戦争は2月24日よりも前に始まった

ドイツのメルケル前首相は、昨年12月7日ディ・ツァイト紙のインタビューで、発言しました。ネット記事から、引用します。

「メルケル氏は『2014年のミンスク合意は、ウクライナに時間を与えるための試みだった。ウクライナもこの時間を利用して、ご覧のように、強くなった。2014年から2015年のウクライナは、現在のウクライナではない』と述べた。
メルケル氏は、『ミンスク合意』の参加者すべてがウクライナ紛争は一時的に停止しただけであり、問題そのものは解決されていないことを理解していたと指摘した。同氏はまた、ミンスク合意が発効していた間に北大西洋条約機構(NATO)の加盟国が現在と同じようにウクライナを支援していた可能性があるとの見方を示した」https://sputniknews.jp/20221207/14138285.html

メルケル氏のこの発言は、本当のことです。
同氏の発言から、ロシアによるウクライナ侵攻は、昨年2月24日に始まったのではなく、実質的には、それ以前から始まっていたというのが分かります。

【参考記事です】
http://chikyuza.net/archives/124543

なぜ西側諸国以外は冷ややかなのか

1.西側は世界から孤立している?

昨年2月24日、ロシアはウクライナに侵攻しました。ロシアの行動は国際法違反だとして、アメリカを含めたNATO諸国、その他豪新日韓台など西側諸国は、ロシアに対しては経済制裁、ウクライナに対しては(軍事)支援を行っています。
しかし、アジア、アフリカ諸国などは、西側諸国の制裁や支援の呼びかけに応じない国が多い。

昨年3月2日、ロシアを非難し、ウクライナからの即時撤退を求める国連決議が採択されましたが、193の加盟国の内、141か国が賛成、5か国が反対、35か国が棄権でした。
ところが、4月7日の、国連人権理事会における、ロシアの理事国資格を停止させる決議では、賛成93か国、反対が24か国、棄権が58か国で、3月の決議よりも反対と棄権が増えました。
さらに、11月14日の、軍事侵攻による損害の賠償をロシアに求める決議案の採択が行われ、賛成は94か国、反対は14か国、73か国が棄権しました。

アジア・太平洋地域の国で、対露制裁を行っているのは、日韓台シンガポール、それと豪新くらいらしい。

イタリアのベルルスコーニ元首相は、テレビで発言したそうです。
「たしかにロシアは西側から孤立したが、西側も残りの世界から孤立した」

実際に、孤立しているかどうかはともかく、世界には西側に同調しない国が少なくありません。それは、どうしてなのでしょうか。

2.西側のダブル・スタンダード

知的な不正直あるいは不誠実は、言行のダブル・スタンダードとなって表れることが多い。
ウクライナ侵攻に関して、国際法(国連憲章4条2項)違反だと非難されていますが、では国連憲章が発効された1945年10月24日以来、それに違反したのは、このたびのロシアだけでしょうか。そんなことはないでしょう。ロシア以外の国も違反したことがあるでしょう。それなら、これまでそのような国に対して、国連あるいは西側諸国は、経済制裁を、一方、そのような国から侵略された国に対して、軍事支援を行ってきたでしょうか?

勿論、否でしょう。とすれば、なぜ今回だけ対露制裁、対宇支援を行う(行うべきな)のでしょうか。過去に国際法に違反した国と、ロシアに対する態度は、明らかに別の基準が適用されています。

昨年4月にインドネシアで、主要20か国・地域(G20)が開催されましたが、それに関する、次のような記事があります。

「東南アジア情勢に詳しい外交筋は、現場の世論をこう説明する。

『インドネシアの国民は必ずしも親露ではないが、欧米のこれまでのアフガニスタンやイラク、パレスチナ問題への対応はダブルスタンダードで到底納得できない、という感情がある。その裏返しとしてロシアにくみする傾向がある』

主要なSNS(ネット交流サービス)ではロシアへの支持が7~9割に上っており、インドネシア政府は世論を無視できない。こうした事情を考慮せずにG20からのロシア排除を要求する欧米の姿勢について、G20の成功を期するインドネシアは『いじめだ』と不快感を示すこともあるという」(1)

