日本に「極右」などいない

1.右翼と極右

現在のアメリカの二大政党は、共和党と民主党です。共和党=右派=保守、民主党=左派=リベラルとされています。

欧米では、右派は二種類に分けられるでしょう。保守・右翼と極右です。
米欧その他の、現代民主主義国においては、自由や民主主義が実施されています。それらが保障されている限り、その枠内で、つまり非暴力的に、言論や出版を通じて、自己の主張を実現しようとするのが保守・右翼です。
それに対して、自由が保障されているにも拘らず、暴力をもってしても自己の主張を成就しようとするのが極右です。

2.日本の極右?

ところで、今日の日本に極右はいるでしょうか。
日本は自由主義国であり、自由が保障されています。それにもかかわらず、少数ではありますが、暴力的に(肉体言語によって)自己の主張を達成しようとする勢力または個人がいます。右翼と呼ばれる人たちです。

図書館や書店に行けば分かりますが、欧米で「極右」に相当する勢力は、日本では「右翼」と呼ばれています。すなわち、欧米の極右=日本の右翼です。
日本の右派は、保守と右翼の二種類です。なのでわが国には、いわゆる極右はいません。

戦後の日本における保守と右翼を代表する人物を各々挙げましょう。
前者に相当するのが福田恒存氏であり、後者に相当するのが野村秋介氏です。
野村氏(1935-1993)は、1963年7月15日に河野一郎邸焼き討ち事件、1977年3月3日経団連襲撃事件を起こし、1993年10月20日朝日新聞東京本社で拳銃自殺をした正真正銘の右翼です。

別の、もっと有名な人物の例を挙げましょう。
いくら過激な発言をするといっても、言論によって自己の主張を行う石原慎太郎氏は保守です。一方、1970年11月25日陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地を訪問し、東部方面総監を人質に、自衛隊員に決起を促す演説を行い、駄目だと判断するや割腹自殺を遂げた三島由紀夫氏は右翼当たります。

3.安倍首相は極右か

たとえば、ネット上に「総選挙・自民党の極右候補者リスト『ウヨミシュラン』発表!日本を戦前に引き戻そうとしているのはこいつらだ!」という記事があります(注)。
2017年10月22日の総選挙前の記事ですが、そこで挙げられているのは、安倍晋三首相や菅義偉、荻生田光一、稲田朋美、古屋圭司、城内実、高市早苗、二階俊博、麻生太郎、杉田水脈氏など何れも自民党の衆議院議員です。
安倍氏等は、「自民党の極右候補者」だとされていますが、では彼らは右翼の野村秋介氏や三島由紀夫氏よりも、もっと政治的に右寄りなのでしょうか?
まさか。

国会議員は自由や民主主義の枠内で戦う人たちです。だから、彼らは極右ではありえません。先に、欧米の極右は日本では右翼に相当すると述べましたが、安倍氏等は右翼ですらなく、ただの保守政治家にすぎません。

4.なぜ保守政治家が「極右」だとされるのか

安倍首相たちは保守です。それなのに、なぜ極右のレッテルを貼られるのでしょうか。
極右のレッテルを貼る者たちが左翼だからです。そして、左派は右翼という言葉が喚起する負のイメージを利用して、保守政治家たちを実体よりも悪く印象付けるため、右翼に極をつけて極右と呼んでいるのです。

欧州でもメディアは左派が牛耳っているため、議会制民主主義の範囲内で戦う保守・右翼の中にも、極右のレッテルを貼られる政党が見受けられます。また、横文字を縦にするだけのジャーナリストが多いし、彼らが欧州で使用されている語を、そのまま日本でも使っている。だから、保守、右翼、極右の区別が混乱するのです。

「ウヨミシュラン」の記事の筆者は暴力肯定論者ではないだろうとは思いますが、言論で戦う保守政治家が極右なら、この筆者だって言論で戦っているのですから、極左だということになります。そんなことさえ考えずに、記事を書き飛ばしている!

それにしても、「日本を戦前に引き戻そうとしているのはこいつらだ!」とは。社会(政治)認識がズレ過ぎていないでしょうか。
自分の政治的立場に都合が良いように、言葉を恣意的に使う人は、知的な暴力主義者だと言ってさしつかえないと思います。

(注)https://lite-ra.com/2017/10/post-3531.html