カノン

1980年頃、東京・池袋の下宿にいた時、隣のアパートからある音楽がたびたび聴こえてきました。当時はまだCDもありませんでしたし、レコード盤をかけていたのでしょう。何度も同じ曲がかかっていました。聴いているうちに、最初は音だったのが、次第に旋律に変わって行きました。
後に分かったのは、それがヨハン・パッヘルベルのカノンという楽曲だということです。

ヨハン・パッヘルベル(1653-1706)は、「トッカータとフーガ ニ短調」、「G線上のアリア」、「主よ、人の望みの喜びよ」などで有名な、音楽の父と称されるヨハン・クリスチャン・バッハ(1685-1750)よりも少し前の時代の作曲家です。

神保璟一郎氏の『クラッシック音楽鑑賞事典』(講談社学術文庫)には、J・S・バッハ以前の作曲家としては、ブクステフーデ、コレリ(コレッリ)、パーセル、クープラン、ヴィヴァルディ、テレマン、ラモー、スカルラッティ、タルティーニの項目はありますが、パッヘルベルのはありません。

音楽の専門家はいわゆる玄人好みの曲を、たとえば演奏家は弾くのが難しい曲を評価するのかもしれません。が、私たち素人にとって重要なのは、聴いて心地よいかどうかです。

11月4日公開の投稿で引用しましたが、新聞でインタビュアーの「『良い曲』とは?」との問いに、ミュージシャンの小田和正氏は「『シンプルで飽きない』っていう一言かもしれない」と答えています。
童謡「ぞうさん」を作曲したのは団伊玖磨氏ですが、そのような単純な名曲を作れるのは才能がある証拠でしょう。

音楽史は、パッヘルベルのカノンを超えようとして、ついに超えられない歴史ではないでしょうか。

【いけまこ・かたえくぼ】
朝日新聞には、悪名高き社説や読者投稿「声」欄がありますが、それらと同じ「オピニオン&フォーラム」の頁に「かたえくぼ」というコーナーがあります。12月3日付は次のようなものでした。

かたえくぼ

『面接』

黒を白と言えますか?
一国家公務員採用試験

(練馬・邦ちゃん)

それに応じて、私も一つ

『面接』

白を黒と言えますか?
一左派メディア採用試験

(いけまこ)

(同じことを、誰かが言っているかもしれませんけど)