ロシアだって自衛戦争をたたかっている

冷戦後、NATOの東方拡大により、対露同盟がどんどんロシアの方へ勢力圏を延ばしました。そして、ついに、汎ロシアの構成メンバー(ロシア、ウクライナ、ベラルーシ)たるウクライナまでが対露同盟に参加することになるかもしれなくなりました。
ウクライナがNATOに加盟すれば、最悪同国内に米軍の基地ができるかもしれないし、核を含む兵器が配備されるかもしれない。それは、ロシアにとって、大変な脅威です。

ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、雑誌『Hanada』6月号で、シカゴ大学教授ジョン・ミアシャイマー氏の論文を引用しています。

<強大国は、自分たちの領土近くに迫る潜在的な脅威には、いつもセンシティブである。これは地政学の基本だ。たとえば、中国がカナダやメキシコと軍事同盟を結ぼうとしたときの、ワシントンの怒りを想像してみればいい>(94ー95頁)

ロシアにとっての、ウクライナのNATO加盟は、アメリカにとって、「中国がカナダやメキシコと軍事同盟を結ぼうとした」ようなものです。そして、それゆえに、ロシアはウクライナへ侵攻しました(ドンバスの「解放」は、ロシアの副次的な理由です)。

勿論、それに対しては、だからと言ってロシアがウクライナに侵攻して良い理由にはならないと、ロシア批判派は反論します。
もし他の国が、そのような侵攻をしないのなら、ロシアの行動は突出して不当だと言えるでしょう。では、他の国は、そのような行動は取らないでしょうか。

1962年にキューバはソ連の核ミサイルを国内に配備しようとしました。同国は、いわゆるアメリカの裏庭と呼ばれるカリブ海に位置する国です。そのような国にアメリカを狙うことができるミサイルが配備されることになって、米国は愕然としました。
キューバ危機では、アメリカの選択肢として、軍事侵攻がありました。実際に採用したのは海上封鎖ですが、選択肢の中にそれがあったということは、場合によっては、米国はキューバへ軍事侵攻をする可能性があったということです。

また、2001年の9・11テロを受けて過敏になったアメリカは、2003年に主権国家イラクへ侵攻し、フセイン政権を倒しました。
キューバに配備されたソ連のミサイルはアメリカに届きますし、ウクライナに配備されるかもしれないミサイルや爆撃機はロシアに届きます。一方、イラクはアメリカに届くようなミサイルは持っていませんでした。それなのに、アメリカはイラクへ侵攻しました。

キューバ危機の時も、イラク侵攻の時もアメリカは平然としていられませんでしたし、ウクライナがNATOに加盟することに、ロシアも平然としていられないから、この度の戦争は起こったのでしょう。

今、ロシアに対する経済制裁やウクライナに対する軍事支援を叫んでいる人たちは、イラク戦争当時、アメリカに対する経済制裁やイラクに対する軍事支援を主張したでしょうか?

ウクライナ侵攻に関して、ローマ教皇はインタビューで、「赤ずきんちゃんが善で、狼が悪というお決まりのパターンから脱却する必要がある」として、「『善VS悪』というおとぎ話のような単純な認識が広まっていることに警鐘を鳴ら」したそうです(注)。

日本を含めた、いわゆる西側諸国の、アメリカとロシアに対するダブル・スタンダードは酷いし、また、ロシア非難も過ぎると思います。

(注)
https://news.yahoo.co.jp/articles/84f38af17ecbfa1fbf129b001913f20df6dd8ae8

バイデン氏は過失を認めた ウクライナ侵攻

1.台湾では失敗しない

つい最近までの、アメリカの政策は、「台湾の独立は支持しない」でした。

ところが、5月23日の日米首脳会談後の記者会見で、「あなたは、明らかな理由でウクライナの紛争に軍事的な介入は望まなかった。あなたは、もしそれが起きたら、台湾を守るために、軍事的に介入しますか」と、問われたバイデン大統領は、「はい。(中略)それが、我々の公約だ」と答えました(注)。

それは、従来のアメリカの立場から逸脱しています。もっとも、その発言の後、ホワイトハウスは、「我々の政策は変わっていない」と一応打ち消しましたが。

バイデン氏のその発言は、意図的なのか、失言なのか、あれこれ詮索されました。アメリカはこれまでは、いわば両足を台湾の独立は支持しないにかけていたのに対し、5月23日からは、一方の足は独立を支持しないに、もう片方は軍事介入する、に置くように変化したように見えます。
ずっと、台湾の独立は支持しないと言っていたのに、どうしてその立場を変更した?のでしょうか。
ウクライナで失敗したからでしょう。