昨年12月に、朝日新聞は、パレスチナ自治政府のアッバス議長にインタビューをしました。そこで氏は、

「ロシアのウクライナ侵攻に伴う占領や併合が批判され、ウクライナには多くの欧米諸国から大規模な支援が集まっているのに対し、イスラエルによるパレスチナの占領は長年放置されているとして、『国際社会にダブルスタンダード(二重基準)がある』と批判」しました(2)。

3.西側のもう一つのダブル・スタンダード

昨年の国連決議の反対や棄権を見ると、ウクライナ侵攻で、ロシアを非難する西側に対して、西側以外の諸国は、冷ややかに見ているというのが分かります。
その理由として、前節で述べたように、アフガニスタン、イラク、パレスチナ問題に関しての、西側諸国のダブル・スタンダードがあります。が、更にそれとは別に、西側以外の諸国は、かつて西側(その中心は欧米)諸国に侵略され、植民地にされたという気持ちもあるでしょう。

ウクライナ侵攻において、侵略した側=ロシア=悪、侵略された側=ウクライナ=善であるなら、かつて非欧米の諸国は、欧米諸国に侵略されたわけですから、欧米諸国=悪、非欧米諸国=善、のはずです。
では、当時、欧米諸国で、その侵略のゆえに、同じ欧米の国に対して経済制裁を、欧米諸国から侵略された国に対して、軍事支援を行った国があったでしょうか?

非欧米の諸国を、かつては侵略し、植民地にして平然としていたくせに、今手の平を返したように、ウクライナを侵略したからと言って、ロシアを非難し、袋叩きにしている。しかも、欧米諸国の中には、かつて自分たちが侵略したアフリカ諸国に対して、対露非難を呼びかける厚顔無恥な国もあります(3)。

ダブル・スタンダードにもほどがある、馬鹿も休み休み言え!
そのような気持ちがあるから、西側以外の諸国は、西側に同調しないのだと思います。

(1) https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20220510/pol/00m/010/025000c
(2) https://www.asahi.com/articles/ASQDS0455QDMUHBI04W.html
(3) https://www.msn.com/ja-jp/news/world/%E3%82%A2%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%81%AF%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%81%AE%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A%E4%BE%B5%E6%94%BB%E9%9D%9E%E9%9B%A3%E3%82%92-%E4%BB%8F%E7%8B%AC/ar-AA16kM7n

【追記】
ただ私は、百年二百年三百年前の先進国による、後進国に対する侵略や前者における奴隷制などを、現在の私たちが批判するのは、無意味だと考えます。それが当時の常識だったからです(「道徳の不遡及の原則のすすめ」)。

国際政治におけるバイデン米大統領の「功績」

《一昨年から昨年にかけて、アメリカのバイデン政権は、国際政治において、大きな「功績」を挙げました》

それについて、以下、述べます。
第一。余程のことがない限り(たとえば、プーチン氏の死亡なり、同政権の転覆なり)、ウクライナの勝利(ルハンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソン州とクリミアの奪還)の見込みが殆んどないにも拘らず、また、勝てるような質・量の軍事支援を行っていないのに、戦争を継続させて、ウクライナやロシアの多くの兵士を、また、ウクライナの市民を死傷させ続けています。さらに、戦争のエスカレーションを止めようとせずに、第三次世界大戦の危険性を増大させています。

第二。対露経済制裁と対宇軍事支援を継続することによって、ロシア、中共、北朝鮮、イランの、いわゆる悪の枢軸の連携を強化させています。
因みに、北朝鮮によるミサイル発射は、ロシアに対する援護射撃の意味もあり、「防衛省の発表では、2022年の北朝鮮によるミサイル発射は(12月)31日朝の3発で巡航ミサイルなどを含め37回、少なくとも73発となり、いずれも過去最多」(1)。

第三。一昨年12月、バイデン氏は、ロシアが侵攻した場合、米軍をウクライナに派遣しないと表明しました。それは結果的に、ロシアの侵攻を、消極的に容認することになりました。そして、実際に侵攻は行われました。

