクライナの併合が、ロシアの目的なら、当然それについて、2・24演説に「全部書いてある」はずでしょう。
では、侵攻直前に行ったテレビ演説で、プーチン大統領はそのような発言を行っているでしょうか。私が読んだ限りでは、そのような文言は見当たりません。あるのは、次のような発言です。
「私たちの計画にウクライナ領土の占領は入っていない」(5)
これを素直に読めば、ドンバスの「解放」は別にして、ロシアはウクライナ全土の併合を求めていないと考えられます。
侵攻当日の2月24日の演説でも、そこで言及されている2月21日の演説でも、プーチン氏は「ウクライナの併合」について、語っていません。
その他、一部の人たちが注目する、2021年7月12日のプーチン氏による「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」と題する論文も、次のような言葉で、締めくくられています。
「ひとつだけ言っておきたいのは、ロシアはこれまでも、これからも『反ウクライナ』ではない、ということだ。そして、ウクライナがどうあるべきかは、その国民が決めることである」(6)
上記から分かるのは、ロシアは、「ウクライナ国家の存立を否定」していないということです。
一体、ウクライナの併合が戦争目的であるということを、ロシアはどこで表明しているでしょうか。
実際に、侵攻当初において、ロシア軍が動員した兵力は17~20万人とのことで、とてもウクライナ全土を制圧できるような規模ではなかったことは、専門家たちも指摘しています。たぶん、ゼレンスキー政権の転覆ないし彼の亡命を意図しただけの、それを実行するのに必要とされるだけの軍勢だったのでしょう。
3.根拠を示さない
私が、2・24演説、2・21演説、そして、いわゆる歴史的一体性論文を読んでも、ロシアの目的がウクライナの併合であるとの記述は、見出せませんでした。あるいは、私の読解力不足で、それらの文書のどこかに、ウクライナの併合を追求するとの記述があるのでしょうか。それとも、ロシアはその他の別の文書で、ウクライナの併合をを表明しているのでしょうか。
プーチン大統領は合理主義者だという。それなら、なおさら、戦争目的を明言しているはずです。
第一節で引用した筆者たちは、ウクライナの併合が戦争目的であるということを、どこでロシアが表明しているのかを示していません。彼らは、「ロシアはこう考えていること」と、「『ロシアはこう考えている』と自分が思うこと」の区別がついていないのかもしれません。
何れにせよ、ウクライナの併合がロシアの目的だと言うのなら、その証拠を示す必要があると思います。
(1) https://www.excite.co.jp/news/article/AllNightNippon_419820/
(2) https://wedge.ismedia.jp/articles/-/29659?page=2
(3) https://www.jfir.or.jp/studygroup_article/8835/
(4) https://www.asahi.com/articles/ASQ9T41MQQ9TUHBI004.html
(5) https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220304/k10013513641000.html
(6) http://www.a-saida.jp/putin/putin.htm