ディープ・ステートという概念

ディープ・ステート(deep state)とは、ある人にとっては金融資本家であり、ある人にとってはアメリカの高級官僚であるらしい。

A氏にとってはaがディープ・ステートであり、B氏にとってはbがそれに相当し、C氏にとってはcが・・・・。
ということは、ディープ・ステートという言葉は同じでも、論者が語っているいるのは同一の概念・対象ではないということです。オカマという言葉で、A氏は「穀物や食料品を加熱調理する際に火を囲うための調理設備」(wiki)としてのかまど(竈)のことを語り、B氏は男性同性愛者のことを語っているようなものです。それは、論理学で言うところの、多義の虚偽(fallacy of equivocation)でしょう。
異なる概念を論じて、同一の認識に達しうるのでしょうか?

世界を陰で操る人たちがいて、それが誰なのかを論者が究明しようとしているのなら分かります。もしそうだとしたら、それが誰なのかを巡って、論者の間で激烈な論争が繰り広げられてもおかしくありません。しかし、妙に静かです。誰がディープ・ステートに該当するのかを明確にすることに、論者はあまり関心がないようです。
彼らは、その概念を曖昧にしたまま、あれこれ語っています。

幽霊を見たという人たちが集まって、しかし、自分たちが見たものが同一のものなのかという確認(検証)をしないまま、脚がなかったとか、首が長かったとか、一つ目しかなかったとか話して、盛り上がっているようなものでしょう。

ディープ・ステートについてある人は、某氏のブログのコメント欄で、発言しています。

「まあ、巷で言う『陰謀論』の悪役です。その存在を信じるか信じないかは、〇様のご判断にお任せします」

その存在を信じるか信じないかを、読者の判断に任せる?
ディープ・ステートというのは、(社会)「科学」が研究対象とすべき概念ではなく、何らかの信仰の領域に関する概念のようです(笑)。

私が、いわゆるディープ・ステート論者の言うことがナンセンスだと思う理由は、第一、その概念の内包と外延が不明確であること、そもそもそれを明確にしようという発想が彼らにはないこと、第二、彼らは、ディープ・ステートはこれにもそれにも、あんなことにも関わっている!と述べるけれども、その証拠を全く示さないことにあります。

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