ウクライナは人間を、ロシアは原発を盾にする

今年の3月4日、ロシア軍がウクライナのザポリージャ原発を占拠して以来、同原発が攻撃されたという報道が、何度もありました。
ウクライナとロシアの双方が、相手側が原発を攻撃していると非難しました。
どちらの言い分が正しいのでしょうか。
しかし、それについて、詳らかにする報道はありませんでした。

なので、二つの記事(「誰が原発を攻撃したか ウクライナ侵攻」、「検証記事不在の不可解 ウクライナ侵攻」)で、原発攻撃の実態が分からないこと、また、それについての自分の予想を述べました。

ところが、12月9日、「ザポロージャ原発にロシア軍が多連装砲配備か 先月には撤退情報も」という朝日新聞DIGITALの記事が配信されました。その記事によれば、

「ロシア軍が占拠を続けるウクライナ中南部ザポリージャ原発をめぐり、ウクライナの国営原子力企業エネルゴアトムは8日、ロシア軍が新たに数台の多連装ロケット砲を持ち込んだとSNSに投稿した。同原発から、ドニプロ川を挟んで向かい合う対岸のドニプロペトロウスク州ニコポリなどウクライナ支配下の都市を砲撃する狙いとみられるとしている」

どうやら、「誰が原発を攻撃したか ウクライナ侵攻」で指摘した予想が正しかったようです。
この記事から、おおよそ分かるのは、
1.ロシアはザポリージャ原発を攻撃していない。同国は9月30日にザポロージャ州を含めた四州の併合を宣言し、同原発は既にロシアの施設なので、自国の原発を攻撃する理由がない。
2.原子炉に砲弾が命中したら大変なことになるので、ウクライナ軍はザ原発を安易に攻撃できない。それを良いことに、ロシアは原発を盾に、ドニプロ川対岸ののウクライナ側を攻撃している。
3.それに対して、ウクライナ側は、にも拘らず、同原発内の、ロシア軍の陣地を攻撃しようとしている、
ということです。
とするなら、ロシア軍の砲弾よりも、ウクライナ軍のそれの方が、原子炉に命中する確率は高いでしょう。

ウクライナは、アゾフスタリ製鉄所の「籠城」戦の時に、ロシア軍が攻撃しにくいように市民を盾にしましたし、アムネスティ・インターナショナルは8月、「ウクライナ軍が、国際法に違反する形で学校や病院を含む民間人居住地域に軍事拠点を構築して市民の命を危険にさらしていると批判」、「アムネスティの調査員は、ウクライナ軍が病院5か所、学校22か所を『事実上の軍事基地』に転用していたことを確認」(1)したそうです。
もっとも、その後、「ロシアからの侵攻を受けている事情をくんでいない」と批判されたため、同団体は「ウクライナに『深い遺憾の意』を表明」(2)したそうですが。

ウクライナは人間を、ロシアは原発を盾にして、一生懸命に戦っています。

(1)https://www.afpbb.com/articles/-/3417898
(2)https://www.asahi.com/articles/ASQ880PSXQ87UHBI023.html#:~:text=%E7%89%B9%E9%9B%86%EF%BC%9A%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A%E6%83%85%E5%8B%A2-,%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A%E8%BB%8D%E6%89%B9%E5%88%A4%E3%81%AE%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E4%BA%BA%E6%A8%A9%E5%9B%A3%E4%BD%93%E3%81%8C%E9%87%88%E6%98%8E,%E3%81%A6%E3%80%8C%E6%B7%B1%E3%81%84%E9%81%BA%E6%86%BE%E3%81%AE%E6%84%8F%E3%80%8D&text=%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A%E8%BB%8D%E3%81%AE%E6%88%A6%E3%81%84%E6%96%B9,%E7%8C%9B%E5%8F%8D%E7%99%BA%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%9F%E3%80%82 (この記事のURLは、どうしてこんなに長いのでしょうか?)

【追記】
「アメリカは、武器だけ提供し、ウクライナ人を“人間の盾”にしてロシアと戦っているわけです」(エマニュエル・トッド著、『第三次世界大戦はもう始まっている』、文春新書、204頁)