その反省もあって、台湾では同じ轍を踏むまいと、昨年の春、長年掲げていた「台湾の独立は支持しない」との原則を取り下げ、8月2日ペロシ下院議長を訪台させました(2)。

「ペロシ米下院議長は(8月)3日、台湾の蔡英文総統と会談し、自身の訪台は米国が台湾を見捨てないことを明確に示すものだと伝えた」(3)

台湾問題を核心的利益と見做す中共は、当然のことながら、ペロシ訪台に反発しました。
その後、「台湾国防部(国防省)は(12月)26日、無人機(ドローン)を含む中国の空軍機71機が過去24時間に台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入したと発表した。台湾の中央通信社によると、中国軍機の侵入としては過去最多。(中略)このうち43機は台湾海峡の中間線を越えた」(5)り、また12月21日に、南シナ海上空で、米空軍のRC-135偵察機に対して、中共海軍の戦闘機が6メートル以内に急接近する危険な飛行を行う(6)、といったような事件が発生しています。
後者の事件について、中共の国防省は、「『米側が意図的に大きな危機を作り出し、中国の主権と領土の一体性を著しく損なった』と反論し」ました(6)。

ペロシ訪台によって、アメリカは中共を、無暗に挑発しました。
私は、中共派ではなく、台湾派なので、米国政治家の(勿論、日本の政治家もですが)台湾訪問には、基本的には賛成なのですが、ペロシ氏の訪台は、バイデン政権の、ウクライナでの失敗の、促成挽回策であるのが明白なので、また、それは米台日の事前の準備や連携もなく、衝動的かつ突発的なので、評価できません。

バイデン政権は、「そこにない危機」を(勿論、潜在的には危機はありましたが)、「そこにある危機」に変えてしまいました。
そして結局、対支露の二側面作戦(直接的戦争ではないので「側面」)をたたかうことになりました。

(1)https://mainichi.jp/articles/20221231/k00/00m/010/038000c
(2)ペロシ氏の訪台について、バイデン氏は、「『軍関係者がいまはその時期ではないと考えている』と述べ」(4)たそうですが、バイデン氏と意見が違うのなら、ペロシ氏が、「自身の訪台は米国が台湾を見捨てないことを明確に示すものだ」という訳がありません(太字 いけまこ)。これに関する、参考記事です。
ペロシ米下院議長、米紙に寄稿 『米国は台湾と共にある』
(3)https://jp.reuters.com/article/pelosi-taiwanvisit-idJPKBN2P907X
(5)https://jp.reuters.com/article/taiwan-china-drills-idJPKBN2TA01Z
(6)https://news.yahoo.co.jp/articles/0ad8bfbc8b754261a01c76a8ad77c013689c1e99

【追記】
産経新聞政治部編集委員兼論説委員の阿比留瑠比氏は、雑誌『正論』2023年3月号に書いています。

「安倍(晋三)氏はオバマ政権で二年半にわたり国防長官を務めたゲーツ氏が米国で出版した回顧録について、こう言及することもあった。
『ゲーツも著書で、バイデンの判断したことで一回もいいことはなかったと書いているね』
実際にゲーツ氏は著書で、国際政治の知識と経験は誰にも負けないと主張してきたバイデン氏について、『誠実な男』と評価しつつもこう突き放している。
『バイデン氏は過去四十年間、ほとんどすべての重要な外交施策と安全保障に関する判断で過ちを犯してきた』」(137-138頁)(2023・2・9)

双方の力が均衡しているほど長期戦になる

《戦争当事国・諸国相互の戦力の差が大きければ短期戦になり、小さければ長期戦になる。勢力均衡という考え方があるけれども、対峙する勢力の力が均衡している方が、戦争になりにくいけれども、一旦戦争になったら、長期戦になる》

1.大国と小国

おおよそ次のように言えるのではないでしょうか。
大国と小国が戦争をするよりも、大国同士、小国同士が戦争をする方が、戦争は長期化するだろうということです。
大国と小国の戦争の場合、前者が後者の力を圧倒しているので、大国の勝利、小国の敗北で戦争は終わります。ところが、大国同士、小国同士の場合は、双方の力の差が小さいために、どちらの大国が、どちらの小国が勝利するのか、明白ではありません。

