朝日新聞の、8月21日付「オピニオン&フォーラム」欄のテーマは、「ネット言論を見つめる」でした。
そこに文化人三氏が登場していて、内二名が寄稿をよせ、一名がインタビューを受けています。寄稿した一人、香山リカ氏は書いています。
「実は最近、ネットの巨大匿名掲示板の5ちゃんねる(旧・2ちゃんねる)で画期的なできごとがあった。そこに集う人たちが、動画サイト『ユーチューブ』に韓国や中国への差別煽動主義的な内容の映像があふれていることに気づき、管理者に報告するように呼びかけ、3カ月でなんと50万本近い動画が規約違反として削除されたのだ。
その取り組みに参加している匿名の若者たちは、その問題に自分で気づき、お互いに知識を授けあい、瞬く間にヘイトスピーチについて正しい知識を身につけ、『これを後の世代に残すわけにはいかない』という合意に至った。『教えてあげよう』ではなく、自ら気づいて『なんとかしたい』と考える複数の人たちが同時多発的に現れれば、ネット言論の空間は爆発的に変わる可能性を秘めている」。
当然次のような疑問がわきます。
「韓国や中国への差別煽動主義的な内容の映像が、(中略)50万本近い動画が規約違反で削除された」とのことですが、その中に一本も「冤罪」はなかったのだろうかということです。
確かに、見るのも聞くのも不愉快で、下品な動画が殆んどだったのかもしれません。しかし、例外はなかったのでしょうか。
3カ月で約50万本とのことですが、日割り計算すれば一日5555本余り、一日は二十四時間で計千四百四十分ですから、一分間に3、4本のペースです。「管理者」は、その一つ一つに目を通し、削除したのでしょうか。あるいは、そこに判断ミスはなかったのでしょうか。
香山氏は、100%判断ミスはないと考えているのでしょうか、それとも、たとえわずかばかりの無実の動画があるにしても、規約違反の動画を削除することの方が大事だと考えているのでしょうか。
彼女の思想傾向から推測するなら、数本の無実の動画があるかもしれない以上、数多くの動画を「瞬く間」に削除するのは、不適切であり、かつ表現の自由に反すると発言しても良さそうなものです。
たぶん、香山氏の本音はこうでしょう。
左派の動画なら無実なものが一本もあってはならないが、右派のそれなら少々濡れ衣があっても構わない。
「私はあなたの意見には反対だ。だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」と言ったとされるヴォルテールとは相違して、「私はあなたの意見には反対だ。だからあなたがそれを主張する権利は認めない」という左派の遣り口を、そのメンバーである彼女は奨揚しているだけなのでしょう。
左派には「冤罪の自由」という特権が認められて良い、そう考えているとしか、解釈のしようがありません。
【読書から】
「何十年も前『古事記』を読んでいて気づいた。皇祖神たちは初めから日本語を話している。ああ、皇祖神より日本語の方が先なのだと知った。」(呉智英、『週刊ポスト』2018年9月7日号、46頁)