2.ウクライナで失敗した

なぜアメリカは、これまで台湾に対して、独立は支持しないと表明していたのでしょうか。
中共にとって、台湾は支那の一部であり、独立は認めることができないとの立場です。独立を宣言すれば、中台間で、ひいては米中間で戦争になるかもしれないからでしょう。

もし台湾の独立は支持しない同様、ウクライナに対しても、加盟は支持しないとアメリカ及びNATO諸国が明確に表明していれば、ロシアによるウクライナ侵攻はなかったでしょう。しかし、台湾とは違って、ウクライナに対しては、アメリカもNATO諸国も、加盟を支持しました。だから、戦争は起こりました。

3.バイデン氏は過失を認めた

バイデン大統領は昨年12月8日、ロシアがウクライナに侵攻した場合に、米軍をウクライナに派遣することは「検討していない」と述べました。もしその判断が正しかったなら、5月23日にも、中共が台湾に侵攻した場合も、米軍を台湾に派遣することはないと答えたはずです。しかし、実際は台湾に対しては、軍事介入をするような発言をしました。なぜでしょうか。
ウクライナに対する言動が失敗だったからでしょう。

アメリカ大統領が公式に失敗を認める訳がありませんが、似たようなケースにあったウクライナに対する政策の後、台湾に対する政策を変えたのだとしたら、前者の失敗を認めたのも同然です。

4.中途半端な学習

アメリカは、ウクライナの失敗で学習したとは言えます。しかし、ちゃんと学習しえているのでしょうか。3月21日公開の記事「ウクライナ侵攻と台湾」に書きました。

「この度のロシアによるウクライナ侵攻から、中共による台湾への侵攻を阻止するための教訓を挙げるとするなら、
第一、戦争が発生する恐れがある場合は、主権国家であろうと、力によらない一方的な現状の変更は、国際社会は安易に認めてはならないこと、
第二、認める場合は、戦争が起こらないだけの軍事的な抑止力を備えてからにすべきこと、
ではないでしょうか」

第一に関して。
ウクライナのNATOへの加盟しろ、「台湾を守るために軍事介入する」への方針の変更?にしろ、力によらない一方的な現状変更の試みです。そして、後者の場合も「戦争が発生する恐れがあ」ります。それなのに、またしてもバイデン氏は、一方的な現状変更の試みを為すような発言を行いました。

第二に関して。
それを認める場合は、戦争が起こらないだけの軍事的な抑止力を備えてからにすべきです。
では、5月23日のバイデン氏の発言の前に、アメリカは台湾に対し、対支抑止力を備えるよう求めたでしょうか。また、台湾はそのための準備を完了していたでしょうか。言うまでもありませんが、していません。
ただ、中共を牽制するために、バイデン氏は軽挙妄言しただけです。

5.ロシアが全面的に悪いか

3月27日に開催された米アカデミー賞授賞式で、俳優のウィル・スミス氏が、プレゼンターのクリス・ロック氏に平手打ちを食らわせるという事件が起こりました。もしロック氏がスミス氏の妻に対して、侮蔑的な発言を行っていないのに、平手打ちを食らわせたのだとしたら、スミス氏が全面的に悪いと言えますが、スミス氏の行動はロック氏の発言がなければ起こりえませんでした。

同様に、ゼレンスキー氏やバイデン氏のヘマがなければ起こらなかった訳ですから、ウクライナ侵攻はロシアが全面的に悪いとは言えないだろうと思います。

実質的にバイデン氏が過失を認めているのに、ロシアが全面的に悪いとか言っている人がいるのは、不思議ではあります。

(注)
https://news.yahoo.co.jp/articles/8a9b789a5a639de42d330cf6b4cba36e6fbf39bd

【折々の名言】
「女の人はよくしゃべると言っただけだ。本当の話をするので叱られる。(中略)本当の話を政治家がしないから、世の中がおかしくなっている」
(森喜朗元首相、https://news.yahoo.co.jp/articles/6e54af51d9174b1a1663787f6345be34d9137f37)