すなわち、双方の力が不均衡の方が、短期戦になり、双方の力が均衡しているほど、長期戦になります。A国とB国、C同盟とD同盟が戦争になった場合、各々前者と後者の力が不均衡な方が短期戦で終わり、両者のそれが均衡しているほど、長期戦になると考えられます。

2.勢力均衡

コトバンクの中の、ブリタニカ国際百科事典の解説が、一番分かりやすいので、そこから引用します。
勢力均衡(balance of power)とは、「国際社会において、ある国家または国家群が強大になりすぎないように力の均衡をはかり、国際社会の平和を維持しようという原理または政策」のことです。第一次世界大戦以前の近代ヨーロッパにおいて、平和維持の方策として、それは、認められていました。

但し、「勢力均衡は、ある程度平和を維持するのに効果はあるが、その平和はきわめて不安定なものである。国家の力は量的に測定しうるという前提のうえに立っているが、いわゆる国力には国民性、国民の士気、愛国心、指導者の政治力などの質的な要素が含まれているので、自国あるいは他国の国力の厳密な計算は不可能である」と。
そのように、「自国あるいは他国の国力の厳密な計算は不可能である」から、危うい、あるいは無謀な戦争に突入する国が現れるのだ、とも言えそうです。

第一次世界大戦の前までは、この原理は認められていましたし、戦争当事者の協商国(連合国)と同盟国はそのような政策を実行していました。が、結局、戦争は止められませんでした。
ただ、今日でも、勢力均衡の考え方が、捨てられた訳ではありません。

「第1次世界大戦後、新しい安全保障の方策として集団安全保障が登場したが、その後も勢力均衡に基づく政策をとろうとする傾向は依然として強い。第2次大戦後、各国間で締結された相互援助条約は、いずれも本質においては、勢力均衡の考え方によるものである」

次のように言えそうです。
対峙する両国または両諸国相互の、力が均衡している状態は戦争になりにくいけれども、逆に、一旦戦争になった場合は、双方の力の差が少ないために、かえって長期戦になるだろうと。

3.力が不均衡な場合

戦争当事国または諸国の、双方の力の差が大きい場合は、戦争は短期戦になるでしょう。

もっとも、前節の引用文にもあるように、「国力の厳密な計算は不可能」です。なので、交戦勢力のメンバーと各々の国の力から、大雑把に、双方の力の差を推量するしかありません。
以下、専らウィキペディアの記事に依り、【交戦勢力】、【交戦勢力の力の差】、【期間】に分けて論じます。

1)湾岸戦争

1990年8月2日、イラクはクウェートに侵攻し、同国を併合しました。それに対して、アメリカを中心とする多国籍軍は、クウェートを解放するため、1991年1月17日イラクへの攻撃を開始しました。

【交戦勢力】
イラク側:イラクのみ
多国籍軍側:クウェート、アメリカ、イギリス、フランス、サウジアラビア、エジプト他計34か国。

【交戦勢力の力の差】
アメリカは言うまでもなく、第二次大戦以後、世界一の軍事大国であり続けています。英仏は核兵器保有国であり、イラクにとって不都合なことに、サウジやエジプト他アラブ諸国も多国籍軍に加わっています。
「国際連合安全保障理事会は、(中略)(1990年)11月29日に武力行使容認決議である決議678を米ソが一致して可決し」とあるように、世界第二位の軍事大国であったソ連も、イラク側ではありませんでした。

なので、双方の力の差は、多国籍軍>イラク (多国籍軍の方がイラクよりも力が強い)なのは、明白です。

結果、多国籍軍が勝利しました。

【期間】
1991年1月17日~同年2月28日(約1か月半)

2)イラク戦争

2001年9月11日、旅客機をハイジャックしたイスラム過激派により、ニューヨークのツイン・タワーやペンタゴン(国防総省)が攻撃されました。テロに、過敏になったアメリカが、大量破壊兵器を所有している(廃棄を証明していない)との理由で、有志連合を募り、イラクへ侵攻しました(イスラム過激派のメンバー同様、イラクがアラブであり、イスラムの国であるので、より疑われたのでしょうか?)。

