1.左翼は日米安保条約に反対だった
冷戦時代、日本社会党にしろ共産党にしろ、左翼は日米安保条約に反対でした。彼らにとって、社会主義は平和勢力であり、資本主義は戦争勢力でした。そして、日本もアメリカも資本主義国でした。だから、彼らは日米安保に反対でした。
もっとも、その間「社会主義は平和勢力」との認識を裏切る事態も、少なからず発生しました。
1989年のベルリンの壁崩壊、1991年のソ連邦解体により、体制選択における社会・共産主義の敗北が明らかになりました。
1994年7月、日本社会党委員長村山富一氏は、従来の党の主張をひっくり返し、日米安保条約の堅持、自衛隊合憲を表明しました。
その後、多くの社会主義者たちはリベラルへ転向して行きます(社会党のほぼ消滅)。その結果、今日左翼の多数派にして主流派はリベラルです。社会・共産主義者は左翼の少数派に転落しました。
2.リベラルは日米安保に賛成だけれど・・・・
社会・共産主義者とは違って、リベラルは一応日米安保条約には賛成の立場です。その点では一歩前進なのですが、その内実はどうでしょうか。
リベラルの安全保障観をもっとも的確に表しているのが、8月4日付朝日新聞の社説「日米安保を考える 9条との両立に価値がある」です。
題名を見て分かるように、リベラルは日米安保と憲法九条の両立を求めています。一方、保守は日米安保と同九条改正の両立を切望しています。要するに、リベラルは日米同盟現状維持の立場ですが、保守はその強化ないし深化の立場です。
3.片務的か双務的か
日米安保条約に関する左翼と保守の総論は以上の通りですが、各論はどうでしょうか。
同社説には、「『片務的』という誤解」という小見出しがあります。
「日本が攻撃されたら、我々は第3次世界大戦を戦う。しかし、我々が攻撃されても日本は我々を助ける必要はない。彼らができるのは攻撃をソニーのテレビで見ることだ」
とのトランプ大統領の発言に対して、
「氏の見方は一面的であり、受け入れがたい。日米安保は両国の利益だけでなく、地域と国際社会の安定に大きく寄与している。(中略)日米安保条約は、第5条で米国に日本防衛の義務を課し、第6条で日本に米軍への基地提供を義務づけた。(中略)米国だけが義務を負う片務的な条約という考え方は、まったくの誤解にほかならない」
トランプ大統領の主張は、「まったくの誤解」ではありません。
また、私だって「米国だけが義務を負う」から今批判しているわけではありません。日米の負う義務に懸隔があるから、片務的だと言っているのです。
もし日本有事の際に、米国が「日本防衛の義務を」はたす一方、自衛隊の犠牲が米軍よりはるかに少なかった場合、どうでしょうか。あるいは、アメリカ有事の際に、日本が米国を助けなかったら?
日米同盟は終わります。
日英同盟の破綻の原因は、第一次世界大戦における同盟国日本の貢献・犠牲の少なさにあります(「同盟国の義務、あるいは両大戦の教訓について」)。
日米同盟をより長期的に維持するためには、より双務的なものに改めて行く必要があります。
4.専守防衛に賛成か反対か
また、次のようにも書いています。
「日本が9条の下で専守防衛を堅持し、非対称であっても、米国と適切な役割分担を図っていくことには、大きな意味がある」
米国の大統領が「適切な役割分担」ではないと言っているのに・・・・
それはともかく、専守防衛というのは、安全保障政策として国際的に通用するものなのでしょうか。
「専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいいます」(1)
ウィキペディアには、次のような記述があります。
「防衛上の必要があっても相手国に先制攻撃を行わず、侵攻してきた敵を自国の領域において軍事力(防衛力)を以って撃退する方針のこと。(中略)相手国の根拠地への攻撃(戦略攻勢)を行わないこと」(2)
敵がミサイルをわが国に向けて発射しても、その基地を叩けないということです。
「このため、有事において日本を防衛できない危険が指摘されている」(3)
当然でしょう。
要するに、専守防衛とは、「日本の政治状況から生み出された独特の防衛構想であり、軍事的な合理性よりも、憲法など内政上の要請をより強く反映いたものである」(4)。
ガラパゴスな国防戦略ということでしょう。
5.有志連合に不参加か参加か
同社説は言っています。
「トランプ政権はいま、中東で船舶の航行の安全を確保するための『有志連合』への参加を日本に求めている。(中略)
日本政府が、従来のような発想で米国を引き留めることを優先させ、誤った政策判断をくださないよう強く求める」
長期的には、日本は自国で自国を守る体制を作るべきでしょう。有志連合への参加はそのための練習になります。練習をし、自国で自国を守る体制を作らなければ、いつまで経っても「従来のような発想で米国を引き留めることを優先させ」ることになります。
5.支那問題
最後に支那について触れましょう。
社説は次のように言います。
「日米安保がいま直面するのは、急速な軍事力拡大と強引な海洋進出を続ける中国である。
そこで重要なのは、中国をことさら敵視し、緊張を高めることではない。軍事に偏重せず、日米安保と9条との両立を図りながら、地道な近隣外交のうえに地域の安定を築くことが日本の利益となるはずだ」
「地道な近隣外交のうえに地域の安定を築く」とは具体的にどのような策をとることなのでしょうか。あるいは、それを実施すれば、「急速な軍事力拡大と強引な海洋進出を続ける中国」を抑制することができるのでしょうか。
肝心なところになると、途端に曖昧になるのは朝日新聞社説の特徴です。論説委員氏の無策振りを良く表しています。
策もないのに、「日本の利益となるはずだ」は無責任でしょう。
7.何をなすべきか
日本は何をなすべきでしょうか。
朝日新聞の主張とは反対の政策を実施すれば大方間違いないと揶揄されますが(笑)、片務的である日米安保を双務的なものに改め、専守防衛というナンセンスを放棄し、中東での有志連合に参加等をなすべきでしょう。
要するに、日本は、憲法を改正して、戦争のできる(戦える)国になるべきです。戦争のできる国になることが、ひいては戦争自体や某国による侵略を抑止することにつながります。
それが、わが国の進むべき道だと思います。
【注】
(1)防衛省・自衛隊:防衛政策の基本
(2)ウィキペディア 専守防衛
(3)同上
(4)コトバンク 専守防衛