全体主義国の対ウィルス戦争

「この事態はなんとしても外の世界からかくしておかねばならなかった」(ジョージ・オーウェル著、高畠文夫訳、『動物農場』、角川文庫、79頁)

昨年末中華人民共和国の湖北省武漢市で発生した新型コロナウィルス感染症は、当初はもっぱら発生源の同国で拡大しましたが、現在は欧米を中心に世界へ波及しています。いまだピークには達していません。

worldometers.info/coronavirus/によれば、4月5日現在の死亡者数は、以前は断トツで一位だったChina(支那)を、その後イタリア、スペイン、アメリカ、フランス、イギリス、イランが抜き去りました。

一方、発生元の支那は何時ごろからか、感染者数も死亡者数もほぼ横ばい状態で、あまり増えていません。
3月10日武漢市を訪れた習近平国家主席は、「湖北省での感染を『基本的に抑え込んだ』と宣言」したそうです(1)。
以前は断トツの感染者数と死亡者数で世界の注目を集めましたが、現在は断トツの抑え込み?で目を引いています。

支那は独裁主義国家(2)だから、都市封鎖や、外出や移動の制限、身分の確認などを徹底的に行いえたから、抑え込みに成功した、一方、イタリアやスペインを初めとする自由主義国は、それらが徹底できないがゆえに、ウィルスが拡大したとの解釈も見られます。

しかし、外出や移動の禁止などが徹底されていると言っても、食料が尽きたら人々はその調達のために夜陰に紛れてでも外出せざるをえないでしょう。また支那の内陸部は、衛生観念の低い地域が少なくないでしょう。
そんなことを考えると、同国の「抑え込み」というものに疑いを持たざるをえません。

対ウィルス戦争の対策の一つは、外出や移動などの制限であり、強弱の差はありますが、それは自由主義国でも全体主義国でも実施されています。が、全体主義国特有の、もう一つの対策も見逃すことはできません。それは、あったことをなかったことにすること、つまり、数字の改ざんという対策です。

かつてのソ連、中共は正真正銘の全体主義体制の国でしたし、北朝鮮は1948年の成立以来今もってそうです。一方、現在の支那は冷戦時代とは違って、国民は外国へ旅行できるようになりました。しかし、いまだ共産党の一党独裁の国であるのは変わりません。
なので、純粋な全体主義体制の国とは言えないにしても、準全体主義体制の国であるとは言えるでしょう。

4月2日付のニュースによれば、「北朝鮮の保健当局幹部は、自国の新型コロナウィルス感染者はいまだに『ゼロ』だと主張している」そうです(笑)。
北朝鮮にしろ支那にしろ、新型コロナウィルス感染症による感染者数や死亡者数について、第二の対策を用いているのだと思います。
ちゃんとカウントしない、あるいは別の病名でカウントするという手法です。

イタリアやスペインの死亡者数が支那のそれを抜いたというのがニュースになりましたが、それは支那政府発表の数字を信じているということを意味します。信じていないなら、ニュースになりませんから。
全体主義国の政府発表の数字を信じている人が多ければ多いほど、同体制の国の、国際世論上の対ウィルス戦は勝利していることになります。
支那の、最近の感染者数・死亡者数の横ばいは、第一の対策よりも、第二の対策が効いている証拠ではないでしょうか。

数年後か十数年後、この度のウィルス禍が本当の意味で検証されることになるでしょう。その時、現在の北朝鮮や支那発表の数字がいかに嘘であるかが暴露されることになるだろうと思います。

(1)https://www.bbc.com/japanese/51829500
(2)全体主義や独裁主義ではなく、権威主義体制という言葉を用いている記事を見かけますが、それは筆者が左翼である証拠です。権威主義という言葉で、左翼国家の悪の印象を薄めようとしているのです。