ディープ・ステートという概念

ディープ・ステート(deep state)とは、ある人にとっては金融資本家であり、ある人にとってはアメリカの高級官僚であるらしい。

A氏にとってはaがディープ・ステートであり、B氏にとってはbがそれに相当し、C氏にとってはcが・・・・。
ということは、ディープ・ステートという言葉は同じでも、論者が語っているいるのは同一の概念・対象ではないということです。オカマという言葉で、A氏は「穀物や食料品を加熱調理する際に火を囲うための調理設備」(wiki)としてのかまど(竈)のことを語り、B氏は男性同性愛者のことを語っているようなものです。それは、論理学で言うところの、多義の虚偽(fallacy of equivocation)でしょう。
異なる概念を論じて、同一の認識に達しうるのでしょうか?

世界を陰で操る人たちがいて、それが誰なのかを論者が究明しようとしているのなら分かります。もしそうだとしたら、それが誰なのかを巡って、論者の間で激烈な論争が繰り広げられてもおかしくありません。しかし、妙に静かです。誰がディープ・ステートに該当するのかを明確にすることに、論者はあまり関心がないようです。
彼らは、その概念を曖昧にしたまま、あれこれ語っています。

幽霊を見たという人たちが集まって、しかし、自分たちが見たものが同一のものなのかという確認(検証)をしないまま、脚がなかったとか、首が長かったとか、一つ目しかなかったとか話して、盛り上がっているようなものでしょう。

ディープ・ステートについてある人は、某氏のブログのコメント欄で、発言しています。

「まあ、巷で言う『陰謀論』の悪役です。その存在を信じるか信じないかは、〇様のご判断にお任せします」

その存在を信じるか信じないかを、読者の判断に任せる?
ディープ・ステートというのは、(社会)「科学」が研究対象とすべき概念ではなく、何らかの信仰の領域に関する概念のようです(笑)。

私が、いわゆるディープ・ステート論者の言うことがナンセンスだと思う理由は、第一、その概念の内包と外延が不明確であること、そもそもそれを明確にしようという発想が彼らにはないこと、第二、彼らは、ディープ・ステートはこれにもそれにも、あんなことにも関わっている!と述べるけれども、その証拠を全く示さないことにあります。

【関連記事です】
「ディープ・ステートという陰謀論」
「暗殺の理由?」

自分のペースで

2018年3月にブログを始めてから、3年が経ちました。

途中何度か休止しましたし、止めてしまおうと考えたこともあります。

これまで、おおよそ週に1本公開を原則にしてきました。が、自分にとってハイ・ペースなのと、殆んど読まれていないブログで、はたしてそのような義務を自己に課すことに意味があるのか疑問に感じてもいました。
熟慮した結果、週1公開原則を放棄することにしました。

これからは、自分に適した、もっと緩やかなペースで書いて行こうと思います。
月に3つ、2つ、1つ、場合によっては公開なしの月もあるかもしれません。

宜しくお願い致します。

なぜ今対中制裁なのか ウイグル族の人権が理由か

1.EUと米英加による対中制裁

3月23日付朝日新聞から引用します。

「欧州連合(EU)は22日、中国でウイグル族に対して深刻な人権侵害が続いているとして、中国当局者らへの制裁を発動した。中国政府や当局者の責任を問う制裁は1989年の天安門事件以来。米国も歩調を合わせる形で同日、当局者2人への制裁を発表した」

イギリスとカナダもそれに同調し、米英加3カ国は、「結束して、ウイグル族など少数民族への抑圧をすぐに停止するよう中国政府に要求する」(3月24日付朝日新聞)との共同声明を発表しました。さらに、23日オーストラリアとニュージーランドも、同様の声明を発したそうです。

2.少数民族への抑圧はこれまでにもあった

中共政府によるウイグルやチベットに対する抑圧は、今に始まったことではありません。前世紀からそれは行われてきました。
ダライ・ラマ14世が中共から亡命、インドに逃れたのは1959年のことです。そして、彼はいまだ亡命中の身です。ということは、中共のチベットやウイグルに対する抑圧は、それ以前から今日まで、ずっと続いているということです。

それなのに、EUや米英加が今頃になって!ウイグル族の人権に関して、中共に制裁を科したのはどうしてでしょうか。彼らに対して行われている「恣意的な施設収容や強制的な避妊・中絶、移動の制限、強制労働、信教の自由の侵害など」(3月31日朝日新聞夕刊)が最近になって強化されたからなのでしょうか。

アメリカは、冷戦時代はソ連に対抗するため、中共と手を結びましたし、2001年の9・11の後は、イスラム過激派との対テロ戦のため、やはり中共の協力を必要とし、同国内の人権には目を瞑りました。けれども、ロシアやイスラム過激派の脅威がそれほどでもなくなり、米欧等は中共の人権を問題にし始めたのでしょうか。

EUは米英加が参加しなくとも、制裁を発動したでしょうか。それとも、米英加と話をつけた上で制裁に踏み切ったのでしょうか。恐らく、後者でしょう。この度の制裁は、アメリカ主導ではないでしょうか。

3.なぜ今なのか

では、なぜ今になって中共に対して、制裁を行うのでしょうか。

「覇権国の論理」に書きました。

「18、19世紀の世界における覇権国イギリスと20、21世紀の覇権国アメリカの行動基準は、<自国の覇権を脅かすもの、自国に取って代わろうとするものは潰せ>、ではないでしょうか」

バイデン米大統領は、3月25日ホワイトハウスでの就任後初の記者会見で、米中関係について、「これは21世紀における民主主義国家と、専制主義国家の有用性をめぐる闘いだ」(3月27日付朝日新聞)と述べましたし、「バイデン氏は中国との競争に勝つためには、①米国の労働者や科学技術分野への投資を拡大②欧州や日米豪印(クアッド)など同盟国・友好国との関係強化③中国国内で起きている人権弾圧に対し、世界各国の注意を喚起一を実行して行く考えをしめした」(同前)そうです。

ウイグル族に対する人権侵害は許さない、というよりも、中共がアメリカの覇権に取って代わろうとするのは許さないという(暗黙の?)コンセンサスが、ファイブ・アイズ(米英加豪新)とEUの間にできたからではないでしょうか。

ウイグル族の人権を出汁に、中共の覇権国化を阻止しようというのが、米欧の真の狙いではないか、というのが私の仮説です。