1.ロシアと西側のチキン・ゲームになっている
昨年ロシアがウクライナへ侵攻して以来、両国は戦争を続けていますが、西側諸国は、ロシアに対しては経済制裁、ウクライナに対しては軍事支援を行っています。
戦争はウクライナ対ロシアだったはずが、西側による制裁、支援の継続によって、ますますウクライナ(+西側)対ロシアになっています(西側が括弧付きなのは、間接参戦のためです)。
ロシアの侵攻を良しとしない西側は、軍事支援を拡大し、戦争は、ロシア対西側のチキン・ゲームの様相を呈しています。
2.チキン・ゲームとは
チキン・ゲームとは、ウィキペディアによれば、「別々の車に乗った2人のプレイヤーが互いの車に一直線に走行するゲームである。日本ではチキンレースとも呼ばれる。
激突を避けるために先にハンドルを切ったプレイヤーはチキン(臆病者)と称され、屈辱を味わう結果になる。チキンゲームのような、どちらか一方のプレイヤーが引き下がるまで苦痛を強いられるゲームは、若者の間で行われる場面がほとんどである。
また、『チキンゲーム』という言葉は、ある交渉において、2人の当事者がともに強硬な態度をとり続けると、悲劇的な結末を迎えるにもかかわらず、プライドが邪魔をして双方ともに譲歩できない状況の比喩として使われる場合もある。(中略)
そして双方の少なくとも一方が譲歩しない限り、悲劇的な結末は避けられない」
「ゲームは、若者の間で行われる場面がほとんどである」とありますが、実質的に、西側を仕切っているのはアメリカです。同国のバイデン大統領は現在80歳であり、一方のロシアのプーチン大統領は70歳であり、両者とも若者ではありません。が、チキン・ゲームをやっています(笑)。
3.片方が引き下がるか、双方とも引き下がらないか
ロシアと西側は、何れ一方が引き下がるでしょうか、それとも、双方とも引き下がらないでしょうか。
「双方のプレイヤーの少なくとも一方が譲歩しない限り、悲劇的な結末は避けられない」。
だから、世界の多くの人たちが、憂慮しています。
では、ロシアはこのゲームで降りるでしょうか。いまや、戦争は、ウクライナ・西側連合対ロシアになっていて、後者は、国家の存亡をかけた戦いだとみなしているようなので、降りないでしょう。では、西側はどうでしょうか。
4.アメリカは降りないか
たとえば、フランスの歴史人口学者、家族人類学者のエマニュエル・トッド氏は西側を主導するアメリカは、降りないと判断しています。同国が降りなければ、「悲劇的な結末は避けられない」ので、だから氏の著書の題名は、『第三次世界大戦はもう始まっている』(文春新書)です。
トッド氏が、アメリカは降りないと考える理由は、この戦争がロシアのみならず、米国にとっても死活問題になりつつあるからだという。
「ロシアの勝利を阻止できなかったとしたら、(中略)アメリカの威信が傷つき、アメリカ主導の国際秩序自体が揺るがされることになる」(1)
言うまでもありませんが、アメリカ以外の西側諸国は、アメリカなしに、ウクライナを支援し、ロシアと対峙することはできませんから、引く引かないはアメリカ次第です。
では、アメリカが引くことはないでしょうか。同国にとって、本当にウクライナ問題は死活的なのでしょうか。
アメリカは、自国軍を投入したベトナム戦争では撤退しましたし、アフガンやイラクでも、民主化も治安の安定も実現しないまま撤収しました。同国は「威信が傷つ」いても、何度も退いています。
ウクライナに対して、ロシア本土を攻撃しないように要求したり、抑制された兵器しか供与しないことを見ても、どうも腰が引けています。
また、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は、今年1月にゼレンスキー大統領と会談して、「ある時点から(アメリカの)支援が今より難しくなるだろう、と認めたという」(2)。
何れ、米露のどちらかが、チキン・ゲームを降りなければ、世界大戦にエスカレートする可能性は大です。
アメリカは、世界大戦を覚悟してまで、ウクライナのために戦う意志があるのでしょうか。あるとは思えません。
とするなら、アメリカは、ある程度までチキン・ゲームに興ずるものの、いつか降りる可能性が高いのではないでしょうか。
私の希望的観測なのかもしれませんが、戦争のエスカレーションによって大惨事が起こる確率と、アメリカ他西側が降りる確率は、後者の方が高いのではないかと思います。
(1)エマニュエル・トッド著、大野舞訳、『第三次世界大戦はもう始まっている』、文春新書、26頁
引用した箇所の後、氏は、次のように書いています。
「アメリカは、軍事と金融の面で世界的な覇権を握るなかで、実物経済の面では、世界各地からの供給に全面的に依存していますが、このシステム全体が崩壊する恐れが出てくるのです。ウクライナ問題は、アメリカにとっても、それほどの『死活問題』になっています」
(2) https://www.asahi.com/articles/ASR1N2S9PR1NUHBI00S.html