【交戦勢力】
イラク側:イラクのみ。
有志連合側:アメリカ、イギリス、オーストラリア、ポーランド、ペシュメルガ他多数。

「イラク攻撃にはフランス、ドイツ、ロシア、中国、ベトナムが強硬に反対を表明し、国連の武器査察団による査察を継続すべきとする声が強かったが、それを押し切った形での開戦となった」。
故に、その軍事行動が、国連安保理決議に基づかないため、有志連合です。

【交戦勢力の力の差】
有志連合>イラク。

有志連合が勝利しました。

【期間】
2003年3月20日~同年5月1日(約1か月半)。

正式な戦争の終結は2011年12月15日ですが(オバマ大統領が戦争の終結を宣言)、米軍は2003年4月4日にバグダッドに突入、フセイン政権は倒され、同年5月1日にブッシュ大統領が、「大規模戦闘終結宣言」を出したので、戦闘=戦争と解釈しました。

4.力が均衡している場合

1)第一次世界大戦

【交戦勢力】
協商国側:イギリス、フランス、ロシア、セルビア、ベルギー、イタリア、ルーマニア、アメリカ他。
同盟国側:ドイツ、オーストリア=ハンガリー、トルコ、ブルガリア他。

※ウィキペディアの「第一次世界大戦」の、「損害(戦死者・犠牲者)」では、ロシア軍の戦死者は17万人となっていますが、実際は一桁違っていて、170万人とするのが正しいでしょう。

【交戦勢力の力の差】
経済力や工業生産力=国力なら、協商国>同盟国となりますが、そして、これは、次の第二次大戦も同様ですが、「国力の厳密な計算は不可能」な訳ですから、協商国≒同盟国、でしょうか。

1917年3月に革命が起こったため、ロシアは戦争から離脱、一方、同年4月にアメリカが参戦、以後、交戦国の力の差は、協商国>同盟国になったと思われます。

協商国側が、勝利しました。

【期間】
1914年7月28日~1918年11月11日。(4年3か月以上)。

2)第二次世界大戦

【交戦勢力】
連合国:イギリス、アメリカ、ソ連、中華民国、フランス、ポーランド、ユーゴスラビア他。
枢軸国(同盟国):ドイツ、日本、イタリア他。

【交戦勢力の力の差】
連合国≒枢軸国でしょうか。
ただ、日本とアメリカの単独の戦いだったなら、アメリカ>日本でしょう。

連合国側が、勝ちました。

【期間】
1939年9月1日~1945年8月15日(6年弱)。

但し、日本の参戦(真珠湾攻撃)は、1941年12月8日であり、ドイツの降伏は1945年5月です。

3)朝鮮戦争

第二次世界大戦後、アメリカとソ連により、南北に分割占領された朝鮮半島に、1948年大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国が成立。
そして、南北統一=共産化を目指した北朝鮮が、韓国へ侵攻しました。

【交戦勢力】
北朝鮮側:北朝鮮、中共、ソ連。
韓国側:韓国、国連軍、アメリカ、イギリス他。

ウィキペディアでは、北朝鮮側の交戦勢力は、北朝鮮と中共だけになっています。しかし、本文には以下のような記述があるので、ソ連を含めました。
「ソ連空軍の本格参戦は長い間極秘事項となっていたが、グラスノスチによって詳細が明らかとなっており、ソ連空軍は朝鮮戦争に延べ12個航空師団72,000人、最大時で約25,000人の兵士を投入し、合計63,000回の出撃を行っている[156]

【交戦勢力の力の差】
北朝鮮側≒韓国側でしょうか。

朝鮮戦争は、決着がつかないまま、休戦になり、38度線で向き合ったまま、現在に至ってます。

【期間】
1950年6月25日~1953年7月27日(3年1か月)。

4)ベトナム戦争

冷戦時代、朝鮮半島同様、ベトナムも南北に分かれていました。北はベトナム民主共和国、南はベトナム共和国でした。
北ベトナムは、ベトナムの統一と共産化を目指しました。彼らは、ベトコンという傀儡組織を使って、南へ侵攻しました。

