大統領発言と現実の乖離 ウクライナ侵攻

1.大統領発言と実際の戦況の乖離

ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍が完全撤退しない限り、停戦交渉には応じないと言っていますし、また、クリミアを取り戻すとも言っています(注)。

けれども、実際の戦況は、そのような威勢の良い発言とは裏腹に、ロシアの方が優勢で、ジリジリと同国の占領地が拡大しています。

現行のロシア≧ウクライナ(+NATO)・(ロシアはウクライナとそれを支援するNATOよりも強い、もしくは同等である)という状態が続く限り、同大統領の主張は、実現不可能でしょう。

では、今後、ゼレンスキー大統領の発言を可能にするような状況、つまり、この先アメリカの参戦なり、NATO諸国による、今以上の軍事支援なりで、ウクライナ+アメリカ(米国の参戦)またはウクライナ(+NATO)>ロシアという状況が生まれる見込みはあるのでしょうか。
これまでのアメリカやNATO諸国の発言や姿勢を見ても、あるとは思えません。

2.なぜ実現不可能なことを言うのか

クリミアのセバストポリには、ロシアの黒海艦隊の基地があり、そこをロシアが手放すとは思えません。そのような要衝を奪還しようとするなら、攻撃側はロシアによる核兵器使用を覚悟しなければならないでしょう。
もしウクライナがずっとロシアとともに歩むのであれば、後者は、クリミア併合は行わなかったでしょう。しかし、ウクライナが「反ロシア」の側に走りそうだから、安全保障上及び地政学上重要な、ロシアにとっても、ウクライナにとっても、黒海への出口の要である、その地を2014年真っ先に押さえたのだと思います。

ロシアが完全撤退しない限り、停戦には応じないとか、クリミアを取り戻すとか、現在のウクライナ(+NATO)の力では達成不可能なことを、なぜゼレンスキー大統領は公言するのでしょうか。あるいは、そのような不可能なことを公言しなければならない何らかの理由でもあるのでしょうか。

第一、NATO諸国は戦う意思のない側に、軍事支援は行わないはずです。故に、軍事支援をして貰うために、ウクライナは「やる気」を示さなければならない。
第二、国民及び自国軍を鼓舞するために、威勢の良いことを言わなければならない。

ウクライナの実際の実力は、ロシア≧ウクライナ(+NATO)のままなので、いくつかの集落とか村を奪還したとの報道はあるものの、ルハンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソン、クリミアの何れか一つの州または地域さえ取り戻すことができません。
一方、国民もNATO諸国も、小さな戦果では満足できません。なので、上記の一つの州を奪還しただけで停戦という訳にはいきません。だから、できないと分かっていても、大きな目標を掲げざるをえないのではないでしょうか。

3.内部から崩壊

少しづつでも、ウクライナ軍が占領地を取り戻せているのなら、国民も軍人も、この先戦い続けることができるでしょう。
しかし、いつまで経っても、実質が伴わない、指導者の景気の良い発言と、ウクライナ軍優勢の過大な報道だけだとしたら?

ウクライナ国民と同国の軍人は、そのような、ろくに戦果のない状態にいつまで、あるいは、どのくらいの期間耐えうるでしょうか。我慢が限度に達した後、ある時一気に戦意が失われる=総崩れになるかもしれません。場合によっては、敵意がロシアから、自国政府に向かうかもしれません。
ロシアには制裁、ウクライナには支援、を行う諸国民も、ウクライナ軍優勢説をいつまで信じていられるでしょうか。

ゼレンスキー大統領の発言と現実との乖離は、ウクライナ側の戦況の不利と焦りを示していると思います。そして、ウクライナ政府が、国民と支援諸国の期待に応えようと、勇ましい発言をするばするほど、それと現実との間に齟齬が生じて、何れ彼らの失望を招くことになるのではないでしょうか。

2月24日の開戦以来、ロシアではクー・デターなり、国民による反乱なりが起こって、プーチン政権は倒れるのではないかという希望的観測に基づく報道がなされました。
しかし、上記の理由から、内部から崩壊するのは、ロシアではなく、ウクライナの側ではないか、あるいは、最近は戦争の長期化の予想が主流になりつつありますが、ウクライナは長期の戦いに耐ええないのではないかと思えてなりません。

(注)
ウクライナは継戦すべきか停戦すべきか

【追記】
要衝クリミアはウクライナに渡さない、はプーチン氏個人の意思というよりも、ロシア愛国者の大方の総意だと思います。