1.右派は支配階級の利益を代弁する党派か
ウィキペディアの「左翼・右翼」の項目に、次のような記述があります。
「社会学者のRobert M.MacIverは1947年の著作『The Web of Government』で以下のように記している。
右翼は上流または支配階級の利益に関連した党派で、左翼は経済的または政治的な下層階級を代表した党派で、中道とは中産階級を代表した党派ある。この基準は歴史的には妥当である。保守的な右翼は固定化された特権や権力を防衛し、左翼はそれらを攻撃する。右翼は出生や富によって階層を形成する、より貴族的な立場を好み、左翼は利益の平等または機会の平等を求めて闘う。民主的な制度の下で両者が衝突する場合、それぞれの階級の名称ではなく、それぞれの原則の名称が主張されるが、しかし対立する原則は実際にはそれぞれの階級の利益と広く関連している」
同「極右」の項目にも次のような文言があります。
「極右とは、左翼・右翼の分類を前提とした用語で、特権階級の特権を極端に維持しようとする個人や集団を指す」
これらの説明は妥当でしょうか。
2.身長と体重
左派と右派の発想の違いを、身長と体重のたとえによって、説明しましょう。
左派は国民全体を、身長の高い者と低い者に分け、前者は敵、後者は味方だと考えます。そして、前者の代弁者が右派であり、後者の代弁者が左派であると。自分たちは低い者の味方であり、自分たちに敵対しているのだから、右派は高い者の味方に違いない!
では、右派の認識は左派と同じでしょうか。違います。
右派は国民全体を、身長ではなく体重の重い者と軽い者に分け、前者は味方、後者は敵だと考えます。そして、前者の代弁者が右派であり、後者の代弁者が左派だと考えます。
すなわち、左派と右派は全く別の基準を用いて、敵と味方を峻別しているのです。
3.階級と国家
冷戦時代の左派=社会・共産主義者にとって、資本家階級は敵で、労働者階級が味方でした。そして、右派は前者の代弁者で、左派は後者の代弁者だと考えていました。
自分たちは労働者階級の味方である、そして、自分たちに反対するのだから、右派は資本家階級の味方に違いない!が、左派の論理です。
一方、右派による敵味方の判定基準は、資本家階級であるか労働者階級であるかではなく、愛国派であるか否か(当人の主観によりますが)です。
資本家の中には愛国派もいるし、反愛国派もいる。一方の労働者の中にも愛国派もいれば反愛国派もいる。要するに、右派にとって、資本家階級であるか労働者階級であるかではなく、愛国派か反愛国派かが(勿論、保守派か進歩派かもですが)問題なのです。
「自分たちに反対するのだから、右派は資本家階級の味方に違いない!」は、左派特有の誤解です。
4.右派は支配階級の利益を代弁する党派ではない
「右翼が上流階級または支配階級の利益に関連した党派で、左翼は経済的または政治的な下層階級を代表した党派」だと政治学者であり、社会学者であったマッキーバーは述べています。しかし、現実には日米欧共に、インテリは左派に傾き、大衆は右派に傾きます。そして、インテリは大衆よりも上流または支配階級に近く、大衆はインテリに比べると経済的または政治的な下層階級に近いのです。
また、「中道とは中産階級を代表した党派である」とありますが、わが国で長年中道を標榜しているのは公明党です。かの党は、「中産階級を代表した党派」なのでしょうか。
極右はどうでしょうか。「特権階級の特権を極端に維持しようとする個人や集団」でしょうか。しかし、彼らは、社会からドロップアウトした者が少なくありません。戦前、五・一五事件や二・二六事件を初め、戦前戦後の右翼テロを見れば分かりますが、彼らはもっぱら支配層を狙いました。
右派は、とても「支配階級の利益に関連した党派」だとは言えません。
マッキーバーの記述は、現実の社会を正確に表していません。 彼が左派であったかどうかは知りませんし、左派でなかったとしても、1947年の時点では、時代の影響を、攻勢極限点の前の、上り坂にある左派の影響を、大いに受けていたのかも知れません。けれども、今から見れば、典型的な左派の主張になってしまっています。だから、それは左派の意見だと見做して良いし、大方の左派も同意見だったでしょう。
自己の見方を絶対視するのと、右派の発想が理解できないのが、左派の欠点です。
【追記】
上記の「左翼・右翼」と「極右」からの引用箇所は、冷戦時代の左派による右派を解釈した記述になっています。
冷戦後、社会・共産主義勢力の退潮により、左派の主流はリベラルに取って代わられました。彼らの信仰箇条の一つは、<あらゆる差別はなくせるはずである>です。
リベラル派の論理はこうです。
我々は差別に反対である。そして、右派は我々に反対する。故に、右派は差別に賛成の立場に違いない!左派が得意とする痴の三段論法です。
その結果、トランプ米大統領は差別主義者のレッテルを貼られることになりました。