当時は、体制選択において、自由主義体制よりも社会主義体制の方が優れているとの幻想があり、朝鮮戦争も含めて、そのような幻想が引き起こした戦争でもあるといえるでしょう。

【交戦勢力】
北ベトナム(ベトナム民主共和国)側:北ベトナム、ベトコン、クメール・ルージュ、ソ連、北朝鮮、中共。

南ベトナム(ベトナム共和国)側:南ベトナム、アメリカ。

中共もソ連も北朝鮮も、ベトナムに派兵しています(1)(2)。
軍事小国ベトナムが、軍事大国アメリカに勝ったというのは、迷信でしょう。

※戦争の性格を、ベトナムvs.アメリカだと考えるのは、社会・共産主義者またはそのシンパの戦争観です。保守の論客にこのような戦争観を示す者がありますが、それは彼が冷戦時代には左翼であり、冷戦後右派に転向したというのが分かります。

【交戦勢力の力の差】
上記のメンバーを見るなら、なんとなく、北ベトナム側が強そうな気がしますが、力の計算は、一応不明ということで。
北ベトナム側≒南ベトナム側。

アメリカは、1973年3月に撤退しました。それで、力のバランスが北ベトナム側>南ベトナム側に傾きました。

北ベトナム側が勝利しました。

【期間】
1964年8月2日~1975年4月30日(11年弱)。

5.ウクライナ侵攻の場合

では、ウクライナ侵攻の場合は、どうでしょうか。

【交戦勢力】
ウクライナ側:ウクライナ、(アメリカを中心とするNATO諸国)(間接参戦なので、括弧付きです)。
ロシア側:ロシアのみ。

【交戦勢力の力の差】
ウクライナとロシアが単独であれば、ロシア>ウクライナでしょう。
しかし、NATO諸国他が間接参戦しているために、ウクライナ(+NATO)≒ロシアになっています。
けれども、この先ウクライナは、四州の占領地とクリミアを取り戻す力があるとは思えないので、総体的には、ロシア≧ウクライナ(+NATO)でしょうか。

【期間】
2022年2月24日~?

ウクライナかロシアの何れか一方が、完全勝利で終わる可能性は、殆んど無さそうです。
戦争が膠着状態に陥った時点での勢力範囲で、あるいは、その時点での休戦交渉で決まるであろう範囲で、朝鮮戦争型で終わるのか、それとも、第一次世界大戦で四つの帝国(ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国、ロシア帝国)が崩壊したように、戦争の長期化によって、ウクライナかロシアの政権が崩壊して終わるのでしょうか。

(1)https://www.jstage.jst.go.jp/article/asianstudies/46/3.4/46_111/_pdf/-char/ja
(2)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%9D%E9%AE%AE%E6%B0%91%E4%B8%BB%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E4%BA%BA%E6%B0%91%E5%85%B1%E5%92%8C%E5%9B%BD%E3%81%AE%E3%83%99%E3%83%88%E3%83%8A%E3%83%A0%E6%88%A6%E4%BA%89%E5%8F%82%E6%88%A6

奪還と逐次支援の二律背反

《ウクライナは自力では達成できない目標を掲げ、アメリカは口では「ウクライナが戦争で勝利できるよう支援する」と言います。しかし、実際は、ウクライナが目的を成就できるほどの軍事支援を、西側は行っていません。なぜでしょうか》

ロシアの侵攻に対する、ウクライナの反攻の目的は、ゼレンスキー大統領も述べているように、ルハンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソン四州の奪われた領域とクリミアを取り戻すことでしょう。

昨年12月21日の、ゼレンスキー宇大統領とバイデン米大統領との会談で、後者は述べました。

「米国は必要な限り、勇敢なウクライナの人々がロシアの侵略から確実に国を守れるよう尽力する」(1)

「確実に国を守れるよう」と言っていますが、「確実に占領地を取り戻せるよう」とは、言っていません。
実際に、ウクライナが目的を達成できるだけの軍事支援を、アメリカ他西側は行っていません。

