「ロシアが負けることはまず考えられない」は暴言か

1月25日、日印協会の会合で、森喜朗元首相はウクライナ侵攻について、「ロシアが負けることはまず考えられない。そういう事態になればもっと大変なことが起きる」と語りました(1)。
また、翌26日、鈴木宗男参議院議員は、森氏の発言を前提に、ブログで、「私も国力から見てロシアが負けることはないと考える」書いています(2)。
森氏や鈴木氏の発言に対して、否定的な意見が、多数表明されました。

世間一般の主張は、
第一、ロシアはウクライナを侵略した。
第二、従って、ロシアは悪であり、ウクライナは善である。
第三、だから、ロシアに勝たせてはならない=ウクライナに勝たせなければならない。
でしょう。

これまで何度も書きましたが、古来戦争は正しい側、善の側が勝ったわけではありません。強い側が勝ちました。
ロシアに勝って欲しくない、ウクライナに勝って欲しいと願ったからといって、ロシアは負け、ウクライナは勝ち、となる訳ではありません。とにかく、世の中には、勝って欲しい側=勝つ側、ではないことを理解できない(したくない)人が多い。

しかし、ゼレンスキー大統領の現状認識も、森氏や鈴木氏に近いのではないでしょうか。
今のままでは、私も国力から見てロシアが負けることはないと考える」

だから、西側に対して、今回は戦車を、次は戦闘機を、供与して欲しいと訴えているのでしょう。ウクライナがロシアにすんなり勝てるのなら、ゼレンスキー大統領だって、そのような要求はしないでしょう。

森氏や鈴木氏の発言に反発する人たちは、これまでのようなToo littleな支援で、本当にウクライナが目的(ドネツクを含めた四州とクリミアの奪回)を達成できると考えているのでしょうか。もしそうなら、自分は西側の政府やメディアに騙されているのではないかと、一度疑ってみた方が良いと思います。

ウクライナは、西側の支援なしでは勝利できません。同国の勝敗は、今後の西側による軍事支援の質と量次第でしょう。だから、西側がどこまで支援するのか(できるのか)が不明な内は、「ロシアが負けることはまず考えられない」も、「ウクライナが負けることはまず考えられない」も、絶対に間違っているとは言えないでしょう。
森氏や鈴木氏の発言に激高する人たちは、自らの希望的観測と、将来の現実との区別ができないのだと思います。

もしウクライナを勝利させたいのなら、西側は同国の要求をすべて聞き入れるか(それでも勝利できるとは限らないでしょうが)、直接参戦するかしかないのではないでしょうか。プーチン失脚を望む人は多いですが、それは不確定要素ですし、その後、彼よりもハト派な指導者が誕生するとの保証はありません。
主戦論者(正義派)は、上記の二つの内、どちらかを訴えるべきでしょう。

もっとも、その訴えが功を奏した場合、どうなるでしょうか。
森氏が言うように、「そういう事態になればもっと大変なことが起きる」。
賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶという言葉がありますが、経験からしか学べそうにない主戦論者は、「大変な事態が起き」た時に、ようやく和平論者が言っていることの意味が理解できるのかもしれません。

ウクライナとロシアの勝ち負けは、その定義によりますが(「ウクライナ侵攻における勝ちと負け」)、何れにしろ、ロシアが負けることは考えられなくはありませんが、勝利のハードルを自ら引き上げたので、ウクライナが勝つことは、まず考えられないと思います。

(1)https://www.jiji.com/jc/article?k=2023012501020&g=pol
(2)https://ameblo.jp/muneo-suzuki/entry-12786193556.html