ウクライナの勝算

1.大東亜戦争の勝算

大東亜戦争当時、わが国民は鬼畜米英に勝たなければならないと信じていました。そして、必勝の信念があれば、勝てるはずでした。戦争に負けると言う者は、非国民でした。
勝たねばならないと叫ばれましたが、勝算もしくは勝ち目が冷静に論じられた訳ではありません。

この度のロシアによるウクライナ侵攻において、わが国では、上は政治家や言論人や学者から、下?はヤフコメ民まで、ウクライナはロシアに勝たなければならないと言い張ります。ウクライナはロシアに勝てないだろうと言う者は、親露派だとして非難されます。
しかし、ウクライナに勝ち目はあるのでしょうか。それについて、沈着に論じた文章を読んだ記憶がありません。

<勝たなければならない>は、<勝つだろう>や、ましてや<勝つのは必至もしくは確実>とは違います。
ウクライナが勝つにはどのくらいの軍事支援が必要で、そのような支援を今後NATO諸国は行いうるのか、というような議論はありません。とにかく、西側は支援すべきの一点張りです。

ロシアに勝たせてはならないと言いながら、日本では、ウクライナへの更なる軍事支援を可能にするような立法化を行おうとの主張は全く見られません。不思議です。

先史時代から戦争はいつも強い側が勝ってきました。そして、少なからぬ人たちが誤解しているのとは違って、二十世紀も二十一世紀もそのような時代でした。それなのに、どうして今回だけは正しい側が勝たなければならないのでしょうか。
エマニュエル・トッド氏は言っています。

「皮肉な言い方をすれば、今回生じた『最大のスキャンダル』とは、これまで『アメリカの専売特許』だった他国への侵攻をロシアが行ったことでしょう」(1)

その通りでしょう(笑)。それなのに、どうしてこの度のロシアによる侵攻だけが非難されるのでしょうか。

2.攻撃三倍の法則

ロシアにその大きな部分を、一時占領されていたハルキウ州を、5月にウクライナは取り戻しましたが、それは元々侵攻に参加したロシア将兵の数が少なかったのと、ウクライナ軍が南部へ攻勢をかけると見せかけて、それに対処しようとして南部へ移動したロシア軍の隙を突いたから成ったことですし、ヘルソン州のドニプロ川西岸からのロシア軍が撤退したのは、州都ヘルソン市を掌握するのは政治的かつ象徴的な意味しかなく、軍事的合理性に基づくなら、東岸に撤収し、そこで防御を固め方が賢明だからでしょう。

この度の紛争が始まってから知ったことですが、攻撃三倍の法則というのがあって、攻者は防者の三倍の兵力を要するという。
奪われた四州とクリミアを奪還するための作戦では、ウクライナ側=攻者、ロシア側=防者になります。そして、ロシアは部分動員令を発し、今後は兵力が増大するでしょう。もしその法則が正しいのなら、ウクライナ側はその作戦で、三倍の対露兵力が必要になるということです。
また、犠牲者についても、占領地を奪還するためには、これまでの三倍くらい出るだろうと予想できます。

3.ウクライナの勝算

ゼレンスキー大統領は5月21日、「ロシア軍を2月24日の侵攻開始前の状態まで撤退させられれば『勝利だ』との認識を示し」ました(2)。
しかし、ミリー米統合参謀本部議長は、11月16日に「ウクライナの軍事的勝利が近く起こる確率は高くない」(3)と述べました。「近く」とは、どのくらいの期間なのかは分かりませんが、それは現時点における、ウクライナの勝ちの見通しをほぼ正確に語った発言だと思われます。

ウクライナの「勝利」は、非常に厳しいと言わざるをえません。

(1)エマニュエル・トッド著、『第三次世界大戦はもう始まっている』、文春新書、36頁
(2)https://www.yomiuri.co.jp/world/20220521-OYT1T50237/
(3)https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-usa-pentagon-assessment-idJPKBN2S624Y