戦争は弱い側が負ける

1.古来戦争は

7月11日公開の投稿では、「戦争は強い側が勝つ」と述べました。
ということは、同じことではありますが、戦争は弱い側が負ける、ということでもあります。

古来戦争は強い側が勝ち、弱い側が負けました。
敗戦国は戦勝国に、領土の一部を割譲し、あるいは、賠償金を科されましたが、最悪の場合、前者は後者に吸収合併されました。前者の国民や領土は、後者のものになりました。そして、強い国は大国になり、弱い国は地図上から消滅しました。

2.弱い側はいつまで戦うべきか

弱い国と強い国が戦った場合、弱い国の国民は、最後の一人になるまで戦うというようなことはあるでしょうか。ありません。
もし弱い国が何らかの理由で、引き分けくらいに持ち込めるのなら、継戦は無駄ではありませんが、弱い国(小国)は強い国(大国)と戦えば戦うほど、人命は失われ、国土は荒廃します。なので、ある時点で、前者は後者に降伏しました。

第二次世界大戦で、ドイツは1945年4月30日ヒトラー総統は地下壕で自殺し、5月8日同国は連合国に降伏しました。

一方、日本は、戦争の後半で、一億玉砕というスローガンを軍部が掲げましたが、1945年3月10日東京大空襲、4月1日沖縄本島に米軍上陸、8月6日広島に、同9日長崎に原爆投下、同8日、日ソ中立条約を破って、ソ連が対日宣戦布告、それらを経て、しかし、一億の民は玉砕することなく、8月14日ポツダム宣言を受諾し、翌日昭和天皇の玉音放送で、戦争は終了しました。

ロシアによるウクライナ侵攻は、どちらが勝ち、どちらが負けるか分かりませんが、負ける側は第二次大戦のドイツ、日本以上に被害を出してでも、戦争を継続すべきなのでしょうか。

3.ウクライナ侵攻の場合

<古来戦争は強い側が勝ち、弱い側が負けました>
もし、それが真実なら、ウクライナ侵攻もその例外ではないでしょう。

財政破綻、人口減少だけではない 破綻国家となりつつあるウクライナの窮状」という記事のコメント欄に、次のような意見が寄せられていました。

「この戦争でウクライナは自国を守って居るだけなのに、国民は死に、領土は奪われ、困窮して国家が破綻するってどうしても納得が行かない。ロシアの戦犯としての責任追及と補償はさせるべきだと思います。武力が勝る国が何をしても責任無し、戦勝する為に何をしても良いと言う事になってしまう。西側も復興再建には当然支援すべきだが、ロシアに一番の復興支援をさせるべきだと思う。それが出来なければロシアを更に孤立させるべきだと思う。思いっ切り経済制裁を課して戦争ではない経済困窮を知らしめてやって欲しい。ウクライナの人達が余りにも惨めでならない」

歴史を眺めるなら、「武力が勝る国が何をしても責任無し、戦勝する為に何をしても良いと言う事」なのが現実です。市民に対する無差別爆撃も原爆投下も、不問に付されてきました。

もし「ロシアの戦犯としての責任追及と補償をさせる」のだとしたら、また、「ロシアに一番の復興支援をさせる」のだとしたら、ウクライナはロシアに戦争で勝たなければなりません。では、ウクライナはロシアに勝てるのでしょうか。

以下、X>Yは、XはYよりも強い、を意味するとして、
A、ウクライナ(+NATO)>ロシアの場合。
ここで、なぜ(+NATO)なのかと言えば、NATOは直接的には参戦していなくて、間接的に対露制裁や対宇軍事支援を行っているだけですし、ウクライナとロシアの戦争で、前者が敗北しても、NATO諸国が敗戦国になるわけではないからです。

Aの場合、ウクライナとロシアの戦いが、続けば続くほど、前者は有利になり、後者は不利になります。何れ、ウクライナは被占領地を取り戻すことができるでしょう。

しかし、B、ロシア>ウクライナ(+NATO)の場合なら、どうでしょうか。
戦いが長引けば長引くほど、ウクライナは不利になります。そして、最終的には、ウクライナはロシアに降伏しなければならなくなるでしょう。
Bの場合でも、ウクライナは降伏まで、ロシアと戦い続けるべきなのでしょうか。

たとえ、この戦争でウクライナを支持するにしても、AB何れかの認識に立脚することによって、別の判断を下すことが可能です。

Aなら、たとえば、今後の戦局は、ウクライナに有利に転化するでしょうから、戦い続けるべきだということになります。しかし、Bだとしたら、どうでしょうか。
もともとロシアとの間に戦力差があますし、いわゆるウクライナ疲れが喧伝されていて、今後NATO諸国が、ウクライナが勝てるだけの軍事的支援ができるのか微妙です。
このままでは、二国間の力の差は、ウクライナ>ロシアとはならずに、せいぜいロシア≧ウクライナのままで推移しそうです。とするなら、ウクライナは戦いが続けば続くほど、不利になります。
それなら、すべてを失うよりも、失わない時点で、停戦に持ち込んだ方が良いということになります。

