1.戦争は強い側が勝つ
今回は、「出口戦略と結末 ウクライナ侵攻」という題名にしましたが、戦争の出口戦略を考えるには、戦争当事国双方の力の強弱を無視することはできません。なぜならば、戦争は強い側が勝ち、弱い側が負けますし、その力の差によって、双方がとりうる出口戦略の範囲が決まるからです。
今後、攻撃の限界点を迎え、ウクライナ側が巻き返すかもしれませんが、今のところ戦局は、ロシア≧ウクライナ(ロシアはウクライナよりも優勢もしくは同等である)で推移しています。
2.ロシアの出口戦略
ロシア・ウクライナ戦争は、ロシアが優位な情勢なので、まず、ロシアの出口戦略を考えましょう。
一体、同国の首脳陣は、この戦いの出口について、どう考えているのでしょうか。
元々ロシアの戦争の主目的は、ウクライナのNATOへの加盟の阻止=同国の中立化であり、副目的はドンバス地方の「解放」でした(1)。
ウクライナのNATO加盟は阻止しえましたし、ドンバスの「解放」もおおよそ実現できそうです。さらに、ドンバスからクリミア半島に至る回廊を確保すれば、戦争目的は達成したと言えるでしょう。
私がロシアの指導者なら、それが実現した時点で、一方的に停戦を表明します。
たとえ、その後奪われた土地を奪還しようとして、ウクライナ側が攻撃を仕掛けてきたとしても、防御のための敵基地攻撃はするものの、新たな占領地を増やそうとはしません。むしろ、ウクライナ側の攻撃による被害を、国際的にアピールします。
要するに、ウクライナの東部及び南部の併合を既成事実化します。
ウクライナの東部と南部を併合したことを、国際社会は許さないでしょうか。国際社会は、意外に健忘症です。
ロシアは、エネルギーと食料の輸出大国ですし、特にそれらに依存する諸国は、いつまでも同国の行動にこだわらないでしょう。
また、ウクライナのブチャなどで市民が虐殺された疑いがあるため、4月7日ロシアの国連人権理事会の理事としての資格を停止するよう求める決議案が国連総会に提出されました。採決の結果は、93か国が賛成、反対が24か国、58か国が棄権しました。
西側以外は、国際的に反露で結束している訳でもなさそうです。
日本は戦後、北方領土はロシアに、竹島は韓国に奪われました。もし現在の日本が、それらを軍事的に奪還するとしたら、どうでしょうか。それは、軍事的に可能でしょうか。あるいは、国内外の世論は、それを認めるでしょうか。
認めるわけがありません。
ウクライナの場合も、数年後か数十年後、NATOに加盟し、力を付けた同国が、ロシアに奪われた東部南部を、武力を用いて取り戻そうとした場合、国際社会はそれを認めるでしょうか。認めないでしょう。
たぶん、NATO諸国が真っ先に反対するでしょう。既成事実化は強し、です。
3.アメリカの出口戦略
ロシアの出口戦略の次は、本来ならウクライナのそれを問題にすべきですが、同国は自力でロシアと戦っていません。他者依存で戦争をしています。他国からの支援なくして、戦いを継続できません。なので、独自の出口戦略を描くことはできません。
また、ウクライナ侵攻に対して、ある日突然アメリカが対宇支援から手を引いたとしたなら、どうでしょうか。その他のNATO諸国や日本は、その後、対露経済制裁や対宇軍事支援を行いうるのでしょうか。アメリカが手を引けば、制裁も支援も雲散霧消するでしょう(わが国では、ロシアに対して勇ましいことを言っている人たちが多いですが、そんな主張ができるのは、日本が対米依存しているからだということさえ、彼らは自覚していません)。
欧州や日本のような、アメリカの金魚のフン諸国も出口戦略を描くことはできません。
出口戦略を描きうるのは、アメリカだけです。
問題は、当のアメリカです。
アメリカは、何のためにウクライナを支援しているのでしょうか。バイデン大統領は、「ウクライナが停戦交渉で有利な立場を確保するまで武器供与などの援助を続けると明言」(2)したそうですし、ゼレンスキー大統領は、「失地回復まで停戦はあり得ないと断言」(2)したそうです。
ですが、そのためには、戦争当事国の力が、ウクライナ(+NATO)>ロシアでなければなりませんし、その上で、ロシア軍を押し返さなければなりません。
それには、それを実現するだけの大量のウクライナ支援か、アメリカが実際に参戦するかが不可欠です。では、アメリカにその意思があるでしょうか。
周知のとおり、バイデン大統領は昨年12月に、米軍をウクライナに派遣することは検討していないと表明していますし、軍事支援の逐次投入をしていて、大量支援の意思もありそうにありません。
ということは、双方の力の差は、どうしてもロシア≧ウクライナ(+NATO)で固定したままになります。なので、現状のままでは、ウクライナによる占領地の奪還は不可能でしょう。
アメリカは、昨年アフガニスタンから撤退しましたが、今年になってたちまち、勝つ意思のない戦争に介入して、新たにウクライナという泥沼に足を踏み入れたのではないでしょうか。
自国軍を投入していない点で、深い泥沼ではありませんが、しかし、長期化は避けられそうにありませんし、浅いにしても泥沼は泥沼です。
4.無益な戦争
歴史的にウクライナはロシアの勢力圏でした。しかし、西側はそこに手を突っこみました。一方、ウクライナもNATO加盟を求めました。
ウクライナはロシアの勢力圏である、少なくとも、ロシアがそう見做しているということを、ウクライナもNATO諸国も見誤ったのだと思います。
共産主義体制が永遠ではなかったのと同様、権威主義体制も永遠ではありえません。プーチン氏だって、不死ではありません。
西側もウクライナも性急さを求めず、いまだ、ウクライナはロシアの勢力圏であることを認めるべきでした。敢えて言いますが、西側はウクライナを「見捨てる」べきでした。そうしていれば、ウクライナは多くの死者も難民も出さず、領土の保全もできていたでしょう。
5.その結末
戦争が始まった2月24日から5か月以上が経過して、現状を予想しえた人は殆んどいないでしょう。まして、この戦争がどのような形で終結するのかは、誰にも分りません。
ただ、おおよそ言えそうなことは、ウクライナ、ロシア、アメリカ他NATOの指導者の誰も予想しなかった結果で、戦争は終わりそうだということ、何れの首脳も楽しくない結果で終わりそうだということです。
(1)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220304/k10013513641000.html
(2)https://news.yahoo.co.jp/articles/b0152ae9213088b9867094d60b9d40613df75d7b?page=1