国際政治におけるバイデン米大統領の「功績」

《一昨年から昨年にかけて、アメリカのバイデン政権は、国際政治において、大きな「功績」を挙げました》

それについて、以下、述べます。
第一。余程のことがない限り(たとえば、プーチン氏の死亡なり、同政権の転覆なり)、ウクライナの勝利(ルハンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソン州とクリミアの奪還)の見込みが殆んどないにも拘らず、また、勝てるような質・量の軍事支援を行っていないのに、戦争を継続させて、ウクライナやロシアの多くの兵士を、また、ウクライナの市民を死傷させ続けています。さらに、戦争のエスカレーションを止めようとせずに、第三次世界大戦の危険性を増大させています。

第二。対露経済制裁と対宇軍事支援を継続することによって、ロシア、中共、北朝鮮、イランの、いわゆる悪の枢軸の連携を強化させています。
因みに、北朝鮮によるミサイル発射は、ロシアに対する援護射撃の意味もあり、「防衛省の発表では、2022年の北朝鮮によるミサイル発射は(12月)31日朝の3発で巡航ミサイルなどを含め37回、少なくとも73発となり、いずれも過去最多」(1)。

第三。一昨年12月、バイデン氏は、ロシアが侵攻した場合、米軍をウクライナに派遣しないと表明しました。それは結果的に、ロシアの侵攻を、消極的に容認することになりました。そして、実際に侵攻は行われました。

その反省もあって、台湾では同じ轍を踏むまいと、昨年の春、長年掲げていた「台湾の独立は支持しない」との原則を取り下げ、8月2日ペロシ下院議長を訪台させました(2)。

「ペロシ米下院議長は(8月)3日、台湾の蔡英文総統と会談し、自身の訪台は米国が台湾を見捨てないことを明確に示すものだと伝えた」(3)

台湾問題を核心的利益と見做す中共は、当然のことながら、ペロシ訪台に反発しました。
その後、「台湾国防部(国防省)は(12月)26日、無人機(ドローン)を含む中国の空軍機71機が過去24時間に台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入したと発表した。台湾の中央通信社によると、中国軍機の侵入としては過去最多。(中略)このうち43機は台湾海峡の中間線を越えた」(5)り、また12月21日に、南シナ海上空で、米空軍のRC-135偵察機に対して、中共海軍の戦闘機が6メートル以内に急接近する危険な飛行を行う(6)、といったような事件が発生しています。
後者の事件について、中共の国防省は、「『米側が意図的に大きな危機を作り出し、中国の主権と領土の一体性を著しく損なった』と反論し」ました(6)。

ペロシ訪台によって、アメリカは中共を、無暗に挑発しました。
私は、中共派ではなく、台湾派なので、米国政治家の(勿論、日本の政治家もですが)台湾訪問には、基本的には賛成なのですが、ペロシ氏の訪台は、バイデン政権の、ウクライナでの失敗の、促成挽回策であるのが明白なので、また、それは米台日の事前の準備や連携もなく、衝動的かつ突発的なので、評価できません。

バイデン政権は、「そこにない危機」を(勿論、潜在的には危機はありましたが)、「そこにある危機」に変えてしまいました。
そして結局、対支露の二側面作戦(直接的戦争ではないので「側面」)をたたかうことになりました。

(1)https://mainichi.jp/articles/20221231/k00/00m/010/038000c
(2)ペロシ氏の訪台について、バイデン氏は、「『軍関係者がいまはその時期ではないと考えている』と述べ」(4)たそうですが、バイデン氏と意見が違うのなら、ペロシ氏が、「自身の訪台は米国が台湾を見捨てないことを明確に示すものだ」という訳がありません(太字 いけまこ)。これに関する、参考記事です。
ペロシ米下院議長、米紙に寄稿 『米国は台湾と共にある』
(3)https://jp.reuters.com/article/pelosi-taiwanvisit-idJPKBN2P907X
(5)https://jp.reuters.com/article/taiwan-china-drills-idJPKBN2TA01Z
(6)https://news.yahoo.co.jp/articles/0ad8bfbc8b754261a01c76a8ad77c013689c1e99

【追記】
産経新聞政治部編集委員兼論説委員の阿比留瑠比氏は、雑誌『正論』2023年3月号に書いています。

「安倍(晋三)氏はオバマ政権で二年半にわたり国防長官を務めたゲーツ氏が米国で出版した回顧録について、こう言及することもあった。
『ゲーツも著書で、バイデンの判断したことで一回もいいことはなかったと書いているね』
実際にゲーツ氏は著書で、国際政治の知識と経験は誰にも負けないと主張してきたバイデン氏について、『誠実な男』と評価しつつもこう突き放している。
『バイデン氏は過去四十年間、ほとんどすべての重要な外交施策と安全保障に関する判断で過ちを犯してきた』」(137-138頁)(2023・2・9)