1.台湾では失敗しない
つい最近までの、アメリカの政策は、「台湾の独立は支持しない」でした。
ところが、5月23日の日米首脳会談後の記者会見で、「あなたは、明らかな理由でウクライナの紛争に軍事的な介入は望まなかった。あなたは、もしそれが起きたら、台湾を守るために、軍事的に介入しますか」と、問われたバイデン大統領は、「はい。(中略)それが、我々の公約だ」と答えました(注)。
それは、従来のアメリカの立場から逸脱しています。もっとも、その発言の後、ホワイトハウスは、「我々の政策は変わっていない」と一応打ち消しましたが。
バイデン氏のその発言は、意図的なのか、失言なのか、あれこれ詮索されました。アメリカはこれまでは、いわば両足を台湾の独立は支持しないにかけていたのに対し、5月23日からは、一方の足は独立を支持しないに、もう片方は軍事介入する、に置くように変化したように見えます。
ずっと、台湾の独立は支持しないと言っていたのに、どうしてその立場を変更した?のでしょうか。
ウクライナで失敗したからでしょう。
2.ウクライナで失敗した
なぜアメリカは、これまで台湾に対して、独立は支持しないと表明していたのでしょうか。
中共にとって、台湾は支那の一部であり、独立は認めることができないとの立場です。独立を宣言すれば、中台間で、ひいては米中間で戦争になるかもしれないからでしょう。
もし台湾の独立は支持しない同様、ウクライナに対しても、加盟は支持しないとアメリカ及びNATO諸国が明確に表明していれば、ロシアによるウクライナ侵攻はなかったでしょう。しかし、台湾とは違って、ウクライナに対しては、アメリカもNATO諸国も、加盟を支持しました。だから、戦争は起こりました。
3.バイデン氏は過失を認めた
バイデン大統領は昨年12月8日、ロシアがウクライナに侵攻した場合に、米軍をウクライナに派遣することは「検討していない」と述べました。もしその判断が正しかったなら、5月23日にも、中共が台湾に侵攻した場合も、米軍を台湾に派遣することはないと答えたはずです。しかし、実際は台湾に対しては、軍事介入をするような発言をしました。なぜでしょうか。
ウクライナに対する言動が失敗だったからでしょう。
アメリカ大統領が公式に失敗を認める訳がありませんが、似たようなケースにあったウクライナに対する政策の後、台湾に対する政策を変えたのだとしたら、前者の失敗を認めたのも同然です。
4.中途半端な学習
アメリカは、ウクライナの失敗で学習したとは言えます。しかし、ちゃんと学習しえているのでしょうか。3月21日公開の記事「ウクライナ侵攻と台湾」に書きました。
「この度のロシアによるウクライナ侵攻から、中共による台湾への侵攻を阻止するための教訓を挙げるとするなら、
第一、戦争が発生する恐れがある場合は、主権国家であろうと、力によらない一方的な現状の変更は、国際社会は安易に認めてはならないこと、
第二、認める場合は、戦争が起こらないだけの軍事的な抑止力を備えてからにすべきこと、
ではないでしょうか」
第一に関して。
ウクライナのNATOへの加盟しろ、「台湾を守るために軍事介入する」への方針の変更?にしろ、力によらない一方的な現状変更の試みです。そして、後者の場合も「戦争が発生する恐れがあ」ります。それなのに、またしてもバイデン氏は、一方的な現状変更の試みを為すような発言を行いました。
第二に関して。
それを認める場合は、戦争が起こらないだけの軍事的な抑止力を備えてからにすべきです。
では、5月23日のバイデン氏の発言の前に、アメリカは台湾に対し、対支抑止力を備えるよう求めたでしょうか。また、台湾はそのための準備を完了していたでしょうか。言うまでもありませんが、していません。
ただ、中共を牽制するために、バイデン氏は軽挙妄言しただけです。
5.ロシアが全面的に悪いか
3月27日に開催された米アカデミー賞授賞式で、俳優のウィル・スミス氏が、プレゼンターのクリス・ロック氏に平手打ちを食らわせるという事件が起こりました。もしロック氏がスミス氏の妻に対して、侮蔑的な発言を行っていないのに、平手打ちを食らわせたのだとしたら、スミス氏が全面的に悪いと言えますが、スミス氏の行動はロック氏の発言がなければ起こりえませんでした。
同様に、ゼレンスキー氏やバイデン氏のヘマがなければ起こらなかった訳ですから、ウクライナ侵攻はロシアが全面的に悪いとは言えないだろうと思います。
実質的にバイデン氏が過失を認めているのに、ロシアが全面的に悪いとか言っている人がいるのは、不思議ではあります。
(注)
https://news.yahoo.co.jp/articles/8a9b789a5a639de42d330cf6b4cba36e6fbf39bd
【折々の名言】
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(森喜朗元首相、https://news.yahoo.co.jp/articles/6e54af51d9174b1a1663787f6345be34d9137f37)