これまでの紛争の経緯を見ても分かるように、西側がやっているのは、戦力ならぬ支援の逐次投入です。ウクライナがロシアと一進一退を演じる程度の軍事支援しかしていなくて、とてもウクライナが占領地を奪還できるだけの質と量ではありません。

アメリカは、本気でウクライナが占領地を取り返すまで支援を続けるつもりなのでしょうか。ゼレンスキー大統領は本当に、そのすべてを取り返すことができると信じているのでしょうか。

ウクライナにとって、アメリカは命綱ですから、はっきり言いませんが、心の中では、米国を含めて西側は、口先ばかりだと思っているのではないでしょうか(2)。

先の会談で、「ゼレンスキー大統領と私は(ウクライナの平和について)同じビジョンを持っている」とバイデン大統領は述べましたが(3)、ウクライナが目的を成就することができるほどの支援を、アメリカが行っていないところから判断すると、米国の真の目的は別にあって、ウクライナとは別のビジョンを持っているのではないかと疑っても、不思議ではないでしょう。

たとえば、アメリカの目的は、ウクライナに勝たせること、にあるのではなく、ロシアに勝たせない、ことにある? ロシアからすれば、自国を潰すために、西側はわざと戦争を長引かせているように見えるでしょう。
では、アメリカの目的は、ロシアを破壊することなのでしょうか。

それも違うと思います。アメリカはそんな壮大な事業を、長期的に継続して行える国ではありません。国民の意識で、直ぐに政策がひっくり返る。
米国がウクライナへ逐次支援しか行っていない理由は、勿論第一は、ロシアとの戦争に発展させないためでしょう。しかし、第二は、明確な出口戦略を持っていないからではないでしょうか。その発言とは裏腹に、バイデン政権は、戦争なり、自国の支援なりを、どのようにして幕引きすべきなのか、分からない状態に陥っているのではないでしょうか。だから、対症療法的な、小出しの支援となっているのだと思います。

(1)朝日新聞、2022年12月23日付
(2)わが国では、政治家からヤフコメ民まで、口ではロシアを非難しながら、対ウクライナ支援を拡大させるような、立法措置を講ずるための活動は殆んど行っていません。
(3)https://www.donga.com/jp/article/all/20221223/3844843/1

なぜ停戦交渉は進まないのか ウクライナ侵攻

《双方が勝てると信じている間は、停戦交渉は始まらない》

原理

1.戦争は強い側が勝ち、弱い側が負ける。

2.戦争は善の側が勝ち、悪の側が負ける、訳ではない。

3.強い側がより多くを獲得し、弱い側がより多くを失う。

4.双方が勝てると信じている間は、停戦交渉は始まらない。

5.おおよそ勝敗が決まり、敗者がそれを自認した場合に、または、双方とも勝利の目途が立たない場合(朝鮮戦争)に、停戦交渉は始まる。

6.停戦交渉では、敗者が、より多く譲歩しなければならない。

応用 ウクライナ侵攻

今のところ、ウクライナもロシアも、自らの側が勝てると信じているため、停戦交渉は進んでいません。

ロシア側の論理?
単独なら、ロシアはウクライナに負けるはずがないし、NATOが直接参戦しないなら、ロシアは勝てる。
ロシア>ウクライナ(+NATO) (ロシアの力は、ウクライナと間接参戦のNATOの力を足したよりも強い)。

ウクライナ側の論理?
NATO、とりわけアメリカがウクライナの味方だから、たとえ西側が間接参戦でもウクライナは勝てる。
ウクライナ(+NATO)>ロシア。

双方が勝てると信じているのは、(+NATO)が変数で、その力が計測しがたいからでしょう。だから、停戦交渉は始まらないし、戦争は長期にわたりそうです。

この先も戦いが続いて、その結果、戦争の決着が付き、勝者、敗者が決まるか、あるいは、双方の膠着状態が続き、勝敗が決まらず、その時点で(の勢力範囲で)、停戦交渉になるか、の何れかになると予想されます。