マスメディアは二度間違えた

1.戦前と戦後

戦前、政府・軍は判断を誤りました。
ドイツ、イタリアと軍事同盟を結び、アメリカを中心とする連合国との戦争を決断しました。その結果、多くの兵士たちは、各地で戦死することになりましたし、銃後の国民は空襲で逃げ惑い、あるいは焼夷弾や原爆で焼かれることになりました。大東亜戦争における戦没者は、三百万人余りに上ります。
新聞は政府と協調し、戦意高揚を煽り、国民を戦争に駆り立てました。戦前、政府のみならず、マスメディアも間違えました。

政府と歩調を合わせて失敗したマスメディアは、それに懲りて、戦後は反権力とか権力監視を標榜するようになりました。当時自由・資本主義体制は何れ社会・共産主義体制に取って代わられるという予想が通用していました。
そういう中で、政府は自由主義体制を選択したのに対し、マスメディアは社会主義体制寄りの報道や言論を行いました。

しかし、マスメディアや知識人たちの予想に反して、その後資本主義国は経済的に発展する一方、社会主義国は政治的経済的に停滞し、あるいは行き詰まりました。結局、ベルリンの壁崩壊とソ連邦の解体により、体制選択における社会主義の敗北が明確になりました。

細かいことを言えば、何れも間違いは沢山おかしていますが、大局的に見れば、戦前戦後を通じて、政府・軍は一度しか間違えていないのに、マスメディアは二度間違えました。
前者は一勝一敗ですが、後者は0勝二敗です。

2.マスメディアは三度目の間違いをおかしている

そして今、マスメディアは三度目の間違いをおかそうと、いいえ、現におかしています。
冷戦時代、社会・共産主義寄りの言説を行っていた多くのマスメディアや知識人たちは、冷戦後徐々にリベラルへ転向して行きました。そして、現在彼らはリベラル派に宗旨替えし、その旗を振っています。
リベラル・イデオロギーは現在流行の進歩主義思想であり、冷戦時代のマルクス主義同様、その矛盾が徐々に膨れ上がり、何れ破綻するでしょう。もっとも、それが何十年後になるかは分かりませんが。
彼らは、三度目の間違いを驀進中です。

3.マスメディアと大衆

マスメディアと大衆が各々、支持するか支持しないかという観点から分類した場合、政府は四つに分けられるでしょう。
マスメディアも大衆も共に支持する政府、マスメディアは支持するけれども、大衆は支持しない政府、マスメディアは支持しないけれども、大衆は支持する政府、マスメディアも大衆も共に支持しない政府です。
何れの政府が国民にとって望ましく、何れの政府が望ましくないでしょうか。

第一。マスメディアも大衆も共に支持する政府は、とりわけ両者が熱狂する政府は危険です。ドイツのヒトラー政権や先の大戦開戦前のわが国はそのようなものだったでしょう。
宗教団体の信者はその新聞を、共産主義党派の支持者はその機関紙・誌に書かれてあることを信じて疑いませんが、マスメディアも大衆も支持する政府とは、それら宗教や政治団体と信者や支持者が丸ごと国家を形成しているようなものでしょう。

第二。マスメディアは支持するけれども、大衆は支持しない政府も余り好ましくありません。
「悪夢のような」民主党政権成立前とその政権初期はそのようなものでした。
マスメディアは、民主党を贔屓にするような、一方、自民党を政権から追い落とすような報道や言論を行いました。
大衆の支持がなければ、民主党政権はありえなかったと反論する人もあるかもしれません。しかし、多数派メディアが過度に民主党寄りの報道をしたから、有権者も惑わされて、同党に投票したと考えるべきでしょう。

ところで、共産主義国のメディアは国営ですが、そこでのメディアと大衆と政府の関係をどう考えるべきでしょうか。共産国の政府は、マスメディアも大衆も共に支持する政府なのでしょうか、それともマスメディアは支持するけれども、大衆は支持しない政府なのでしょうか。
共産国では、大衆はメディアの報道や論評の正しさを信じていたのでしょうか、それともそれに異議を申し立てれば、強制収容所送りになる等の恐怖のために、報道や論評を信じている振りをしていたのでしょうか。
革命初期には前者だったのが、次第に幻想から覚めて、後者になっていったのではないでしょうか。

第三。マスメディアは支持しないけれども、大衆は支持する政府です。
現在私たちが目にしているのは、そのような政府です。日本の安倍晋三首相もアメリカのトランプ大統領も、多数派の進歩的メディアから毛嫌いされています。しかし、大衆の支持は意外に根強い。国民にとって、マスメディアは支持しないけれども、大衆は支持するという政府の下での生活が、一番幸福なのではないでしょうか。

第四。マスメディアも大衆も共に支持しない政府です。
そのような政府は民主主義国では長続きしません。なので、そのような政府のことは余り心配する必要はないでしょう。
もっとも、そのような政府は第一の政府よりも国民にとっては良い政府であり、ひょっとすると、第二の政府よりも増しかもしれません。

結論を述べるなら、マスメディアからでも知識人からでもなく、大衆から支持される政府が、最も良い政府です。

「死の商人」という言葉があります。
『広辞苑』(第二版)によれば、「軍需品を製造・販売して巨利を得る大資本をさしていう語」とあります。
もう一つの死の商人=マスメディアは、間違った報道や言論を「製造・販売して」、国民を酷い目に遭わせる「大資本さしていう語」、と定義できるでしょう。

二度あることは三度あります。
戦前、冷戦時代、冷戦後、マスメディアは、間違えてばかりです。いまや、0勝三敗です。
大衆は自らの判断を信じ、マスメディアや知識人の言うことは、話四!半分に聞いていた方がいい。
彼らの指し示す方向へ突っ走ったら、ろくな事にはなりません。