上の引用文のような考えの人たちは、戦争は善の側が勝ち、悪の側が負けるとは限らないということを理解していませんし、もしロシアより弱ければ、戦えば戦うほどウクライナの側が不利になるということも理解していません。
彼らは意図せずに、ウクライナを更なる窮地に追い込んでいるのかもしれないのです。

4.どちらも決定的に負けない策

戦争を続け、決着をつけようとするなら、一方の側が勝ち、他方が負けることになります。弱い側は、何れ降伏しなければなりません。
しかし、ウクライナ、ロシアの双方が決定的な恥辱を受けないようにするには、そして、そのような策があるとすれば、それは休戦でしょう。何れかの時点で、力の強い側が相対的に有利で、弱い側が相対的に不利な状態で、手を打つしかないでしょう。

ベトナム戦争(ー1975)では、北ベトナムと南ベトナムが最後まで戦い、結果、北ベトナムが南ベトナムを打ち負かし、吸収・統一しました。

一方、朝鮮戦争(1950ー1953)では、北朝鮮と韓国が戦いましたが、結局、決着がつかないまま休戦し、北緯38度線を境に、北側は北朝鮮、南側は韓国で、今日に至っています。

ウクライナ戦争は、ベトナム戦争型で終わるのでしょうか、それとも、朝鮮戦争型で終わるのでしょうか。

戦争は強い側が勝つ

1.不思議な主張

たとえば、次のような主張があります。
ロシアによるウクライナ侵攻において、領土の占有が既成事実として認められたなら、同様に振舞う国が現れるだろうから(中共?)、ロシアの侵略は決して許されてはならない、と。
だから、ロシアに対する経済制裁も、ウクライナに対する軍事支援も続けられるべきだと言う。

これは一見正当な主張に見えますが、過去の歴史を眺めれば、むしろ特異な意見だと思えます。

2.古来戦争は

言論人やジャーナリスト(テレビのコメンテーター?)や学者の論争は、その勝敗が明確ではありませんが、スポーツではその勝敗は明確です。そして、戦争もスポーツほどではありませんが、その勝ち負けは明確です。つまり、強い側が勝ちます。

古来様々な国が盛衰を繰り返してきました。
小国aが隣の小国bを侵略し、また、その向こうの小国cを吸収し、a国は大国になりました。大国になったA国は、さらにd、e国を合併しました。
時代を経て、A国では後継者を巡って、子孫が殺し合い、あるいは、臣下が王を暗殺し、内紛が生じて、大国は衰退し、あるいは、滅びました。滅びた後、f国g国h国が誕生しました。そして、f国はg国を侵略し、さらにh国を併合し、F国は大国になり・・・・歴史は繰り返しました。

そのように、古来戦争は強い側が勝ってきました。大国が小国を侵略するのが、常態でした。
現代では、国際世論を味方につけるとか、相手国民の厭戦気分を喚起するとか、非軍事的な力を含めてですが、
<戦争は強い側が勝つ>が、原則でしょう。

3.正義の側が勝つとは限らない

戦争は、強い側が勝ちます。しかし、強い側=正しい側とは限りません。
ということは、戦争では、正しい側が勝つとは限らないということです。正しい側が、負ける場合もあります。

聖地エルサレムを、イスラム教徒から奪還するために、11世紀から13世紀にかけてキリスト教徒は十字軍を派遣しました。
キリスト教とイスラム教のどちらが正しいとは言えませんが、もしどちらか一方が正しくて、しかも、正しい側が勝つはずなら、どちらか一方がずっと勝利しているでしょう。しかし、十字軍の歴史を見るなら、キリスト教徒側が勝つ場合もあれば、イスラム教徒側が勝つ場合もありました。前者が聖地を取り戻した場合もあれば、奪われた場合もありました。
相手より強かった時には勝ち、弱かった時には負けました。

第二次世界大戦は、旧連合国の国民も、旧同盟国の多くの人たちも、連合国側=善、同盟国側=悪だと信じています。が、前者が正しかったから勝ったわけではありません。強かったから勝っただけです。
歴史は勝者によって書かれますが、勝った側が自分たちの陣営が正しかったのだと歴史を記述するから、後世では多分に、勝者=正義の側ということになっています。本来なら、このことこそが、歴史修正主義だと呼ばれるべきでしょう。

それはともかく、戦争の勝敗と善悪は無関係です。善い側が勝つとは限りませんし、悪い側が負けるとは限りません。

第二次世界大戦後も、沢山戦争が行われました。
朝鮮戦争、ベトナム戦争、中東戦争、湾岸戦争、イラク戦争・・・・はたして、それらの戦争で、正義の側が勝ってきたでしょうか。
また、戦後国際連合のような機関や国際法が発達してきたとは言えますが、それらは、イスラエルを含めて大国が自国の安全保障のためと称して行う対外的軍事行動の歯止めとはなりませんでした。

