2月21日公開の、ニッポン放送ニュース・オンラインの記事「『戦う以外に道はない』ウクライナの厳しい実情 ウクライナ出身の国際政治学者が激白」(1)で、日本在住のグレンコ・アンドリー氏は発言しています。
「ロシアは何としてでもウクライナを征服し、ウクライナの国土を併合した上でウクライナ民族を絶滅させたいと思っているのです。(中略)
『名誉ある敗北も道ではないか』と言う人もいますが、今回の場合、名誉ある敗北、名誉ある降伏という道は残されていないのです。なぜなら、降伏してしまうとロシアによって、ウクライナ民族が完全に絶滅されてしまうからです。自分の命を維持するという意味でも、『戦うしか道はない』ということがはっきりしています」
それは、本当でしょうか?
ロシア、ウクライナ、ベラルーシは、歴史的に同じルーシを起源とする国々です。民族的にも、文化的にも、言語的にも近い。それなのに、なぜ「ロシアは何としてでもウクライナを征服し、ウクライナの国土を併合した上でウクライナ民族を絶滅させたいと思っている」のでしょうか。
そうだとしましょう。
そうだとするなら、当然ベラルーシに対しても、「ロシアは何としてでもベラルーシを征服し、ベラルーシの国土を併合した上でベラルーシ民族を絶滅させたいと思っている」と考えても不思議ではありません。
では、ロシアがベラルーシを征服する兆候があるでしょうか。ウクライナの次に、ロシアの餌食になるのは、ベラルーシでしょうか。
もしロシアがベラルーシに対して征服の意図がないのだとしたら、どうしてウクライナに対してだけは、「併合」と「絶滅」なのでしょうか?
合理的に解釈するなら、ロシアは、ベラルーシに対しても、ウクライナに対しても、「併合」も「民族を絶滅」も、求めていないとするのが自然です。
プーチン大統領は、昨年の侵攻当日のテレビ演説で語っています(2)。
「私たちはウクライナの非軍事化と非ナチ化を目指していく。(中略)ただ、私たちの計画にウクライナ《全》領土の占領ははいっていない」(《 》内、いけまこ補足)
また、2021年7月12日の、「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体化について」と題する論文(3)を、プーチン氏は以下の言葉で締め括っています。
「ひとつだけ言っておきたいのは、ロシアは、これまでも、これからも『反ウクライナ』ではない、ということだ。そして、ウクライナがどうあるべきかは、その国民が決めることである」
何れにせよ、プーチン氏の演説(2022年2月21日のそれも含めて)や論文から分かるのは、ロシアは「ウクライナの併合」も、「ウクライナ民族を絶滅」も、求めていないということです。
ロシアはどこで、そんなことを明言しているのでしょうか。
歴史を眺めるなら、戦争において、勝者は敗者の国の指導層を排除(処刑)した上で、敗者の独立を認めず併合したり(その実例は無数にあり)、敗者の独立を認めた上で、自国の勢力圏に引き入れたり(第二次大戦後の日本や東西ドイツ)しました。
勝者が行ったのは敗者の指導層の排除であって、後者の人民の絶滅は目的ではありませんでした。なぜならば、勝者は敗者の人民及びその国力を吸収し、より大国になり、次なる敵対国との勢力争いに備えたからです。
まして、ロシアにとって、ウクライナは兄弟国です。「ウクライナ民族が完全に絶滅」を目的にしているとは、とうてい考えられません。
再び、ロシアはどこで、そんなことを明言しているのでしょうか(4)。
ロシアが目指している第一の目的は、ウクライナ自身による武装化(その矛先はロシアに向いている)と、ウクライナがNATOに加盟した場合、同軍、とりわけ米軍が常駐する可能性があり(その矛先もロシアに向く)、それらによって自国の安全が脅かされることになるから、それを阻止しようとしている、でしょう(5)。
因みに、ロシアの第二の目的は、ドンバスの「解放」です。
できれば、ウクライナを武装された反ロシアの国にしない、少なくとも、ウクライナをNATOとの間の中立国(緩衝国)にするというのが、ロシアの目的だと考えられます。
(1) https://www.excite.co.jp/news/article/AllNightNippon_419820/
(2) https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220304/k10013513641000.html
(3) http://www.a-saida.jp/putin/putin.htm
(4) 状況証拠からそう判断すると言うのかもしれませんが、それなら、ウクライナに対するアメリカの軍事支援だって、何とでも(アメリカの目的は、ロシアという国を滅ぼすことにあるなど)言えるということになります。
(5) 逆に言うなら、NATOの目的は、ウクライナをロシアに対する軍事的な防波堤にすることでしょう。