1.EUと米英加による対中制裁
3月23日付朝日新聞から引用します。
「欧州連合(EU)は22日、中国でウイグル族に対して深刻な人権侵害が続いているとして、中国当局者らへの制裁を発動した。中国政府や当局者の責任を問う制裁は1989年の天安門事件以来。米国も歩調を合わせる形で同日、当局者2人への制裁を発表した」
イギリスとカナダもそれに同調し、米英加3カ国は、「結束して、ウイグル族など少数民族への抑圧をすぐに停止するよう中国政府に要求する」(3月24日付朝日新聞)との共同声明を発表しました。さらに、23日オーストラリアとニュージーランドも、同様の声明を発したそうです。
2.少数民族への抑圧はこれまでにもあった
中共政府によるウイグルやチベットに対する抑圧は、今に始まったことではありません。前世紀からそれは行われてきました。
ダライ・ラマ14世が中共から亡命、インドに逃れたのは1959年のことです。そして、彼はいまだ亡命中の身です。ということは、中共のチベットやウイグルに対する抑圧は、それ以前から今日まで、ずっと続いているということです。
それなのに、EUや米英加が今頃になって!ウイグル族の人権に関して、中共に制裁を科したのはどうしてでしょうか。彼らに対して行われている「恣意的な施設収容や強制的な避妊・中絶、移動の制限、強制労働、信教の自由の侵害など」(3月31日朝日新聞夕刊)が最近になって強化されたからなのでしょうか。
アメリカは、冷戦時代はソ連に対抗するため、中共と手を結びましたし、2001年の9・11の後は、イスラム過激派との対テロ戦のため、やはり中共の協力を必要とし、同国内の人権には目を瞑りました。けれども、ロシアやイスラム過激派の脅威がそれほどでもなくなり、米欧等は中共の人権を問題にし始めたのでしょうか。
EUは米英加が参加しなくとも、制裁を発動したでしょうか。それとも、米英加と話をつけた上で制裁に踏み切ったのでしょうか。恐らく、後者でしょう。この度の制裁は、アメリカ主導ではないでしょうか。
3.なぜ今なのか
では、なぜ今になって中共に対して、制裁を行うのでしょうか。
「覇権国の論理」に書きました。
「18、19世紀の世界における覇権国イギリスと20、21世紀の覇権国アメリカの行動基準は、<自国の覇権を脅かすもの、自国に取って代わろうとするものは潰せ>、ではないでしょうか」
バイデン米大統領は、3月25日ホワイトハウスでの就任後初の記者会見で、米中関係について、「これは21世紀における民主主義国家と、専制主義国家の有用性をめぐる闘いだ」(3月27日付朝日新聞)と述べましたし、「バイデン氏は中国との競争に勝つためには、①米国の労働者や科学技術分野への投資を拡大②欧州や日米豪印(クアッド)など同盟国・友好国との関係強化③中国国内で起きている人権弾圧に対し、世界各国の注意を喚起一を実行して行く考えをしめした」(同前)そうです。
ウイグル族に対する人権侵害は許さない、というよりも、中共がアメリカの覇権に取って代わろうとするのは許さないという(暗黙の?)コンセンサスが、ファイブ・アイズ(米英加豪新)とEUの間にできたからではないでしょうか。
ウイグル族の人権を出汁に、中共の覇権国化を阻止しようというのが、米欧の真の狙いではないか、というのが私の仮説です。