<戦争は正義の側が勝つとは限らない>というのも、戦争の原則の一つでしょう。

4.ウクライナ侵攻の場合

以上の二つの原則によって、ウクライナ問題を眺めてみましょう。

<戦争は正義の側が勝つとは限らない>
ロシアによるウクライナ侵攻は、米欧日などでは、ウクライナ=善、ロシア=悪だとされています。もしそれが正しいとしても、ウクライナ=正義の側が勝つとは限らないということになります。

<戦争は強い側が勝つ>
ウクライナとロシアは、どちらが強いでしょうか。
純粋に一対一で戦った場合は、ロシアの方が強いのは明らかです。だから、双方が単独で戦争をしていたなら、ウクライナは早くに敗北しているでしょう(ウクライナ<ロシア:ロシアはウクライナより強い)

ところが、ウクライナにNATO諸国が味方をしました。NATO諸国は、直接には参戦していませんが、ロシアに対する経済制裁や、ウクライナに対する軍事支援を行った結果、ウクライナとロシアの力の差が縮まりました(ウクライナ+NATO諸国≦ロシア)。
なので、戦争は長期化しています。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、「占領されたすべての領土を取り戻すことを目指している」と表明しました。
もしウクライナ+NATO連合とロシアの力の差がほぼ同じなら、戦争は一進一退、膠着状態が続くでしょう(ウクライナ+NATO諸国≒ロシア)。
しかし、ウクライナが占領地を奪還するためには、ロシアの力を凌駕しなければなりません(ウクライナ>ロシア)。

ウクライナが奪われた土地を取り戻すには、ロシアの力を上回るだけの兵器等をNATO諸国が供与するか、実際に参戦するかのどちらかしかありません。
NATO諸国は、そのようなことが実行できるでしょうか。

5.進歩主義的戦争観

今回のウクライナ侵攻では、A ロシアが全面的に悪い派と、B ロシアの主張にも一理ある、または、ウクライナやNATO諸国にも過失がある派に分かれましたが、人々の意見は従来の右派と左派、タカ派とハト派とは違った分かれ方をしました。

左翼的思考とそれが生み出す社会」に、保守主義者は<あること>から出発し、進歩主義者は<あるべきこと>から出発すると述べましたが、戦争に関して言うなら、善悪に拘らず、事実として強い側が勝つと考えるのが保守主義者であり、力の強弱にも拘らず、正しい側が勝たねばならないと信じるのが進歩主義者だと判断できるでしょう。

ウクライナ侵攻で顕わになったのは、戦争は善の側が勝つべきであるし、勝たなければならないと信じる者が、右派やタカ派の中にも少なくなかったことです。
東京裁判史観否定論者の一つの確信は、戦争の善悪と勝敗は無関係である、ということだったはずなのに、彼らの中から、力の強弱とは無関係に、ウクライナが勝たなければならないと言う者が出現したのは、意外でした。 

ロシアの戦略的な目標?

ブリンケン米国務長官は、6月26日放送のCNNテレビで、「プーチン氏の戦略的目標は、ウクライナの主権と独立を奪って地図上から消し去り、ロシアに組み込むことだったと指摘」したそうです(1)。

はたしてロシアはそんなことを意図しているでしょうか。意図しているとして、同国はどこでそんなことを表明しているのでしょうか。

2月24日ロシアはウクライナに侵攻しましたが、当日のテレビ演説でプーチン氏は述べています。

「私たちの計画にウクライナ領土の占領は入っていない」(2)

6月7日には、ウクライナのEU加盟に対して、「われわれは全く反対していない。EUは軍事同盟ではない。経済連合に加入するのは全ての国が持つ権利だ」と発言しました(3)。

また、5月29日ラブロフ露外相は、ドンバス以外の地域に関しては、「自らの意思で未来を決めるべきだとの立場を示した」そうです(4)。

これらから言えるのは、ロシアはウクライナの併合を目的としていないということです。少なくとも、ウクライナの国としての生存権は認めています。
ただ、ウクライナがNATOに加盟するのは許せない、ドンバス地方におけるロシア系住民に対する、ウクライナ政府による攻撃は許せないというのが動機でしょう。

ウクライナの次にロシアが侵略するのはX国だなどとの説が、まことしやかに語られていますが、どのような根拠に基づいて、主張者はそのような発言をしているのでしょうか。
この度のウクライナ戦争で分かったのは、ロシアには自国の安全保障上重要ではない、あるいは、ロシア系の住民のいない地域へ侵攻する力はないということでしょう。

ブリンケン氏の発言を含めて、ロシアが言ってもいないことを言って、しかも、それを根拠に、同国を悪魔に仕立て上げ、非難する。どうかと思います。

ロシアが本心を隠していないとは言えませんが、少なくとも、宇米欧の指導者よりも、ロシアの指導者の発言の方が、ブレが少ないように思います。

(1)https://news.yahoo.co.jp/articles/09e4973106b6e59edb3e3708a6304d1ccf573266
(2)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220304/k10013513641000.html
(3)https://news.yahoo.co.jp/articles/5ca68dd396c99d2708414e555df02399e8203cb9
(4)https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-donbas-lavrov-idJPKBN2NF0L5