戦争は強い側が勝つ

1.不思議な主張

たとえば、次のような主張があります。
ロシアによるウクライナ侵攻において、領土の占有が既成事実として認められたなら、同様に振舞う国が現れるだろうから(中共?)、ロシアの侵略は決して許されてはならない、と。
だから、ロシアに対する経済制裁も、ウクライナに対する軍事支援も続けられるべきだと言う。

これは一見正当な主張に見えますが、過去の歴史を眺めれば、むしろ特異な意見だと思えます。

2.古来戦争は

言論人やジャーナリスト(テレビのコメンテーター?)や学者の論争は、その勝敗が明確ではありませんが、スポーツではその勝敗は明確です。そして、戦争もスポーツほどではありませんが、その勝ち負けは明確です。つまり、強い側が勝ちます。

古来様々な国が盛衰を繰り返してきました。
小国aが隣の小国bを侵略し、また、その向こうの小国cを吸収し、a国は大国になりました。大国になったA国は、さらにd、e国を合併しました。
時代を経て、A国では後継者を巡って、子孫が殺し合い、あるいは、臣下が王を暗殺し、内紛が生じて、大国は衰退し、あるいは、滅びました。滅びた後、f国g国h国が誕生しました。そして、f国はg国を侵略し、さらにh国を併合し、F国は大国になり・・・・歴史は繰り返しました。

そのように、古来戦争は強い側が勝ってきました。大国が小国を侵略するのが、常態でした。
現代では、国際世論を味方につけるとか、相手国民の厭戦気分を喚起するとか、非軍事的な力を含めてですが、
<戦争は強い側が勝つ>が、原則でしょう。

3.正義の側が勝つとは限らない

戦争は、強い側が勝ちます。しかし、強い側=正しい側とは限りません。
ということは、戦争では、正しい側が勝つとは限らないということです。正しい側が、負ける場合もあります。

聖地エルサレムを、イスラム教徒から奪還するために、11世紀から13世紀にかけてキリスト教徒は十字軍を派遣しました。
キリスト教とイスラム教のどちらが正しいとは言えませんが、もしどちらか一方が正しくて、しかも、正しい側が勝つはずなら、どちらか一方がずっと勝利しているでしょう。しかし、十字軍の歴史を見るなら、キリスト教徒側が勝つ場合もあれば、イスラム教徒側が勝つ場合もありました。前者が聖地を取り戻した場合もあれば、奪われた場合もありました。
相手より強かった時には勝ち、弱かった時には負けました。

第二次世界大戦は、旧連合国の国民も、旧同盟国の多くの人たちも、連合国側=善、同盟国側=悪だと信じています。が、前者が正しかったから勝ったわけではありません。強かったから勝っただけです。
歴史は勝者によって書かれますが、勝った側が自分たちの陣営が正しかったのだと歴史を記述するから、後世では多分に、勝者=正義の側ということになっています。本来なら、このことこそが、歴史修正主義だと呼ばれるべきでしょう。

それはともかく、戦争の勝敗と善悪は無関係です。善い側が勝つとは限りませんし、悪い側が負けるとは限りません。

第二次世界大戦後も、沢山戦争が行われました。
朝鮮戦争、ベトナム戦争、中東戦争、湾岸戦争、イラク戦争・・・・はたして、それらの戦争で、正義の側が勝ってきたでしょうか。
また、戦後国際連合のような機関や国際法が発達してきたとは言えますが、それらは、イスラエルを含めて大国が自国の安全保障のためと称して行う対外的軍事行動の歯止めとはなりませんでした。

<戦争は正義の側が勝つとは限らない>というのも、戦争の原則の一つでしょう。

4.ウクライナ侵攻の場合

以上の二つの原則によって、ウクライナ問題を眺めてみましょう。

<戦争は正義の側が勝つとは限らない>
ロシアによるウクライナ侵攻は、米欧日などでは、ウクライナ=善、ロシア=悪だとされています。もしそれが正しいとしても、ウクライナ=正義の側が勝つとは限らないということになります。

<戦争は強い側が勝つ>
ウクライナとロシアは、どちらが強いでしょうか。
純粋に一対一で戦った場合は、ロシアの方が強いのは明らかです。だから、双方が単独で戦争をしていたなら、ウクライナは早くに敗北しているでしょう(ウクライナ<ロシア:ロシアはウクライナより強い)

ところが、ウクライナにNATO諸国が味方をしました。NATO諸国は、直接には参戦していませんが、ロシアに対する経済制裁や、ウクライナに対する軍事支援を行った結果、ウクライナとロシアの力の差が縮まりました(ウクライナ+NATO諸国≦ロシア)。
なので、戦争は長期化しています。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、「占領されたすべての領土を取り戻すことを目指している」と表明しました。
もしウクライナ+NATO連合とロシアの力の差がほぼ同じなら、戦争は一進一退、膠着状態が続くでしょう(ウクライナ+NATO諸国≒ロシア)。
しかし、ウクライナが占領地を奪還するためには、ロシアの力を凌駕しなければなりません(ウクライナ>ロシア)。

ウクライナが奪われた土地を取り戻すには、ロシアの力を上回るだけの兵器等をNATO諸国が供与するか、実際に参戦するかのどちらかしかありません。
NATO諸国は、そのようなことが実行できるでしょうか。

5.進歩主義的戦争観

今回のウクライナ侵攻では、A ロシアが全面的に悪い派と、B ロシアの主張にも一理ある、または、ウクライナやNATO諸国にも過失がある派に分かれましたが、人々の意見は従来の右派と左派、タカ派とハト派とは違った分かれ方をしました。

左翼的思考とそれが生み出す社会」に、保守主義者は<あること>から出発し、進歩主義者は<あるべきこと>から出発すると述べましたが、戦争に関して言うなら、善悪に拘らず、事実として強い側が勝つと考えるのが保守主義者であり、力の強弱にも拘らず、正しい側が勝たねばならないと信じるのが進歩主義者だと判断できるでしょう。

ウクライナ侵攻で顕わになったのは、戦争は善の側が勝つべきであるし、勝たなければならないと信じる者が、右派やタカ派の中にも少なくなかったことです。
東京裁判史観否定論者の一つの確信は、戦争の善悪と勝敗は無関係である、ということだったはずなのに、彼らの中から、力の強弱とは無関係に、ウクライナが勝たなければならないと言う者が出現したのは、意外でした。