日本は参戦している ウクライナ侵攻

1.鳥越氏の中立的発言

3月23日、ウクライナのゼレンスキー大統領が国会でオンライン演説を行うことになったことに対して、同月17日ジャーナリストの鳥越俊太郎氏は、ツイッターで反対の意見を表明しました。

「私はゼレンスキーに国会演説のチャンスを与えるのには反対する!どんなに美しい言葉を使っても所詮紛争の一方当事者だ。台湾有事では台湾総統に国会でスピーチをさせるのか?」

鳥越氏はジャーナリストなので、不偏不党とか中立とかが念頭にあっての発言かもしれません。
もし日本がウクライナとロシアの間で中立を保っているのなら、氏の主張は正しいでしょう。しかし、日本は両国の間で中立ではありません。
ロシアがウクライナに侵攻した翌日、2月25日の時点で、日本は「ロシアによるウクライナへの軍事行動の問題を受けた制裁措置(外務大臣談話)」を発していますし、その後対ロシア制裁を行っています。
鳥越氏が演説に反対した時には、日本は既に中立ではなかったのです。

2.経済制裁は戦争の延長である

戦争は軍事力を用いますが、経済制裁はそれを用いません。なので、後者は平和的な行為だと誤解している人も、少なくないかもしれません。しかし、経済制裁は平和的な行動なのでしょうか。ウィキペディアの記述を引きます。

「経済制裁は非軍事的強制手段のひとつであり、武力使用(交戦)による強制外交と同様に外交上の敵対行為と見なされる」

クラウゼヴィッツの「戦争は他の手段をもってする政治の継続である」を応用するなら、経済制裁は他の手段をもってする戦争の継続である、と言うことができます。
すなわち、経済制裁は非軍事的手段なのかもしれませんが、それは戦争の一部なのです。

わが国の北朝鮮に対する経済制裁のように、他国と一緒になってそれを行うことは、行う方は、平和的だと考えるかもしれませんが、受ける側からすれば、非平和的な、戦争の一部だと判断するだろうということです。

3.自覚なき参戦

ウクライナ・ロシア戦争に、日本は既に参戦しています。
もし参戦していない=中立なら、国会でゼレンスキー大統領の演説を認めるのと同様、プーチン大統領の演説も認めるべきですし、前者の演説を許可しないなら、後者のそれも許可すべきではありません。
しかし、日本は参戦しているがゆえに、味方の首脳が国会で演説するのは是とし、敵国の首脳には演説させないのは自然です。先の鳥越氏の発言はズレています。

問題なのは、ゼレンスキー大統領の国会演説に出席した岸田内閣の閣僚や国会議員、そして国民に、日本は参戦しているとの自覚があるのかどうかです。

4.主戦論と和平論

日本国憲法の第九条を改正すべきという人たちよりも、改正すべきではないという人たちの方が今でも多数派です()。そして、憲法の第二章は、「戦争の放棄」です。
不正や不当な戦争は勿論、正当な戦争、たとえば、自衛戦争でさえも放棄すべきと考える人たちはまだまだ少なくないはずでした。

ところが、ロシアによるウクライナ侵攻が発生すると、人々の主張が一変しました。
自衛戦争をも否定していた人たちが影を潜め、正しい戦争は許されるという風に、世間の戦争観が変ったような印象を受けます。当人たちには、その自覚がないかもしれませんが、彼らはいつの間にか、自衛戦争肯定派に転向したのでしょうか。それとも、ウクライナの自衛戦争は肯定するけれども、日本のそれは肯定しないのでしょうか。

ロシアには大義がない。同国に対する制裁を強化せよ。そのような経済制裁イケイケ派の人たちは、実質的に戦争を継続せよと言っているのに等しい。
経済制裁に賛意を示している人たちは、言わば主戦論者です。

今日、報道や言論を見る限り、多数派は主戦論者です。一方、和平論者は少数派です。そして、後者の評判は頗る悪い。彼らは、ロシアの言い分を代弁していると批判されます。
私は今まで、自分をタカ派だと思っていましたが、いつの間にかハト派になってしまいました。

今や、世界には主戦論者が溢れています。彼らは世界を、どこへ導こうとしているのでしょうか。