1.右派か左派か
ブラック・ライブズ・マター(BLM)という社会運動がアメリカで発生し、それが世界へ波及し、日本でもそのデモが行われたということが、マスメディアで報じられました。
ウィキペディアによれば、BLMとは「アフリカ系アメリカ人のコミュニティに端を発した、黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える、国際的な積極的行動主義の運動である」という。
ところで、BLMは、政治的には保守派ということになるのでしょうか、それとも進歩派に色分けされるべきなのでしょうか。
旧い秩序に挑戦しているという意味で、新たな左翼運動であると考えて良いでしょう。
2.左翼か極左か
マスメディアだけではなく、ネットの世界を眺めてみれば、そこでは、BLMは大方左翼だとされていますが、中には極左だと言う人もいます。彼らは、穏健な左翼なのでしょうか、それとも極端な左翼なのでしょうか。
社会・共産主義者が左翼の主流派にして、多数派だった冷戦時代、彼らは資本主義社会を変革して、社会・共産主義社会の実現を目指しました。それを平和的に、つまり民主的手続きに従って=議会で多数を占め、政権を担うことによって実現しようとしたのが穏健な左翼だったのに対し、ソ連や中共の経験から、暴力革命によって権力を掌握し、理想社会を実現しようと考えたのが極左でした。
すなわち、暴力否定なのが左翼であり、暴力肯定なのが極左です。
では、BLMは穏健な左翼なのでしょうか、それとも極左なのでしょうか。もし彼らの運動が暴力的な行動を伴っていないのであれば、穏健な左翼ですが、伴っているのなら極左です。
ネットを見れば明らかですが、彼らは暴動や破壊や略奪を行っています。勿論、すべての集会がそうであるわけではないでしょう。だから、「平和的なデモが大多数」だとして、BLMを擁護する向きもあります。しかし、共産主義的な極左だって非公然活動を行うのは、組織の一部の者たちで、その他は平和的な活動を行っています。それは右翼だって同じです。行動右翼だって、テロに走るものは極く少数です。通常の活動は平和的です。
問題なのは、少数であろうと、暴力的行動をおこなったかどうかです。そして、それを指導部なり仲間なりが制止したか、過剰な行動をした者を処罰したかどうかです。もし集会で、党員が暴動や略奪を行えば、日本共産党だって除名処分にするでしょう。
BLMは、わが国の新左翼、革マル派や中核派と同じような、というよりも、それ以上に荒っぽい極左だと断じるべきでしょう。
3.極左の応援団
暴力を否定しない運動にも拘らず、日本でもそれに共鳴する人たちがいます。
2020年10月20日付朝日新聞によれば、わが国の学校でも、
「黒人差別に抗議する『ブラック・ライブズ・マター(BLM)』運動を授業で扱う学校が出てきている。『肌の色による人種差別は米国だけの問題ではない』との問題意識からだ」
「米ケンタッキー州出身の黒人の英語教師エマニュエル・ターさん(30)が、(中略)『BLMは米国だけの問題ではない。異なる人種や性的少数者らへの差別、いじめ問題が日本にもあることを考えてほしい』と話す」
「異なる人種や性的少数者らへの差別、いじめ問題」を改善するためなら、暴力を用いることも肯定すべきなのでしょうか。
2020年8月11日付朝日新聞の「天声人語」を一部引用します。
「なお燃えさかる米国の抗議運動『ブラック・ライブズ・マター』。怒りの波がいつまでも引かないのはなぜですか。会ってそう尋ねてみたい人がいた。昨年8月に亡くなった米作家トニ・モリスンである。▼『彼女ならきっと全幅の賛意を示し、抗議に立ち上がった人たちを勇気づけたはずです』。そう語るのは、東京外大名誉教授の荒このみさん(74)。黒人文学に詳しく本人とも面識がある。『ただその手段はあくまで文章。街頭で演説するようなふるまいは好まない人でした』」
「ただその手段はあくまで文章。街頭で演説するようなふるまいは好まない人」が、たとえ「黒人に対する暴力や構造的人種差別の撤廃を訴える」ためだとはいえ、暴力を肯定したでしょうか。「彼女ならきっと全幅の賛意を示し」たと考えるのは、牽強付会ではないでしょうか。
私は、天国のモリスン氏はBLMの暴力的行動を見て、涙していると思わざるをえません。
BLMに賛同する人たちは、極左を支持しているのだとの自覚があるのでしょうか。
4.自己の内心を見ない人たち
9月30日付朝日新聞に、「根深い黒人差別 自身の中にも」という記事が掲載されました。そこでは、吉田ルイ子さん(86)の著書『ハーレムの暑い日々』(講談社文庫)が取り上げられています。
「民放アナウンサーなどを経て61年に渡米、コロンビア大学大学院に学んだ吉田は、活動家の白人学生と結婚し、(中略)正義感の強い優しい夫が、ハーレムの暴動で車を壊され、『ニガー』と口走ったときの苦しさ。日本政府を非難して『イエローモンキー』と言ったときの寂しさ。理念と本音が分離した『リベラル白人の始末の悪さ』が許せず、夫婦は破局を迎える」
夫婦が「破局を迎える」原因は様々でしょうし、それが「理念と本音が分離した『リベラル白人の始末の悪さ』」だけだとは思えませんが、それはともかく、「理念と本音が分離」するのは「リベラル白人」のみならず、黒人だって同じでしょう。黒人だって、白人は自分たちを蔑んでいると言いつつ、彼らの中では、知的で、教養があり、年収も高い人たちは、そうでない人、あるいは犯罪に手を染めるような人たちを蔑んでいるだろうと思います。
テニス選手の大坂なおみさんは、「『人種差別主義者ではない』だけでは十分ではないのです。私たちは『反人種差別主義者』でなくてはならないのです」と発言したそうです。
大阪さんはまだ23歳で、思慮が浅いのは無理もありませんが、それだけでは不十分なのです。私たちは、何人も人種差別から自由ではない(米国黒人には黄色人種に対する差別意識はありませんか?)ことを認識する必要があります。
反人種差別主義者は、自分の内なる差別意識を棚に上げて、他者を批判します。しかし、他者を批判するよりも、まず自分の差別意識を問題にすべきなのです。自分の差別意識さえ直視できない者に、差別なき社会を造ることでなどできる訳がありません。
5.BLMの真価
BLMによる暴動は、米大統領選挙の前に燃え上がりました。
それに関しては、トランプ氏を差別主義者に見せかけ、彼を落選させる思惑があったことが指摘されています。それは、陰謀論でしょうか。
BLMの運動が、もし大統領選挙とは無関係なら、そして、「リベラル白人の始末の悪さ」は、民主党政権になっても変わらないでしょうから、今後も活動は収束しないはずです。もし収束したのなら?
彼らの活動を注視したいと思います。